○ ばあちゃんのお腹は二つと言われつつ小さき腹に石鹸広げる (春日部市) 土屋和子
特選一席。
「小さき」に対応する「大きな」を用いないで「大×小」の対比を表現している点が宜しい。
また、「小さき腹に石鹸広げる」という簡潔な表現も素晴らしい。
短歌の世界には、「お孫さんに対する愛情を主題にした短歌は自己完結していて面白くない。犬も食わない」という迷信が存在するようですが、お孫さんとの間に交わされた動作の遣り取りを具体的に述べた本作は、特選一席に値する傑作と思われる
〔返〕 「省ちゃんのちんぽことても小さいね」などと言ってた叔父の命日 鳥羽省三
○ 早瀬よりあがりし子らは大石にからだはりつけとかげとなりぬ (春日井市) 松下三千男
特選二席。
夏の午後などに、河原の大きな石の上に「とかげ」が張り付いている風景は、川沿いの村などで育った者にとってはお馴染みの風景でありましょう。
したがって、「大石にからだはりつけとかげとなりぬ」という措辞は、現実感に満ちた隠喩として評価するべきかと思われる。
〔返〕 若鮎は河原の石に焙られて砂利掻き男の昼餉となりぬ 鳥羽省三
○ 出来るなら今すぐ生まれ変わりたい君を動かす心臓として (江戸川区) 中森 舞
特選三席。
<人百人好み百様>という言葉もあるようですが、「出来るなら今すぐ生まれ変わりたい君を動かす心臓として」といった表現は、余りにも生硬であり、グロテスクでもありますから、私としては、この作品を優れた作品として推奨する気にはなりません。
〔返〕 小沢氏の犬馬となって働いた秘書に下りし有罪判決 鳥羽省三
○ 船で行く妻の太めの身体が朝日の中に手を振りてゆく (那覇市) 諸見武彦
「太めの身体」の「妻」は「船」で<本土>に出稼ぎに行くのでありましょうか?
そして、その「出稼ぎ」の中身は「フーゾク」などと、冗談も言って見たくなる。
つまりは、この作品は、読者を作品世界の中に引き摺り込み、作者と読者が対話したくなるような魅力に満ちた作品ということになる。
「本当は石垣島に嫁いでいる娘のお産の手伝いに行くのでしょうね」と、またまた冗談を抜かしたくなる評者ではある。
〔返〕 帰りには初孫抱いて来るからと妻は手を振り船に乗り込む 鳥羽省三
○ 自販機はかかる小さきショックにて物吐き出すまこと真面目に (福津市) 大庭愛夫
「かかる小さきショック」とは、例えば百円玉を一枚放り込んだ程度の「ショック」のことでありましょう。
〔返〕 女子プロが自販機扉に抱きついて百円返せとガタガタ揺する 鳥羽省三
○ 「おしげさん」「いえむすめです」「にとるのう」梅見に交す老い人のあり (御前崎市) 山下晴得
「おしげさん」の「むすめ」もまた、立派な「老い人」なのである。
〔返〕 「お富さん」「いや違います。お七です」「あまり似とるから間違えちゃった」 鳥羽省三
○ ひらがなはなまめかしきと聞きしより眠れぬままに闇に書きみる (安曇野市) 青美恵子
先ず、「ひらがなはなまめかしき」という認識が宜しい。
次に、そのことを他人から聞いて、その「ひらがな」を「眠れぬままに闇に書きみる」という行為が悩ましくて宜しい。
「青柳美恵子」という、名前を聞いただけでもしがみ付きたくなるような生身の女性が、深夜「眠れぬままに闇に」「なまめかしき」「ひらがな」を書いているとしたら、その様子そのものが、実に艶めかししく、悩ましいのである。
「ひらがな」のなまめかしさを詠うように見せ掛けながら、その実は、女性たる作者ご自身の艶めかしさと美しさを述べているのである。
〔返〕 カタカナのたどたどしきを感じつつ交はす言葉の<イロハニホヘト> 鳥羽省三
