臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(077:狂・其のⅠ・狂言に三郎冠者の出番少なく)

2012年04月05日 | 題詠blog短歌
(西中眞二郎)
〇  漫談にトリオはあれど狂言に三郎冠者の出番少なく

 脇狂言の『三本柱(さんぼんのはしら)』は、シテの「果報者」に加えて「太郎冠者」及び「次郎冠者」、そして「三郎冠者」まで登場する、大変珍しい演目である。
 今、その梗概を示すと、「新たに家を作っている果報者は、三人の冠者の知恵の程度を見極める為に、山に切って置いてある三本の柱をおのおの二本ずつ持って帰れと謎掛けをする。三人の冠者は早速山へ行き、柱を見つけて担ごうとするのであるが、各人一本ずつしか担げないので考え込んでしまう。三人とも、柱を持ったまま考え込んでいたので疲れてしまい、それぞれ持っていた柱をその場に置いて休むのであるが、よく見ると、三本の柱で三角形が出来ており、その頂点に立てば各人二本ずつ持てる事に気づく。そこで柱を持って拍子づいて帰宅すると、主人の果報者が『よくやった』と言ってめでたく三人を家に迎え入れる」という内容である。
 お題「狂」を詠み込んだ傑作として鑑賞し、作者・西中眞二郎さんの取材源の広さに感服致しました。
 〔返〕  伊東四朗てんぷくトリオの生き残り三波戸塚に死に遅れたり   鳥羽省三


(おおみはじめ)
〇  関西の訛を隠し味として笑いとまらぬ茂山狂言

 去る2011年11月18日に、京都の観世会館で行われた「忠三郎狂言会」の京都公演の演目の一つとして、『三本柱』が演じられましたが、出演者は次の通りである。
 果報者  茂山千五郎
 太郎冠者 茂山七五三
 次郎冠者 茂山千三郎
 三郎冠者 茂山 茂
 素囃子  水波之伝
 笛    林信太朗
 小鼓   林吉兵衛
 大鼓   谷口正壽
 太鼓   前川光範 
 〔返〕  三人が柱を2本ずつ持てば6本になるはずだが不思議   鳥羽省三


(原田 町)
〇  小綬鶏の素っ頓狂な鳴き声を聞かなくなりぬ竹やぶ失せて

 フリー百科事典『ウィキペディア』の解説するところに拠ると、「小綬鶏」の「繁殖期は5月から6月であり、その時の雄の鳴き声が特徴的である。ヒヨドリにも似た大きな叫び声を『ピーッ!ピーッ!ピピーッ!』と挙げた後、速いテンポの『ピッピュクァイ!ピッピュクァイ!』という鳴き声に移行し、その後テンポが遅くなって鳴き止む。『ピッピュクァイ!ピッピュクァイ!』の部分が『ちょっと来い!ちょっと来い!』、或いは『ゴジュケイ!ゴジュケイ!』と聞き慣らされているので、『姿を知らなくても鳴き声は知っている』という人が多い」ということである。
 本作の作者・原田町さんは、東京都内にお住まいになられる方である。
 かつては、原田町さんのお近くでも、「小綬鶏の素っ頓狂な鳴き声」を聴くことが出来たのでありましょうか?
 我が家の裏山からは、「小綬鶏の素っ頓狂な鳴き声」こそ聴こえて来ませんが、季節がもう少し深まると鶯の鳴き声が聴こえるに違いありません。
 〔返〕  鶯の谷渡りの声きこえ来る春が待たるる花咲く春が   鳥羽省三


(鳥羽省三)
〇  狂態の限り尽くして逝く朝(あした)おねえ言葉で謝辞を述べたり

 私のかつての知人の一人が日本舞踊の師匠を遣って居て、今から5年前、彼は息を引き取る寸前に、周囲の人々や弟子たちに「おねえ言葉で謝辞を述べ」て亡くなったということである。
 〔返〕  男にて男妾を三人も持って目出度く昇天せしと   鳥羽省三

一首を切り裂く(076:ツリー・其のⅠ・聳え立つスカイツリーも日々浴びむ)

2012年04月05日 | 題詠blog短歌
(髭彦)
〇  聳え立つスカイツリーも日々浴びむ北風運ぶ核の礫を

 五句目の七音を「核の礫を」としたところが宜しい。
 東電の福島原発のメルトダウン事故に因って父祖の地を汚された髭彦さんにとって、「北風」に乗って東京まで運ばれて来る核物質は、まさしく「核の礫」でありましょう。
 〔返〕  髭彦氏自慢の白い髭にさえ核物質は堆積しましょう   鳥羽省三


