マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

北北西に進路を取れ~映画解説者として②

2009年04月26日 | 映画
 某公共施設の映画上映館からの解説の依頼作品がアルフレッド・ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』だった。

 アルフレッド・ヒッチコックの作品は、ほとんど見ている。ヒッチコック監督の独特で人の心を掴みこむタッチは、現代のサスペンス映画全ての礎になっている。「サスペンスの神様」と称されて当然だと思う。

 ヒッチコック作品のベスト3を上げろと言われたら、私はドリス・ディ、ジェームズ・スチュアート主演の『知りすぎた男』、キム・ノヴァック、ジェームズ・スチュアート主演の『めまい』、アンソニー・パーキンス主演の『サイコ』になるだろう。

 そして、4番目に好きな作品がケーリー・グランド主演のこの『北北西に進路を取れ』である。

 ヒッチコック監督作品の大きなテーマに、「市井の善人がいつのまにか犯罪者に間違えられて、命まで狙われるてしまう」という強烈な流れがある。

 どこにでもいるような普通の人が事件に巻き込まれていくので、見る側はそれを自分に置き換えて、さらに一層ドキドキ感や恐怖感が増してくる。

 『北北西に進路を取れ』の主人公も広告マンでありながら、いつのまにかスパイに間違われて、命を狙われ、追い詰められていく。

 2時間15分の長編であるが、ストーリーの展開に全く無駄がなく、綿密に練られた脚本の巧みさにも驚嘆のしっぱなし。

 何よりも、アルフレッド・ヒッチコック監督は類まれなブロンドの美女がお好きな監督でもある。キム・ノヴァック、ティッピ・ヘドレン、グレース・ケリー、ジョーン・フォンテインなどなど。

 『北北西に進路を取れ』では、最高に綺麗だった頃のエヴァ・マリー・セイントが出演している。

 太っちょで、ちょっとコミカルなおじ様のヒッチコック監督であるが、女性の美を探求し開花させる力には敬服である。

 1959年度の作品なのに、横溢する現代の刺激の強いサスペンス映画にはない、落ち着きと上品さを兼ね備えている。

 孔子の言葉に「温故知新」がある。「故きを温ねて新しきを知る」。そんな孔子の深い言葉が頭に浮かんだ。


原題 : North by Northwest
製作年 : 1959年
製作国 : アメリカ
配給 : MGM配給


出演 ケーリー・グラント
  エヴァ・マリー・セイント  
  ジェームズ・メイソン
  ジェシー・ロイス・ランディス
  レオ・G・キャロル


グラン・トリノ

2009年04月15日 | 映画
何だろう?この強烈な余韻…。

試写を拝見してから、すでに3ヶ月もたつ。それなのに、1日に1度は必ずと言っていいほど、クリント・イーストウッド演じる元軍人ウォルトの言葉や、玄関のポーチでロッキングチェアに揺られ、ビールを飲みながら、アジア系移民の街を眺める姿が頭に浮かばない日がない。


半世紀も生きてきて、映画によってここまで自分の心が占められたことは、初めてかもしれない。

そして、もしかしたら、この感動と余韻は生涯1度しか味わうことができないほど、貴重で崇高なものかもしれない。

 そんなことを常に思っていたら、数週間前の「週刊文春」で作家の小林信彦さんが、私と同じことを思っているのを発見した。

「この映画を見れて、生きていてよかった」というような内容だ。

       まさに、これである!

私も『グラン・トリノ』を見れて、本当に生きていて良かった!

あまりにも感動が深いと言葉に表現しにくくなる。形容詞で飾った文章など頭に浮かばない。真の感動とは実はそういうものなのだろう。

ただただ、78歳というご高齢になっても、さらにパワーアップし、映画文化に貢献してくれる偉大な映画人・クリント・イーストウッド監督と、『グラン・トリノ』に関わったスタッフと出演者に感謝するのみ!


グラン・トリノ公式サイト

監督  クリント・イーストウッド
出演 クリント・イーストウッド、コリー・ハードリクト、ブライアン・ヘイリー、ブライアン・ホウ、ジェラルディン・ヒューズ、ドリーマ・ウォーカー、ビー・ヴァン


2009年4月25日より丸の内ピカデリーほか全国にて公開


「三匹の侍」~映画解説者として①

2009年04月11日 | 映画
 


 某公共施設で開催されている映画上映会の解説者を依頼された。

 視聴者はご年配の方ばかりなので、リクエストされた映画は、なんと1964年公開の『三匹の侍』だった。

 『三匹の侍』と言えば、私の子供の頃、大ヒットしたフジテレビ放映の時代劇である。それが映画化され、監督はテレビと同じ五社英雄。主役の三匹は丹波哲郎、長門勇、平幹二朗。

 かなり大昔の作品なので、解説者としての責任でもう一度DVDを見た。96分のモノクロの時代劇であるが、さすが五社英雄監督。テレビよりも、より濃厚に斬新なタッチで三匹の侍を描いていた。


オープニングのシーンでは、黒澤明監督の『七人の侍』がダブった。五社監督もまた黒澤明に影響された日本の監督なのではないかと思った。黒澤作品に五社監督流のエロスの香りと甘美な残虐性が加味されていて、実にいい味の作品に仕上がっていた。


 内容は「善と悪」。時代劇の主流のテーマである。『三匹の侍』では、善が百姓で悪がお代官さま。今ではフラットなストーリーでも、45年前にこの作品が作られたことに驚嘆した。

 大ヒットしたテレビドラマを映画化することは、今の映画界では当たり前のことになっているが、当時ではかなり画期的な試みだったと思う。

 解説者にならなければ、見落とす作品であった。視聴者のリクエストしてくる作品は、自分が知らなかった分野にまで視野を広げてくれ、勉強させてくれる。

 何よりも上映館で、ご年配の視聴者の方たちの映画を楽しむ生き生きとした表情を見れるのも最高の喜びである。

 活字で映画を表現するのもいいけど、視聴者にフェイストゥフェイスで映画を語ることも、生のライブ感があって、とても楽しい仕事だと実感した。

 次回の作品が何になるのか楽しみだ。

製作: 1964年 日
監督: 五社英雄
出演: 丹波哲郎 / 平幹二朗 / 長門勇 / 桑野みゆき / 香山美子 / 藤原釜足