[注] 「イロハニホヘト」=「色は匂へど」
○ アスパラのように伸びゆく十二歳詰襟を着て真直ぐに立つ (上田市) 瀧澤淳子
十二、三歳頃は、「朝、起きてみたら一センチ伸びていた。その翌朝、起きてみたら、また一センチ伸びていた」といったような年頃だとも聞いている。
〔返〕 千歳飴みたいに長く延ばされてベルト奪われプライド棄てた 鳥羽省三
このところ立て続けに、日本人ボクシングチャンピオンの惨敗のニュースに接しています。
内藤大助、亀田興毅、長谷川穂積、そして「名城信男よ、お前もか!!」
○ これからはまかせておけと左半身おう頼むよと麻痺右半身 (小平市) 諏訪 正
一種の<ブラックユーモア>でありましょうが、度が過ぎて、私の好きな歌ではない。
〔返〕 「これからは任せておけ」と<元>が言う。「あてにしない」と<ドル>が言い張る。 鳥羽省三
○ 骨格・皮膚・筋肉・神経・内臓と曝してビルは潰えゆきたり (館林市) 長谷川清
「骨格・皮膚・筋肉・神経・内臓」という語順は、「ビル」が潰れ行く過程を、そのままリアルに表わしているような感じである。
〔返〕 窓といふ皮膚を曝して夏空に浮かぶ森ビル背丈眩しき 鳥羽省三
○ 人間の身体を椅子に押しつけて押しつけて蝶に変わる飛行機 (多賀城市) 渋谷史恵
「人間の身体を椅子に押しつけて押し付けて」とは、離陸直後の感覚を述べたのであり、「押し付けて押しつけて蝶に変わる飛行機」とは、その後の飛行機の様子を述べたのでありましょう。
〔返〕 私の身体を窓にぶっつけて神奈中バスはいま発車す 鳥羽省三
○ 「重すぎるウエストしぼれ」と足が言う「それなら動け」と胴、足に言う (オーストラリア) 樋口 強
「猿蟹合戦」などの童話での対話を思わせる、ユーモアに満ちた内容の一首である。
〔返〕 「度が過ぎる口を閉めろ」と妻が言う「まだ足りない」と我言い返す 鳥羽省三
特選一席。
「小さき」に対応する「大きな」を用いないで「大×小」の対比を表現している点が宜しい。
また、「小さき腹に石鹸広げる」という簡潔な表現も素晴らしい。
短歌の世界には、「お孫さんに対する愛情を主題にした短歌は自己完結していて面白くない。犬も食わない」という迷信が存在するようですが、お孫さんとの間に交わされた動作の遣り取りを具体的に述べた本作は、特選一席に値する傑作と思われる
〔返〕 「省ちゃんのちんぽことても小さいね」などと言ってた叔父の命日 鳥羽省三
○ 早瀬よりあがりし子らは大石にからだはりつけとかげとなりぬ (春日井市) 松下三千男
特選二席。
夏の午後などに、河原の大きな石の上に「とかげ」が張り付いている風景は、川沿いの村などで育った者にとってはお馴染みの風景でありましょう。
したがって、「大石にからだはりつけとかげとなりぬ」という措辞は、現実感に満ちた隠喩として評価するべきかと思われる。
〔返〕 若鮎は河原の石に焙られて砂利掻き男の昼餉となりぬ 鳥羽省三
○ 出来るなら今すぐ生まれ変わりたい君を動かす心臓として (江戸川区) 中森 舞
特選三席。
<人百人好み百様>という言葉もあるようですが、「出来るなら今すぐ生まれ変わりたい君を動かす心臓として」といった表現は、余りにも生硬であり、グロテスクでもありますから、私としては、この作品を優れた作品として推奨する気にはなりません。
〔返〕 小沢氏の犬馬となって働いた秘書に下りし有罪判決 鳥羽省三
○ 船で行く妻の太めの身体が朝日の中に手を振りてゆく (那覇市) 諸見武彦
「太めの身体」の「妻」は「船」で<本土>に出稼ぎに行くのでありましょうか?