(矢野理々座)
〇  京阪神エルマガジン社発行の「ミーツリージョナル」という名の雑誌

 作中の「ミーツリージョナル(Meets Regional)」とは、「京阪神エルマガジン社発行」の関西地方のタウン誌であるが、京阪神地方で暮らす人々にとっての生活手引きとしても便利な雑誌であることは勿論、関西地方を観光旅行する人々にとっても手放せない雑誌として知られているのである。
 「知る人ぞ知る」といった存在のタウン誌名とその発行元を記しただけで一首を成しているのであるが、このような読者の虚を突くような遣り方は、いかにも矢野理々座さんらしい詠風である。
 〔返〕  ナベツネの読売新聞社発行の『読売新聞用字用語辞典』   鳥羽省三
      亀井静香ちゃんの「国民新党の連立政権からの離脱宣言」


(牛隆佑)
〇  クリスマスツリ―を飾る住宅の前は若干早足気味で

 作品の出来栄えはともかくとして、「クリスマスツリ―を飾る住宅の前は若干早足気味で(歩く)」という発想そのものには、同感するべきものがある。
 本作の作者は、私・鳥羽省三と同じように、「クリスマスツリ―を飾る住宅」やその居住者たちに共通して備わっている通俗的な雰囲気を少なからず嫌悪しているのでありましょう。
 〔返〕  爆竹で春節を祝う習俗に馴染めないから中国は好かぬ   鳥羽省三


(鮎美)
〇  雪吊りのごとき骨組み晒しつつ雪なき街の電飾ツリー

 本作の作者・鮎美さんは、「クリスマスツリーを飾るという習俗は雪国の生活に相応しい習俗であるから、『雪なき街の電飾ツリー』は、まるで金沢の兼六園の『雪吊りのごとき骨組み』を世間様に晒しているようなものである」といった考え方をなさっているのでありましょうか?
 〔返〕  肋骨のごとき骨組み曝しつつ未だ帆布を張れぬ箱舟   鳥羽省三


(鳥羽省三)
〇  カダフィーの人民裁判受くる夜もスカイツリーは輝くならむ

 日本が沈没する日の前夜までスカイツリーは輝くならむ
 〔返〕  軍事政権の人民裁判と言うべきかミャンマーの補欠選挙の結果   

一首を切り裂く(075:朱・其のⅣ・朱塗られし大鳥居から誰ぞ来る)

2012年04月05日 | 題詠blog短歌
(清次郎)
〇  朱塗られし大鳥居から誰ぞ来る公孫樹が照らす平安神宮

 「血塗られし」という五音なら幾度と無く聞いた事がありますが、「朱塗られし」という五音は今回初めて聞きました。
 作中の「平安神宮」は、平安遷都を行った桓武天皇(第五十代)と平安京で過ごした最後の天皇である孝明天皇(第百二十一代)とを主祭神として祀った、かつての官幣大社である。
 その「大鳥居」から出て「来る」者が居たとしたら、それは時代祭の「時代風俗行列」でありましょう。
 時代祭が行われる十月二十二日は「公孫樹」の黄葉の真っ盛りの季節である。
 「維新勤王隊列」を先頭にした「時代風俗行列」の一行は、黄葉した「公孫樹の照らす」参道をしずしずしずと、厳かな隊列を連ねて歩み「来る」のでありましょう。
 〔返〕  血塗られし鞍馬寺への参道を誰ぞや出で来る鞍馬天狗か?   鳥羽省三  


(鮎美)
〇  まつすぐに朱肉に当てて圧しつける本日限りのこの姓の印

 「本日限りのこの性の印」と思えばこそ、より「まっずぐに」、しかもより強く離婚届の用紙に「圧しつけ」ようと思うのでありましょう。
 だが、あれほど注意して押したのにも関わらず、幾分か曲り、幾分か不鮮明な押印となってしまったは、人情の常として致し方無きことでありましょう。
 〔返〕  私文書の偽造とされて罰せらる夫の欄に押印すれば   鳥羽省三


(久野はすみ)
〇  週末は朱色のまふらあ巻き付けて風吹くまちのあなたに逢おう

 本作に接した瞬間、私は、今は亡き大野誠夫氏の「兵たりしものさまよへる風の市白きマフラーをまきたりし哀し」という名作を思い出してしまいました。
 思うに、本作の作者・久野はすみさんも亦、過ぎ去りし青春時代には、「週末」ともなれば、「朱色のまふらあ」を首に「巻き付け」て「風吹くまち」の街角に立つようなご経験をなさったような女性でありましょうか?
 〔返〕  歳末は赤い服来て白い髭サンタの小父さん煙突から来る   鳥羽省三


(鳥羽省三)
〇  朱里エイコ『北国行きで』『めぐり逢い』『イエイエ』ルックでダンスしました

 「朱里エイコ」(本名・田辺栄子・1948年3月19日~2004年7月31日)という女性歌手が居て、自由奔放とも思われる生涯を送り、『北国行きで』『めぐり逢い』『イエイエ』といったヒット曲を私たちの胸に刻み込み、五十六歳という若い年齢で虚血性心不全のため自宅にて死去した、などと記したとしたら、あまりにも粗略な解説に過ぎましょうか?
 〔返〕  鬱を病み失踪事件を繰り返し朱里エイコ死す2004年に   鳥羽省三