マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

ブレイブワン

2007年10月26日 | 映画
 爽やかな復讐劇である。

 恋人と散歩に出かけたDJのエリカ(ジョディ・ファスター)が、3人の暴漢に襲われ、恋人は目の前で殴り殺され、自分までも瀕死の重傷を負う。しかも、その暴漢たちは、はしゃぎながら、その様子を携帯カメラに収めているではないか!

 こんなあくどい憎々しい事件に巻き込まれたら、私だってエリカのように復讐を誓うだろう。そして、人生の全てをかなぐり捨て、3人の暴漢をボコボコ、ズタズタにし、この世から消してやるだろう!

 普通の市井の人が愛する者を奪われたある日を境に、突然殺人者に変貌するまさにその瞬間をジョディ・フォスターが爆竹が弾けたように、激烈に演じている。

 しかし、この作品は従来よくあるリベンジ映画とは一味違う。主人公が復讐を成し遂げた瞬間、いつも味わう解放感やカタルシスともどこか違う。

 古い映画だが、74年に公開された「ダーティハンター」を思い出す。ベトナム帰還兵が狩猟を楽しんでいる。だが、彼らはそれに飽き足らず、いつしか動物から人間に矛先を向け、残虐な人間狩りハンターに変貌する。悲惨な目に合う被害者は可愛い女の子。帰還兵たちに暴行とレイプを繰り返され、精神障害になってしまう。この許されない犯罪に立ち向かい、復讐を誓ったのが父親役のウイリアム・ホールデンだった。

 この映画と「ブレイブワン」はどこか通じる点がある。

 ベトナム戦争によって人格や精神が歪められた帰還兵と、セントラルパークで無軌道に殺人や暴行を繰り返す暴漢たち。時代背景は違えども、荒んでいく社会や世相の歪の中で、蛆虫やゴキブリのように自然発生し、最低極まりない極悪を繰り返す突然変異した犯罪者の色や形の原型は、ほとんど同じなのかも知れない。

 「クライングゲーム」「モナリザ」「インタビュー・ウイズ・バンパイアー」「事の終わり」などなど、私の大好きなアイルランドの監督、ニール・ジョーダンが撮っているのも納得である。ジョーダン監督は今までにないアプローチで現代のニューヨークに生きる人々の心の歪や内在する人間の残虐性を冷静に柔らかく抉り出している。

 復讐劇が実に爽やかに見えたのも、このニール・ジョーダン監督の個性的なディレクトのおかげかもしれない。

監督ニール・ジョーダン
キャスト: ジョディー・フォスター、テレンス・ハワード、
配給  ワーナーブラザース
10月27日(土)、サロンパス ルーブル丸の内他全国ロードショー


ヘアスプレー

2007年10月05日 | 映画
 お腹の底から笑わせてくれる、ミュージカル映画の到来です。

「ヘアスプレー」の映画コラムを協力している女性誌「GRACE(グレース)」(世界文化社)の11月号「いろいろ歳時記 映画」に書きました。

 この映画を見て、つまらなかったという人はいないはず。絶対に見て良かった!と、自信を持ってマリリンがお薦めいたします。

 一見ドタバタ喜劇風に見えますが、黒人差別問題にも踏み込み、一本筋の通った社会派ミュージカルに仕上げている点も素晴らしい!

 チビでオデブだって、ダンスではピカイチの主役の少女・トレーシーを演じているのが、ニッキー・ブロンスキーちゃん。コールドストーンアイスクリーム店のアルバイトの店員さんだったそうです。さすが、無名の新人がスターダムを駆け上がれるのがアメリカンドリーム。なんと1000人のオーデションから抜擢された、実力派の新星です!「ドリームガールズ」のジェニファー・ハドソンを思い出しました。

 脇を固めるミシェル・ファイファー、クリスファー・ウォーケンなどの俳優人の演技も、もちろん素晴らしいですが、マリリンはトレーシーの母親役を演じた、ジョン・トラヴォルタにスポットを当て、楽しいコラムを書いています!

 「GRACE(グレース)」の発売日は10月6日(土)。全国の書店に並んでいますので、是非、立ち読みではなくて、お買い求めていただけると嬉しいです。

どうかよろしくお願いいたしますね。

全くの宣伝でした! 


ヘアスプレー公式サイト http://hairspray.gyao.jp/

監督 アダム・シャンクマン
出演 ジョン・トラヴォルタ、ニッキー・ブロンスキー、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、クィーン・ラティファ、ザック・エフロン、ブリタニー・スノウ、アマンダ・バインズ

2007年10月20日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開

配給 ギャガ・コミュニケーションズ


白い馬の季節

2007年10月04日 | 映画
 「僕、競走馬です。 成績次第の厳しい世界で生きてます」

 草原に座り込んだ一頭のかわいい馬が、こうしゃべる「セゾンカード」のCMにびっくりした。多分、このCMを作った方はかなり競馬に精通した方なんではないだろうか?クレジットカードと競走馬をうまく結びつけていている。斬新な発想で見る人を引きつける。でも、実際に馬は地面に座ることは不可能だと思うけど。

 競走馬も厳しいが、モンゴルの馬も厳しい。

 モンゴルの草原はカンバツ続きで、急速に砂漠化が進み、遊牧民たちの家畜が次々に倒れている。これが、現在のモンゴルの実体であることを知って驚嘆した。そんな遊牧民と馬との強い絆を描いたのが、10月6日から公開される「白い馬の季節」である。

 遊牧民ウルゲン一家はカンバツのために、最愛の息子の学費が払えなくなる。家族の一員であった白い馬を売り、町で暮らそうと妻が言う。しかし、夫ウルゲンは根っからの遊牧民。頑として、それを認めない。

 このストーリーにかなり古い日本映画、山本嘉次郎監督、高峰秀子主演の「馬」をダブらせる往年の映画ファンもいるだろう。馬と農民の関係を描いた秀作であった。

 政府の命令で牧草地に柵が張られ、ついに、遊牧民として生きれれなくなったウルゲンは、泣き泣き白い馬を売り、町に出る。

 自然と共に生きる人々の、その大切な自然が目の前から奪われていく悲しさと寂しさが、画面いっぱいに広がる。

 ラストは馬と人が乾いたアスファルトの一本の道路で繋がる。哀感がほんのりと漂い、涙が誘われる見事なエンディングである。

 競走馬もモンゴルの白い馬も、厳しい世界で生きているのは変わりない。


公式サイト http://www.shiroiuma.jp/
監督・脚本・出演 : ニンツァイ
出演 : ナーレンホア 、 チャン・ランティエン
公開 10月6日 岩波ホール