そして、その「出稼ぎ」の中身は「フーゾク」などと、冗談も言って見たくなる。
つまりは、この作品は、読者を作品世界の中に引き摺り込み、作者と読者が対話したくなるような魅力に満ちた作品ということになる。
「本当は石垣島に嫁いでいる娘のお産の手伝いに行くのでしょうね」と、またまた冗談を抜かしたくなる評者ではある。
〔返〕 帰りには初孫抱いて来るからと妻は手を振り船に乗り込む 鳥羽省三
○ 自販機はかかる小さきショックにて物吐き出すまこと真面目に (福津市) 大庭愛夫
「かかる小さきショック」とは、例えば百円玉を一枚放り込んだ程度の「ショック」のことでありましょう。
〔返〕 女子プロが自販機扉に抱きついて百円返せとガタガタ揺する 鳥羽省三
○ 「おしげさん」「いえむすめです」「にとるのう」梅見に交す老い人のあり (御前崎市) 山下晴得
「おしげさん」の「むすめ」もまた、立派な「老い人」なのである。
〔返〕 「お富さん」「いや違います。お七です」「あまり似とるから間違えちゃった」 鳥羽省三
○ ひらがなはなまめかしきと聞きしより眠れぬままに闇に書きみる (安曇野市) 青美恵子
先ず、「ひらがなはなまめかしき」という認識が宜しい。
次に、そのことを他人から聞いて、その「ひらがな」を「眠れぬままに闇に書きみる」という行為が悩ましくて宜しい。
「青柳美恵子」という、名前を聞いただけでもしがみ付きたくなるような生身の女性が、深夜「眠れぬままに闇に」「なまめかしき」「ひらがな」を書いているとしたら、その様子そのものが、実に艶めかししく、悩ましいのである。
「ひらがな」のなまめかしさを詠うように見せ掛けながら、その実は、女性たる作者ご自身の艶めかしさと美しさを述べているのである。
〔返〕 カタカナのたどたどしきを感じつつ交はす言葉の<イロハニホヘト> 鳥羽省三
[注] 「イロハニホヘト」=「色は匂へど」
○ アスパラのように伸びゆく十二歳詰襟を着て真直ぐに立つ (上田市) 瀧澤淳子
十二、三歳頃は、「朝、起きてみたら一センチ伸びていた。その翌朝、起きてみたら、また一センチ伸びていた」といったような年頃だとも聞いている。
〔返〕 千歳飴みたいに長く延ばされてベルト奪われプライド棄てた 鳥羽省三
このところ立て続けに、日本人ボクシングチャンピオンの惨敗のニュースに接しています。
内藤大助、亀田興毅、長谷川穂積、そして「名城信男よ、お前もか!!」
○ これからはまかせておけと左半身おう頼むよと麻痺右半身 (小平市) 諏訪 正
一種の<ブラックユーモア>でありましょうが、度が過ぎて、私の好きな歌ではない。
〔返〕 「これからは任せておけ」と<元>が言う。「あてにしない」と<ドル>が言い張る。 鳥羽省三
○ 骨格・皮膚・筋肉・神経・内臓と曝してビルは潰えゆきたり (館林市) 長谷川清
「骨格・皮膚・筋肉・神経・内臓」という語順は、「ビル」が潰れ行く過程を、そのままリアルに表わしているような感じである。
〔返〕 窓といふ皮膚を曝して夏空に浮かぶ森ビル背丈眩しき 鳥羽省三
○ 人間の身体を椅子に押しつけて押しつけて蝶に変わる飛行機 (多賀城市) 渋谷史恵
「人間の身体を椅子に押しつけて押し付けて」とは、離陸直後の感覚を述べたのであり、「押し付けて押しつけて蝶に変わる飛行機」とは、その後の飛行機の様子を述べたのでありましょう。
〔返〕 私の身体を窓にぶっつけて神奈中バスはいま発車す 鳥羽省三
○ 「重すぎるウエストしぼれ」と足が言う「それなら動け」と胴、足に言う (オーストラリア) 樋口 強
「猿蟹合戦」などの童話での対話を思わせる、ユーモアに満ちた内容の一首である。
〔返〕 「度が過ぎる口を閉めろ」と妻が言う「まだ足りない」と我言い返す 鳥羽省三