マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

パッセンジャーズ

2008年12月27日 | 映画
 

 「彼女を見ればわかること」「美しい人」で、ロドリゴ・ガルシア監督の虜になった私だ。

 この2作は、女性の深層心理を見事に抉り出した超エクセレントなオムニバス映画だった。2作品に共通して出演するホリー・ハンター、グレン・グローズが演じた女性たちの孤独感は、どの作品にも比類がなく、従来の女性映画に奇跡が起きたと言っても過言ではない。

 ロドリゴ監督のお父上は、コロンビアのノーベル文学賞作家・ガルシア・マルケスだ。今から30年前、アジア・アフリカ作家会議の事務局員をしていた時、ガルシア・マルケスに出会った。「百年の孤独」は難解ながらも一生懸命に読んだ。

 ロドリゴ監督にも、お父上の血が流れているのだろう。映像作家として、確かに父上のガルシア・マルケスを踏襲している。

 彼の次作が来年の3月公開予定の「パッセンジャーズ」である。私は初めてオムニバス映画ではない、ロドリゴ監督の長編作の試写を見た。

 飛行機事故で奇跡的に生き残った5人の乗客。その心をケアするセラピスト役がアン・ハサウェイ。

 もうこの先は書かない。書いてしまったら、この作品を見る楽しみも意義もなくなってしまう。

 ただ一言。見終えた後、この作品もまた、まさに映画に奇跡が起こったような崇高なる人間の「運命」の物語だと、感じるだろう。

 アン・ハサウェイの一皮むけた演技、脇に回った「ブロードウェイと銃弾」でオスカー女優に輝いたダイアン・ウィーストの不気味な演技。この新旧名女優の繊細な熱演に息をも呑む。

 今年見た試写全作品の中で、震えるほど大感動し、いつまでも余韻に浸れる稀有な1本になってくれた。

 

 パッセンジャーズ公式サイト

 2009年3月公開予定

配給 ショウゲート

監督 : ロドリゴ・ガルシア
出演 : アン・ハサウェイ 、 ダイアン・ウィースト、パトリック・ウィルソン 、 デヴィッド・モース 、 クレア・デュバル




ワールド・オブ・ライズ

2008年12月07日 | 映画
「ブラッドダイヤモンド」から早1年。またも硬派なレオナルド・ディカプリオが戻ってきた。

ディカプリオ演じるのがCIAの機密スパイ。世界破壊を企てる爆破テロ組織のリーダーをとっ捕まえるのが彼の任務である。

中東のイライラ戦争(イランイラク戦争)、イラク戦争、アラブ問題が背景なので、よく勉強していないと難解な点が多々あった。見終えた後に資料を引っ張り出して、アラブ・パレスチナ、アルカイダの歴史などを勉強させてもらった。映画の醍醐味である。

アメリカの巧妙なテロ組織への撲滅方法が開発されると、即座にテロ組織はそれを阻止するための巧妙な方法を作り出す。

新ウィルスが発見されると、新しい抗生物質が開発されるのと似ている。テロとの戦いはこうやって永久に続いていくのだろうか。

『ワールド・オブ・ライズ』が、従来のテロ問題を扱った作品と一線を画している点が2点あった。

1つは、いかなる巧妙なハイテクノロジーやインターネットテクノロジーを駆使しても、結果、それに立ち向かう方法が、いともあっけなく単純でアナログであったというパラドックス。

2つ目は、タイトルの通り、キーワードは「嘘」なのだが、この程度の丁々発止の「嘘」合戦はそれほど興奮しなかった。が、しかし、結末が予想をはるかに越え、思いがけないドンデン返しに驚嘆した。これは、黒人大統領のオバマさんが登場するのを見込んで作られたのだろうか?アメリカ寄りではない、実に新鮮で斬新なラストだった。

スクリーンに爆裂するディカプリオのアクションさながら、、電話一本だけで命令を下すCIAのベテラン局員を演じる、ちょっとおでぶになったラッセル・クロウのシニカルな演技も、実にいい。

冴えたリドリー・スコット監督のディレクトで、今度こそ、ディカプリオ君、悲願のオスカー像を手にいれてくれればなぁ!


ワールド・オブ・ライズ公式サイト

監督 : リドリー・スコット
原作 : デイビッド・イグネイシアス
脚本 : ウィリアム・モナハン
出演 : レオナルド・ディカプリオ 、 ラッセル・クロウ 、 マーク・ストロング 、 ゴルシフテ・ファラハニ

公開は12月20日

エレジー

2008年12月03日 | 映画
辛い女友達の思い出が甦った。

彼女は30歳の時、勤務先の上司と不倫していた。その蜜月は5年も続いたが、ある日、いともあっけなく、その関係は破綻した。彼女は乳がんに侵され、右乳房を失った。不倫相手の男は、彼女の病気を見舞うことなく、妻の下に戻った。

彼女は女体のシンボルと愛人を1度に失っていた。彼女を捨てた男が今でも憎くてたまらないが、夫を奪われた妻の傷ついた気持ちを考えると、これで良かったのかもしれないとも思った。

いずれにしても、男の身勝手さが産んだ男と女のエレジー(哀歌)であった。

 映画「エレジー」は全く正反対なので救われる。30歳も年下の女と恋に落ちる初老の演劇評論家の男性。彼はかつて離婚し、医者になった一人息子とギクシャクした関係が続いている。

初老といえ、引きずるものは何もない独身男だ。若く、美しく、綺麗な女と関係を持つことに、何の後ろめたさもない。正々堂々と恋をし、「世界一綺麗な乳房」の女の体を優しく慈しむ。

 後に、この美乳がいつしか医学のメスで破壊されていくとは予想だにしなかっただろう。
 
 だが、しかし、女体のシンボルを失った女は、その代償として、掛け替えのない物を手に入れる。

 心が洗われるようなピュアなラブストーリーであり、芳醇な文学の香りが漂う男と女の愛の物語だ。

 初老の孤独な男を『ガンジー』のベン・キングズレーが、恋人役の絶世の美女をペネロペ・クルスが、官能的かつ知性的に熱演する。フィリップ・ロスの原作を脚本家ニコラス・メイヤーが上品に知的に文学的に料理してくれる。

 消えて行く乳房の思い出にと、ベンはペネロペの豊満な乳房を写真に収める。そのシーンのはかなさと美しさ!うっとりしながらも、悲しくて涙が滲む。

 『エレジー』というタイトルの意味の全てが、このシーンに終結する。



エレジー公式サイト


監督:イザベル・コイシェ
原作:フィリップ・ロス

出演:ペネロペ・クルス ベン・キングズレー

1月中公開予定