マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『しあわせの隠れ場所』

2010年02月17日 | 映画
 

 サンドラ・ブロックが最高の演技で大爆裂してくれた。
 
 94年、『スピード』でサンドラ・ブロックという女優とスクリーンで出会ってから、早16年の歳月がたつ。

 この間、サンドラが出演した作品で印象深いのが、ポール・ハギス監督の『クラッシュ』での満たされない人妻役、『あなたが寝ている間に』、そして私が一番大好きな作品が、カーリー・クーリー監督のコメディ作品『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』だ。

 この作品は単なるラブコメでなく、母と娘の確執を実にリアルに描いていた。奔放な娘役のサンドラと頑固な母親役エレン・バースティンの丁々発止のやり取りがとても面白かった。エレンの若い頃を演じたアシュレイ・ジャドの演技も素晴らしく、アシュレイ・ジャッドにとっても最高傑作だったのではないだろうか。


で、『しあわせの隠れ場所』である。

 大金持ちの妻のサンドラは、ある日、ヤク中の母親を持ち、家族と離ればなれになってしまった薄幸の黒人少年を引き取ることにする。彼女は少年を無償の愛で包み、家族の一員として大切に育てていく。

 いつしかその黒人少年が、アメフト全米代表の大スター選手になるのだ。その大スターこそ、マイケル・オアー選手。私は知らなかったが、実在の伝説のスター選手だそうだ。

 こういったストーリーなら、ハリウッド映画にはどこにでもゴロゴロと転がっている。確かに、『しあわせの隠れ場所』も、そんな在り来たりのストーリーだ。絵に描いたようなアメリカンドリームであり、サクセスストーリーなので、作品そのもののクオリティーを言えば、悪くもなければ良くもない、まあまあ、というところが正直な感想である。

 しかし、しかし、しかし…。

 圧倒的な存在感のサンドラ・ブロックが、この在り来たりのストーリーに絶妙なスパイスとエッセンスをばら撒き、大して意味もない出来事に大きな意味を深く持たせ、見る側をこれでもか!これでもか!と、グイグイと引っ張り込んで行くのだ。

 その力は、競馬で言うのなら、ゲートが開い瞬間、脇目も振らずに先頭に立ち、猛スピードでターフを駆け抜け、あっという間にゴールしてしまう超高速牝馬、伝説のテスコガビーのような疾走感であった。

 一人の女優の演技が、普通レベルの作品を映画史上に残すような傑作に変えてしまうこともあるのだと、ただただ感服、感心するのみであった。

 これこそ俳優の生業。これこそ俳優の存在証明である。
 
 この作品は、間違いなく、サンドラ・ブロックの代表作になるに違いない。

 そう確信していたら、サンドラ・ブロックはこの作品で「ゴールデングローブ賞」ドラマ部門で主演女優賞を受賞しているではないか。

 ゴールデン・グローブ賞の審査員たちも、きちんと見てくれているんだと、安心した。


【監督】ジョン・リー・ハンコック
【出演】サンドラ・ブロック、キャシー・ベイツ 、クイントン・アーロン

2010年2月27日より新宿ピカデリーほか全国にて公開


『恋するベーカリー』

2010年02月07日 | 映画
 

 「恋するベーカリー」なんていう甘いタイトルなのだが、実はこの作品ではあまり大きな意味を持ってなかったようだ。

 夫を若い女に取られた熟年の妻役のメリル・ストリープが経営するパン屋さんのシーンは、そこそこ楽しくて美味しそうなのだが、「めざましテレビ」などのスイーツ情報に長けたスイーツ愛好家の女性たちが見ても、さほどの新しい発見は無いかもしれない。

 こういったタイトルにすることによって、より多くの女性ファンを集客しようとする意図が見え見えなのだが、このタイトルで、より多くの女性たちが映画館に足を向けてくれるなら、この作品は別の意味での価値と意義があるので、うれしい。

 原題は「It‘s Complicated」である。

 拙い英語の知識から直訳すると、「複雑だわね」かな。この原題の方が、この作品を深く意図し、的を射ている。

 若い女と再婚した元夫をアレック・ボールドウィンが演じている。若い妻の料理は高たんぱく高脂質の食べ物ばかり。いつの間にか、アレックは二段腹のメタボの巨漢になってしまった。

 このメタボが伏線になり、ある日、アレックは元妻のメリルとセックス関係を持って、復縁してしまう。

 古巣の元女房は、若い女に比べたら、肉体や容姿は劣っているものの、同じように年を重ねているからこそ健康管理に対してはパーフェクトだ。

 メタボになった元夫を自宅に呼んで、塩分や脂質を抑えた食事をご馳走する。実はこのあっさり系の食事が、この二人の今後に大きく関わってくるのだ。

 20代の今妻に熟年の元妻が勝利するこの痛快な瞬間に、劇場で見ているアラフォー、アラフィー、アラカン世代の人妻たちはきっと、溜飲を下げてこう言うだろう。

 「古妻を裏切って、20代の若い女と結婚するとこうなるんだよ!おとつぁんよ!3大成人病で死にたくなけりゃ、古女房を大切にしなよ!」と。

 何度も言うけど、「恋するベーカリー」なんてという、甘いタイトルだが、実は熟年離婚された妻の孤独感や、若い女の下に走ったオッサン年齢の夫たちへの未来への残酷な警鐘を、実にコミカルに描いている。

 さてと。これは、更年期障害に散々悩んだ私だけが気がついたシーンで、若い女性たちは、ややもすると見落とすかもしれない。

 劇中、メリル・ストリープはホットフラッシュ(突然、かーっと体が熱くなる更年期障害の特徴的な症状)に悩まされているらしい。手をウチワ代わりにして、顔に滲む汗をバタバタとはたいているシーンが何度も出てきた。

 ナンシー・マイヤーという女性監督だからこそ描ける貴重でリアルな演出だ。
 汗かきメリルのこのシーンも絶対に見逃してほしくない。

 わたくし自身はすでに更年期障害は克服したものの、同病相哀れむ…。

 もう一丁。

 女は「10年間もセックスしていないと処女に戻る」という真髄をついたセリフ。
 
 うーん。これは同世代の私にとっては、かなり身につまされ、泣けてきた。

 
2月19日から公開

【監督・製作・脚本】 ナンシー・マイヤーズ
【出演】
 メリル・ストリープ
 アレック・ボールドウィン
 スティーヴ・マーティン