[特選一席]
〇 子どもらと手毬遊びの良寛の心の地獄うたに残れり (世田谷区) 野上 卓
「良寛の心の地獄うたに残れり」というフレーズに着目し、彼の歌聖・良寛の「心の地獄」を示唆するような歌を探そうとしましたが、残念ながら見つけることが出来ませんでした。
評者の私としては、「聖僧・良寛の童女拐帯疑惑」乃至は「童女視姦」を意味するような歌の存在を期待していたのでありましたが、貞心尼との間で交わされた相聞歌の中に、やや艶っぽい歌がちらほらしていた程度であり、それらしい気配は全く見られませんでした。
つきましては、何卒、ご教示賜りたくお願い申し上げます。
〔返〕 童べと手毬突きつつ後家さんの柔肌思ふ性僧であれ 鳥羽省三
[同二席]
〇 エジプトの路上でビーズを売りし子よアラブの春に砂嵐吹く (世田谷区) 芹澤弘子
好みの問題でもありましょうが、上の句に於いて「エジプト」観光と「アラブの春」とを強引に結び付けた挙句、下の二句を「アラブの春に砂嵐吹く」という常套的な表現で纏めただけの作品のように思われ、評者の私としては、あまり高く評価出来ません。
〔返〕 エジプトの砂漠で眺めた蠍座も目前の蠍座も同じ蠍座 鳥羽省三
[同三席]
〇 では最後に「遺伝子組み換え人間でない」のところの「はい」にチェックを (大阪市) 牛 隆佑
鬼才・牛隆佑さんの面目躍如たる傑作である。
特に末尾の七音「『はい』にチェックを」が、毎日を無為に過ごしている若者らしい趣きが感じられて宜しい。
〔返〕 お終いに「今の会社でのお仕事に満足している」の「no」にチェックを 鳥羽省三
[入選]
〇 おさな子をさらい育てて妻にする光源氏もマントヒヒらも (真庭市) 岡田耕平
特選一席の野上卓さんの御作に関連して申せば、歌僧・良寛にも「おさな子をさらい育てて妻にする」くらいの甲斐性と元気さが有って欲しかったところである。
〔返〕 鶴の子を犬君が食べてしまひけり伏せ籠に入れて育てしものを 鳥羽省三
〇 蒲公英に止まりて何を思いをり蝶となりたる荘子の裔か (高槻市) 奥本健一
季節柄「蒲公英に止ま」っている「蝶」を目にして、「荘子」の故事を思い出したのでありましょうが、「荘子の裔か」と疑問を呈しただけでは、単なる衒学趣味の発揮に終わってしまいます。
〔返〕 頬杖を突いたりしてはいけません蝶々のように遊べや遊べ 鳥羽省三
〇 ひまわりが覗こうとする通知表胸に隠して少女は駈ける (京都市) 麻倉 遙
一学期末の「通知表」を手にして背丈の高い「ひまわり」の花の下を「駈けて」行く「少女」を目にした時、本作の作者は、「少女」が「胸に隠して」いる「通知表」を「ひまわりが覗こう」としているように、ふと感じたのでありましょう。
学期末を迎えて一段と背丈が伸びた「少女」と、真夏を前にして草丈が一段と増した「ひまわり」との対比は、若々しい季節感と情感に溢れた新鮮な一首を形作っている。
〔返〕 通知表はあひるの行列気にもせず元気いっぱい遊べや遊べ 鳥羽省三
〇 あの子への想い沈める春とする桜舞い散る京都を歩く (富山市) 畠山拓郎
「桜舞い散る京都を歩く」のは、「あの子への想い」を断念し、激しい情念を沈めようとしてのことでありましょう。
失恋の思いに打ち拉がれている作者の目前で「舞い散る」「桜」は、青春の終りを象徴するものである。
〔返〕 円山の枝垂れ桜か醍醐寺の花見の宴か桜舞い散る 鳥羽省三
〇 蝶よ蝶よいまこそ遊べオルガンの吹子の風にはるかふかれて (川崎市) 川辺一穂
「オルガンの吹子の風」に吹かれて舞い遊ぶ「蝶」という見立てが宜しい。
〔返〕 オルガンの鞴の風に煽られてひらひらと舞う山吹の花 鳥羽省三
〇 母はわが子どもとなりて目を閉じぬ真昼あかるき湯に浸かりつつ (東村山市) 岡本和子
本作の魅力の全ては「真昼あかるき湯に浸かりつつ」という、下の句の七七音に係っているのである。
〔返〕 吾もまた子供になって目を瞑る妻に剃られる白髪の頭 鳥羽省三
