マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『クレアモントホテル』

2010年11月28日 | 映画

         

 

     老後を考える年になってしまったのか…。 せこい話だが、最近、夫の厚生年金額や自分の国民年金額が気になってしょうがない。誕生日月に送付されてくる年金定期便を綿密にチェックしている自分がイタイ。

30代、40代の頃なんて、全くそんなことが気にならなかった。50代になった途端、こうなるんだから、50代こそ、本当の意味で人生のターニングポイントなのかもしれない。

  目を背けたいが、背けることができない、近い未来に迫った老後。 健康とある程度のお金がなければ不安は尽きない。

 近所のクリーニングのおばーちゃんに「老後っていったいいくらあればいいのかね?」と、尋ねると、「ま、片手くらいあれば大丈夫だよ」と言っていた。

「そうか、500万円あれば大丈夫なんだね…。」と、私。

とっさにおばーちゃんは、

「あんた、バカじゃん、500万円で老後やろうっての?アホじゃん。5000万円だよ!物書きやっている人にしちゃ、想像力がないね」と、叱られてしまった。

 5000万円???見たこともねー!!もちろん、触ったこともねー!今の私には想像を絶する高額だ。気絶しそうだった。

 この後、気分は撃沈。老後の不安に拍車がかかり、あのクリーニング屋のババァに質問しなければ良かったと後悔した。

 それから数日の間、悶々とし、マジにへこんでいたが、一本の試写が私を救い、解放してくれた。

イギリス映画の『クレアモントホテル』である。

 夫を亡くし、娘夫妻の同居から逃れ、一人で老後を過ごすためにロンドンのホテルにやって来た上品な老婦人が、ある若い青年と知り合うことで、孤独感から解放されていく 。

 ホテルに滞在する他の人々との交流も実にほのぼのとして、往年の作品『グランドホテル』を彷彿させた。

 老婦人はこのホテルで独身のオジーさんにナンパされたり、いつしかこの若い青年との間にも恋愛に近い感情まで芽生えてくる。

 ロンドンの街がとにかく綺麗。ビッグベン、ロンドンアイなどなど…。古い洗練されたホテルが醸し出すインテリア、エクステリアの調度品たちを見ているだけでも、妙に心が落ち着いてくる。

老婦人の

「私は、妻でも母でもない自分として最期を迎えたかった」というセリフに、女性の逞しさや切なさが込められていて、心が弾んでいた。

 そして、私は思ったのだ。今から年金の心配をしていたセコい自分を恥じた。なんとアホだったんだろうか!と。

 来るべきその日が来るまで、人は日々を精一杯生きていれば、そんな不安など薄れるはずなのだ。きっと、最近、私は怠惰だったに違いない。

 まさにその老後が本当にやって来た時にこそ、この老婦人のように考え、決断し、逞しく生きていけばいいのだと。

 大人の童話のような素敵なおばーちゃんの物語に、私はめちゃくちゃ元気になっていたのだ。

 実にいい映画だ。

【出演】ジョーン・ブロウライト ルバート・フレンド ゾーイ・タッパー

  12月4日から岩波ホールにて公開


『レオニー』

2010年11月14日 | 映画

まず、感動すべきは、8年間もかけてこの作品が制作されてから市場に出回るまでのプロセスである。

メガホンを撮った松井久子監督は、前作『ユキエ』『折り梅』と、自らが日本全国を行脚し、講演し、自主上映し、まさに手作りの努力が実り、口コミという手段で、のべ200万人の観客動員という快挙を果たした。

そんな健気な松井久子監督の生き様と、作品のクオリティの高さに感動したファンたちが、「松井久子監督に第3作目をどうしても撮らせたあげたい!」と立ち上がったのが、「マイレオニー」という集団である。

日本全国に点在する多くの松井ファン、それぞれが全くの赤の他人。共通項は、松井久子監督と作品の魅力だけ。

低迷する映画を支えていくのは、もはや、本家本元の映画関係者ではなく、一般庶民であった事実に胸を打たれた。古きは、市民運動の「べ平連」(ベトナムに平和を市民連合の略)がダブった。60年代から起こった「ベトナム戦争」の反戦運動は、全国の一般市民が立ち上がったことで、反戦への大きなうねりとなり、戦争に歯止めをかけた。

松井久子監督の『レオニー』も、まさに、そういった市民の力が結集し、働き、実現したと言っても過言でない。

「マイレオニー」には、一般の主婦から労働者、市民まで、と様々な人々がいる。以前、私が対談した故・筑紫哲也さんの元秘書でいらした白石順子さんも賛同している。私と白石さんのトークイベントには、「マイレオニー」の事務局の方もいらしてくださり、「映画ライターでもある瀧澤陽子さんにはいち早く見ていただきたい!」と熱心に勧められ、出来立てホヤホヤの『レオニー』の試写を見せていただいた。


世界的な彫刻家・イサム・ノグチ。ニューヨークで、彼の名前を知らないアメリカ人はいない。そのイサム・ノグチの母親レオニーが日本に単身乗り込み、日本という社会で生きた壮絶な人生を描いたこの映画に、いつの間にか私は釘付けになっていた。

全編が日本映画でありながら、英語が中心であったことも画期的だが、国籍を超えた人間の深いつながり、それも熱~いつながりが描かれていることも実に興味深い。


『レオニー』…、 庶民が動かした全く新しいタイプの作品の登場である。


11月20日から公開

【監督】松井久子

【出演】エミリー・モーティマー
    中村獅童
    原田美枝子
    竹下景子
    吉行和子
    中村雅俊