臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週のNHK短歌から(10月6日放送・小島ゆかり選・決定版)

2013年10月07日 | 今週のNHK短歌から
[一席]

(堺市・林龍三)
〇  台風の過ぎ行く雲の晴れ間より友よぶ子どもきらめき出づる

 「台風の過ぎ行く雲の晴れ間より」「きらめき出づる」「子ども」とは、「台風の落し児」みたいな子供であるが、その子供さえも世間並に仲間を欲しがる子供、即ち「友よぶ子ども」なのである。
 〔返〕 台風の過ぎ行く時の狭間より顕れ出でし風の落とし児  鳥羽省三


[二席]

(オーストラリア・樋口強)
〇  高三の十月十日の一日は心に残る晴れの日なりき

 「十月十日」と言えば、今から49年前の1964年(昭和39年)の「十月十日」を指して言うのであり、丁度その日は、第十八回夏季オリンピックの開会式が明治神宮外苑の陸上競技場で行われた当日である。
 奇跡的に晴れ上がったあの晴天は、評者にとっても決して忘れることが出来ません。
 〔返〕  正しくは「国立霞ヶ丘陸上競技場」未だ忘れずあの晴天は  鳥羽省三


[三席]

(栃木市・佐藤聖子)
〇  水を替えぱっと晴れたる水槽に赤黒金の金魚を放つ

 「ぱっと晴れたる水槽」とは、まるで魔法使いか手品のようである。
 その魔法使いか手品のように、「ぱっと晴れたる水槽」に「赤黒金の金魚を放つ」とは、これ亦、魔法使いか手品のような見事な手捌きである。
 〔返〕  手品師がぱっと晴れたる秋空にパラグライダー見事に放つ  鳥羽省三
      将軍様がぱっと晴れざる海峡に弾道ミサイル無闇に放つ 


[入選]

(吉川市・猫丘ひこ乃)
〇  晴れている音が聴こえぬ街じゅうを見下ろして待つ面接怖い

 動作主体は、迫り来る「面接」の怖さに慄きながら、「街じゅうを見下ろ」す屋上に震えながら佇んで居るのである。
 今の彼女が知覚可能な事柄と言えば、「(今日の空が)晴れている」事と「(彼女の耳に何一つ)音が聴こえぬ」事ぐらいのものである。
 以上の条件から推測するに、彼女は今回の「面接」試験にも失敗するに違いありません。
 〔返〕  雨が降る足下ぬかるむもう駄目だ敗戦投手間違い無しだ  鳥羽省三


(足立区・長峯雄平)
〇  天晴が口癖の祖父今日もまた天晴と言い入れ歯を飛ばす

 「天晴と言い入れ歯を飛ばす」とは、実に天晴なジイジであることよ!
 〔返〕  落語家で手癖の悪い小遊三が天晴見事に座布団十枚  鳥羽省三


(日野市・柿沼敏夫)
〇  青信号に攻め込むごとく人急ぐ朝からかっと晴れ上がる空

 「青信号に攻め込むごとく人急ぐ」とは、まさしく真に迫れる描写である。
 「空」が「朝からかっと晴れ上がる」とは、今日も猛暑日なのかも知れません。
 お身体には、くれぐれもお気を付け下さい。
 〔返〕  今日もまた熱中症にならぬよう水道水をがぶがぶ飲もう  鳥羽省三


(横浜市・水野真由美)
〇  秋晴れの青の絵の具を垂らしつつ一人静かに居る美術室

 「ちえっ、あの女、ブスのくせして恰好付けちゃってさぁ!」なんて言葉が、何処かから飛んで来そうな気がする。
 「ブスのくせして」という付け足しは、勿論、僻み根性から出た言葉でありましょう。
 〔返〕  チューブ入り白の絵の具を垂れ流し雪景色とは洒落てやがんな  鳥羽省三


(川崎市・水澤優岸)
〇  はればれと泣けぬ女に夏木立しんしん語りつづけてゐたり

 「しんしん語り」とは「一単語」であり、勿論「名詞」である。
 〔返〕  杉木立 泣けぬ女に懇懇と涙の出どこ説明し居り  鳥羽省三


(豊田市・山村博保)
〇  秋晴れの峡の空へと立ち上がる裏谷分校組み立て体操

 「裏谷分校」の「組み立て体操」ならば、高学年児童の総員十名ぐらいの規模のそれと思われ、さほどの危険も感じられない事でありましょう。
 組み立て上がった状態をよくよく観察してみたら、それは村の半鐘柱ぐらいの高さであった。
 〔返〕  秋晴れの峡の底から湧き上がるとても冷たき霊気なるかも  鳥羽省三


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