〇 子どもらと手毬遊びの良寛の心の地獄うたに残れり (世田谷区) 野上 卓
「良寛の心の地獄うたに残れり」というフレーズに着目し、彼の歌聖・良寛の「心の地獄」を示唆するような歌を探そうとしましたが、残念ながら見つけることが出来ませんでした。
評者の私としては、「聖僧・良寛の童女拐帯疑惑」乃至は「童女視姦」を意味するような歌の存在を期待していたのでありましたが、貞心尼との間で交わされた相聞歌の中に、やや艶っぽい歌がちらほらしていた程度であり、それらしい気配は全く見られませんでした。
つきましては、何卒、ご教示賜りたくお願い申し上げます。
〔返〕 童べと手毬突きつつ後家さんの柔肌思ふ性僧であれ 鳥羽省三
[同二席]
〇 エジプトの路上でビーズを売りし子よアラブの春に砂嵐吹く (世田谷区) 芹澤弘子
好みの問題でもありましょうが、上の句に於いて「エジプト」観光と「アラブの春」とを強引に結び付けた挙句、下の二句を「アラブの春に砂嵐吹く」という常套的な表現で纏めただけの作品のように思われ、評者の私としては、あまり高く評価出来ません。
〔返〕 エジプトの砂漠で眺めた蠍座も目前の蠍座も同じ蠍座 鳥羽省三
[同三席]
〇 では最後に「遺伝子組み換え人間でない」のところの「はい」にチェックを (大阪市) 牛 隆佑
鬼才・牛隆佑さんの面目躍如たる傑作である。
特に末尾の七音「『はい』にチェックを」が、毎日を無為に過ごしている若者らしい趣きが感じられて宜しい。
〔返〕 お終いに「今の会社でのお仕事に満足している」の「no」にチェックを 鳥羽省三
[入選]
〇 おさな子をさらい育てて妻にする光源氏もマントヒヒらも (真庭市) 岡田耕平
特選一席の野上卓さんの御作に関連して申せば、歌僧・良寛にも「おさな子をさらい育てて妻にする」くらいの甲斐性と元気さが有って欲しかったところである。
〔返〕 鶴の子を犬君が食べてしまひけり伏せ籠に入れて育てしものを 鳥羽省三
〇 蒲公英に止まりて何を思いをり蝶となりたる荘子の裔か (高槻市) 奥本健一
季節柄「蒲公英に止ま」っている「蝶」を目にして、「荘子」の故事を思い出したのでありましょうが、「荘子の裔か」と疑問を呈しただけでは、単なる衒学趣味の発揮に終わってしまいます。
〔返〕 頬杖を突いたりしてはいけません蝶々のように遊べや遊べ 鳥羽省三
〇 ひまわりが覗こうとする通知表胸に隠して少女は駈ける (京都市) 麻倉 遙
一学期末の「通知表」を手にして背丈の高い「ひまわり」の花の下を「駈けて」行く「少女」を目にした時、本作の作者は、「少女」が「胸に隠して」いる「通知表」を「ひまわりが覗こう」としているように、ふと感じたのでありましょう。
学期末を迎えて一段と背丈が伸びた「少女」と、真夏を前にして草丈が一段と増した「ひまわり」との対比は、若々しい季節感と情感に溢れた新鮮な一首を形作っている。
〔返〕 通知表はあひるの行列気にもせず元気いっぱい遊べや遊べ 鳥羽省三
〇 あの子への想い沈める春とする桜舞い散る京都を歩く (富山市) 畠山拓郎
「桜舞い散る京都を歩く」のは、「あの子への想い」を断念し、激しい情念を沈めようとしてのことでありましょう。
失恋の思いに打ち拉がれている作者の目前で「舞い散る」「桜」は、青春の終りを象徴するものである。
〔返〕 円山の枝垂れ桜か醍醐寺の花見の宴か桜舞い散る 鳥羽省三
〇 蝶よ蝶よいまこそ遊べオルガンの吹子の風にはるかふかれて (川崎市) 川辺一穂
「オルガンの吹子の風」に吹かれて舞い遊ぶ「蝶」という見立てが宜しい。
〔返〕 オルガンの鞴の風に煽られてひらひらと舞う山吹の花 鳥羽省三
〇 母はわが子どもとなりて目を閉じぬ真昼あかるき湯に浸かりつつ (東村山市) 岡本和子
本作の魅力の全ては「真昼あかるき湯に浸かりつつ」という、下の句の七七音に係っているのである。
〔返〕 吾もまた子供になって目を瞑る妻に剃られる白髪の頭 鳥羽省三