マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『太秦ライムライト』

2014年06月28日 | 映画

船橋南福祉センターの講座で、1963年公開の『13人の刺客』の解説をした。この作品は2010年にも三池崇史監督によってリメイクされている。

オリジナルの『13人の刺客』は、東映の時代劇全盛の作品で、監督・工藤栄一、主演・片岡千恵蔵、里見浩太朗、嵐寛寿郎、内田良平と、蒼々たる俳優陣ばかりである。

実は私は、この作品をリアルタイムで見ている。当時、私の家のすぐそばに、東映専門の映画館「新興館」があって、9歳の私は父に連れられて、チャンバラ映画をよく見ていた。

60年代の日本の映画はほとんど時代劇だったような気がする。時代劇が日本の映画を支えていたと言っても過言でない。

あれから、50年、今回の『太秦ライムライト』は、衰退していく時代劇にスポットを当てている。

主人公は「斬られるために生きる俳優」。福本清三が演じている。これはフィクションであるのだが、実際の福本清三も15歳で東映の時代劇専属となり、「斬られ役」専門の俳優である。

彼の凄さを知ったのは、トム・クルーズ主演のアメリカ映画「ラストサムライ」だった。殺陣の実力を買われての大抜擢だった。これで、福本さんの知名度は抜群に上がった。

しかし、今の日本には時代劇の必要性がなくなっている。それによって、主人公のような「斬られ役」の出番は全くなくなっているのが現実である。

出演する映画が減れば、収入が減る。よって、この主人公は東映の太秦の撮影所で、観光客相手に殺陣を見せて、なんとか生計を立てている。

妻に先立たれ、時代劇でしか自分の存在を披露できない初老の「斬られ役者」の虚空感を、福本三郎は寡黙に冷静に演じていた。

時代劇の活気が戻ってくることはないかもしれない。しかし、それを嘆いていてばかりでは始まらない。

本作の中に、新人監督が時のアイドルを使い、CGだけでイージーに時代劇を撮っているシーンが挿入されている。

この軽薄さは、日本の時代劇を支えてきた俳優陣の心の嘆きを表わしているようで、溜飲が下がった。

7月12日(土)から公開

【監督】落合 賢 

【出演】福本清三  山本千尋  本田博太郎 松方弘樹、萬田久子、栗塚 旭