臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

日暦(10月18日)

2016年10月18日 | 我が歌ども
○  うすくこく紅葉錦のぐらでいしよん奥山寺の秋たけにけり  鳥羽省三

○  磐を背にもみぢの傾りいろ淡し朱は少なくて黄ばかり目立つ

○  カメラ手に歩く九キロ二時間半二口林道あき真つ盛り

○  老い独りそぞろ歩きの山道のした見下ろせば怖し断崖

今週の「朝日歌壇」から(10月17日掲載分・其のⅣ)掲載遅延多謝!平身低頭!

2016年10月18日 | 今週の朝日歌壇から
[佐佐木幸綱選]
○  牧水の生家を訪ねしその足で独り酒買うコンビニありて  (小林市)笹尾茂章

 「生家」と漢字書きして「いえ」と読ませようとしているが、これだけで、本作は落第!
 彼の若山牧水の〈酒好き〉〈酒狂い〉は人も知るところであるが、その「生家を訪ね」て「その足で独り酒買う」ような似非スタイリストは、歌人にあらざる似非歌詠みでありましょう。


○  耳遠く会話少なくなる人と心をつなぐ朝日歌壇  (戸田市)安部題子

 今や、「絆」や「癒し」は勿論のこと、「心をつなぐ」とか「心を結ぶ」と言っただけで短歌作品としては落第である。
 「絆」だとか「つなぐ」だとか「結ぶ」だとか「癒し」だとかという、表面だけはカッコいい言葉の中には、どれだけの先人の手垢が滲んでいて、どれだけの俗臭が滲んでいることでありましょうか!
 本作は題材から推察しても、〈入選作狙いの作品〉であることが明らかである。
 短歌というものは、投稿して入選する云々よりも、先ず、「詠みたい人が詠みたい事柄を詠みたいように詠むべきもの」であり、投稿したり入選したりするのは、その結果として後から従いて来るものである。


○  汚染水どぼどぼ流れているけれど本当にやるの東京五輪  (須賀川市)伊東伸也
 
 「汚染水」が「どぼどぼ流れている」のは、被被災地・フクシマでありましょうか?
 それとも、「東京五輪」の開催地であり、昨今話題となっている豊洲市場の在る東京でありましょうか?
 折が折だけに、あれやこれをゴチャ混ぜにして歌を詠んではいけません。
 元を糺せば、「東京五輪」の開催は、彼の安倍晋三なる人物の「私は皆さんにお約束します。状況はコントロールされております、汚染水による影響は第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内の中で完全にブロックされています」との嘘から始まった事であり、私たち日本国民はこの事を百も承知の上で、彼・安倍晋三とその取り巻きの輩に我が国の政権を委ねたり、我が儘放題の国家財政の浪費を許したりしているのである。
 従って、今更に、「汚染水どぼどぼ流れているけれど本当にやるの東京五輪」でもありませんよね、被災地・フクシマは須賀川市ご在住の伊東伸也さんよ!
 私が本作を佳しとしない理由の一つは、被災地・福島県県民である本作の作者が、あれから数年経った能登後の現在に於いても、旧態依然として被災者然として振舞って居て、恰も世の不幸を我が身独りで担っているような態度で歌を詠もうとしている点にある。 


○  猿知恵のごとき凍土遮水壁猿も苦笑の結果となりぬ  (東京都)野上 卓

 作中の「凍土遮水壁」とは、「凍結管と呼ばれる鋼製の管を地中に埋め込み、管の内部に冷却材を送り込んで循環させ、周囲の土を凍らせて地中に壁を作り、地下水の流入や土の崩落を防ぐ技術」であり、「元々は、都市部のトンネル工事などに活用されてきたが、東京電力福島第一原子力発電所における汚染水の増加を抑えるための対策の一環として、時の自公連立政権と東京電力とが結託して計画し、2013年8月3日、総額約四百七十億円という巨額の国費を投入して着工する事を発表し、同発電所の建屋4棟を囲むように凍土壁を作り、地下水が建屋に流入するのを防ぐ計画で、翌年の6月に本格的に着工された幻の技術(事業)」である。
 前述の通り、是が文字通りの〈幻の技術〉であり、「結局は、他の放射性物質汚染防止対策事業と同じように、単なる〈金喰い虫〉かつ〈汚染地区住民や国民の東電や政府への不満を隠蔽する為の似非放射性物質汚染防止対策事業〉のレベルで終わってしまうのではないか?」との懸念や疑問がマスコミのあちらこちらから示されたのは、2013年8月3日に、この計画が発表された当初からの事でありましたが、何と不思議な事に、是を題材にした短歌作品が、物見高く、反政府、反権力、反原発を事とする朝日歌壇の入選作として紙面に掲載された事はたったの一度としてありません。
 否、もしかして在ったのかも知れませんが、寡聞にして私はそうした事実を知りませんでした。
 そうした中にあって、「放射性物質塗れの土壌を凍らせて事に備へんとする尊き業よ」という、字余りにして、よれよれにして、文意不明瞭な一首を、マイブログ「臆病なビーズ刺繍」に私が掲載したのは、件の幻の事業が本格的に着工された二ヶ月後の2014年の真夏日最中のある早朝の事でありました。
 件の一首は、「神奈川の辺境からの叫び声」というタイトルの下に発表された、連作短歌三首の中の一首であり、その当時の私は、愚かな事に『去にし日に<或いは、藤原紀香讃>』などと称して、彼の莫連女・藤原紀香女史に対する追従歌紛いの戯作を詠まんと企んでいた時期でありましたので、前掲の一首の他に、「あのフクシマの地下千尺にして土壌は今し凍結すらむ」、「汚染対策とは土木業者への自民票取り纏め策ならむ」という、もう二首を加えた連作「神奈川の辺境からの叫び声」は、必ずしも私が全力投球し、私の国家権力に対する抵抗姿勢をまともに述べようとした作品ではありませんでしたが、それでも尚且つ、件の「凍土遮水壁」事業の今日の破綻を予見した内容の作品ではありました。
 そうした泥塗れ状態、汚染水塗れの状態の中に於いて、今日、私のかつての歌友・野上卓さんがお詠みになられた、掲出の一首に接する事を得た時の私の気持ちは、鳥羽省三流の大袈裟な言い方を以てすれば、恰も「ゴビの砂漠を彷徨していた彼の達磨大師が、絶っての望みのオアシスに巡り遇った時のような気持ち」でありました。
 今更、私如き若輩が、改めて申し上げるべき事ではありませんが、「凍土遮水壁」こそはまさしく「猿知恵のごとき」似非汚染水対策であり、自公政権と東電とが結託しての遮水策ならぬ隠蔽策であり、それが「猿も苦笑の結果となり」果ててしまったのは、慧眼の士・野上卓さんの仰せになられる通りであります。
 [反歌]  でかしたな!さすがは戯作者!野上さん!ここまで詠んだら打ち首覚悟!  鳥羽省三
 事が事だけに、上掲のような戯作を以て、野上卓さんの傑作へのオマージュとするのは、真に手前勝手な事であり、且つ、この道の大先輩に対して、真に失礼な事とは存じ上げますが、今の私にとっては、掲出の野上卓さん作に邂逅し得た事は、快哉事以外の何者でもありません。


○  将来のことわざ辞典に書かれようもんじゅの知恵は釣瓶落とし  (奥州市)及川和雄

 本作の良さは、前掲の野上卓作と同様に、作者が被災者の位置に居座っていないで歌を詠んでいる点、即ち、我が身を戯作者に窶した上で、批評的史眼を持って立ち、余裕ある態度で事に当たっている点にある。
 「将来のことわざ辞典に書かれようもんじゅの知恵は釣瓶落とし」とは、まさしく、江戸の戯作者・山東京伝や式亭三馬や為永春水や十返舎一九などの流儀であり、前述の伊東伸也さんのそれや、当朝日歌壇切っての常連作家・美原凍子さんのそれとは、その遣り方が厳然として異なっているのである。


○  枝豆の産地が北に向かうころさんまはぞろりと南へ下る  (新座市)稲葉 茂

 私・鳥羽省三は寡聞にして、「枝豆の産地」の北方移動に関わる説、即ち、「枝豆前線」の存在に就いての知識がありませんから、残念ながら、本作の鑑賞及び論評は割愛させていただきます。


○  ホスピスのコラムニストは何思ふ笑へるコラム笑はずに読む  (羽咋市)三宅立美

 作中の「ホスピスのコラムニスト」とは何ぞや?
 或いは、我が国には、「ホスピス」の住人にして「コラムニスト」を兼ねたる才人の存在が認められるのかも知れませんけれど…………!


○  お台場にポケモンGOをばらまいて姿は見せぬ笛吹き男  (愛知県)赤羽一郎

 不肖・私は、作中の「お台場」及び「ポケモンGO」に関わる知識は皆無でありますから、残念ながら、本作の鑑賞及び論評も亦、割愛させていただきたく存じます。


○  北の友茗荷を採りて送り来ぬ砂漠の我らにふるさと香る  (アメリカ)中條喜美子

 昨今に於ける、当朝日歌壇の国際化現象には、目を見張るべきものがある。
 毎週の朝日歌壇の入選作は、四選者併せて四十個の椅子が用意されているのであるから、その出来栄えはともかくとして、その裡の一個や二個は海外在住の方々や、日本国民以外の歌詠みの方々に譲り渡しても良かろうと、私は存じ上げている次第であります。
 [反歌]  佐倉より長島さんの生家廃墟とのニュース届いてどきっきり  鳥羽省三 


○  デンマーク・中国・イタリア・アメリカと秋蒔き種は遠方より来る  (佐倉市)三谷恵子

 私は、先日行われた「あさお区民まつり」なる定例の催しに、定例の如く、たった独りで見物に出掛けましたが、その折りに頂戴した「矮性向日葵の種」の袋にも、「MADE IN CHINA」なる表示が為されておりました。