マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『英国王のスピーチ』『ザ・ファイター』『ブラック・スワン』

2011年02月10日 | 映画

2月に入ってからベトナム取材の膨大な原稿に追われ、全く試写に行く時間がなかった。なんとか無事に入稿も済み、ウキウキしながら見たかった試写を立て続けで見た。

そこで、アメリカアカデミー賞の発表が近づいているので、ミーハーであるが、ノミネート作品にターゲットを絞って感想を書いてみた。

                 『英国王のスピーチ』

 現在のエリザベス女王の父・ジョージ6世が吃音であったことなど知らなかった。それよりも、こういった王室の秘密を堂々と映画化し、アカデミー賞最多12部門までにノミネートさせてしまうイギリス映画のリベラルな姿勢とパワーにはもっと驚嘆してしまった。風通しの悪い日本の皇室では絶対に作れない作品だ。

 吃音のキングジョージ6世を演じるのはコリン・ファース。それを支える妻役にヘレナ・ボナム・カーター、ジョージ6世の吃音を治すセラピストにジェフリー・ラッシュ。この演技派の俳優陣が出演するということだけで、すでに傑作への準備はそろっていた。

 コンセプトは、簡単に言えば、コンプレックスで臆病になっていた人間は、人の愛情と協力によって、必ずそれを克服できるということだろう。キングジョージ6世のコンプレックスが、世界中に生きる一般庶民のコンプレックスと何ら違わいことに、見る側は安心するのだ。国王の苦悩に共感し、その人間臭さに惹かれ、庶民と国王の距離感がどんどんと縮まっていく。

国王であれ、普通の人なのである。

この展開が視聴者の心を鷲づかみにし、大きな感動を与えるのだ。

吃音から立ち直り、王として「ヒットラー政権のドイツとの開戦の報告」を、国民に向けて、そつなくできたスピーチの裏側には、こんな事情があったのかと、新しい発見をもあった。

何よりも、ジェフリー・ラッシュの枯れた渋い演技が、この物語にクリーミーでまろやかな甘味料を加えている。

上記の3作の中では、そのノミネートの数に比例して、なるほどとうなるほど、好感度抜群の作品だった。

2月26日から公開

 監督:トム・フーパー

出演:コリン・ファース、ヘレナ・ボナム= カーター、ジェフリー・ラッシュ

                      

                   『ザ・ファイター』

 ボクサーの物語で思い出すのが、超古きは、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたに、カーク・ダグラス主演の往年の作品『チャンピョン』と、ロバート・デ・ニーロが見事に主演男優賞を獲得した『レイジング・ブル』である。

 こう辿っていくと、、ボクシングを扱った作品は、かなりの頻度でアカデミー賞にノミネートされている。アメリカ人はボクシングが大好きだということかもしれない。

 『ザ・ファイター』もその流れに乗って、アカデミー賞6部門のノミネートされた。実を言うと、ストーリーはそれほど面白いとは言えなかった。過去に栄光を掴んだボクサーだが、今では落ちぶれてヤク中になってしまった兄役をクリスチャン・ベール。その弟で兄の雪辱を晴らすために、リングに挑戦する弟役にマーク・ウォールバーグが扮している。

実話に基く物語なのだが、感動的に描けば描くほど、その押し付けがましさに、妙に気分は冷めていく。唯一、救いと言えば、あの「バットマンリターンズ」「ダークナイト」で私を虜にしてくれた実力派のクリスチャン・ベールが13キロの減量に成功し、スクリーンに現れた瞬間、どこの誰だかわからなかった点だろう。

 ハリウッドはこういった俳優の血と汗と涙の努力の結晶ともなる役作りが大好きなので、作品賞は無理でも、ひょっとするとクリスチャン・ベールは助演男優賞に輝くかもしれない。

 3月26日から公開

監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:マーク・ウォールバーグ クリスチャン・ベール エイミー・アダムス メリッサ・レオ

 

                    『ブラック・スワン』

 ミッキー・ローク主演の『レスラー』で、ダーレン・アロノフスキー監督の力に注目していた。彼の次作がナタリー・ポートマン主演のこの『ブラック・スワン』だ。この作品もアカデミー賞主要5部門にノミネートされている。

 舞台はニューヨークのバレエ団。チャイコフスキーの「白鳥の湖」のプリマの座を争うバレリーナたちの闘いに打ち勝ち、主役に抜擢されたのが、ニナ演じるナタリー・ポートマンだ。

 抜擢されたものの、ニナはそのプレッシャーと過酷なレッスンから、徐々に精神を病んでいく。パラノイア状態に陥ったニナは、現実と想像の世界が混濁し、実生活に適応できなくなっていく。

 パラノイアの一環で、実際は生真面目で純真な女性だったはずのニナがセックスに耽溺するシーンには生唾が出た。この淫らさ、この異常な官能の美。素晴らしい!

 もしナタリー・ポートマンが主演女優賞に輝くことができるのなら、このシーンが過分に加味されているからだと思う。

 ストーリーそのものは、一種のサイコホラーで月並みなものであったが、ナタリー・ポートマンという女優の渾身の演技だけを見るだけも十分価値がある。

5月から公開

監督:ダーレン・アロノフスキー

出演:ナタリー・ポートマン、 ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー