心理セラピストのひとりごと

『象徴的イメージ統合療法』という心理療法を行っています。日々の中で感じたことを書いていこうと思います。

過去のトラウマを癒すことは、必要のないことなのだろうか?

2016年05月01日 | こころのこと


先週から、今年のトラウマ統合療法(現:象徴的イメージ統合療法)セラピスト養成講座を開始しました。今回の記事はちょっと専門的なことも入っていますが、講座のテキストの中から少し抜粋、加筆をして、最近気になっていることについてお伝えしていきたいと思います。ちょっと長いですが・・・f(^_^;)



トラウマ統合療法(現:象徴的イメージ統合療法)は、インナーチャイルド療法と前世療法を使った私独自のアプローチ方法を加えた「象徴的イメージ療法」ともいえる心理療法です。



セラピーにおける近年の時流は、「トラウマはない」、「過去にアプローチする必要はない」という流れになっています。



日本においては、この考え方は2014年に出版された「嫌われる勇気」という本がベストセラーになって脚光を浴びたアドラー心理学が提唱している理論で、それが社会全体に波及しているからではないかと思われます。



また、トラウマや過去のことを感じるのを嫌がる人が増えていることも間接的な理由に挙げられると思います。



では、ほんとうにトラウマはなくて、過去を扱うことは必要のないことなのでしょうか?



ここに、人間の心にはトラウマが存在し、過去からの影響はあるということを証明できる心理療法の現場からわかったシンプルな事例を二つ挙げてみます。



(1)フラッシュバック(日常で何度もよく思い出す過去のつらかった出来事。ここでいうフラッシュバックは事故や震災などでのPTSD[心的外傷後ストレス障害]ではなく、子供の頃の原家族[一緒に暮らしていた家族]との関係でトラウマを負った出来事のことで、無防備な子供の頃からのもの)は、セラピーで一回アプローチして癒すと、もう二度とそれを思い出したり、フラッシュバックすることがなくなる。



(2)セラピーの中で、子供の頃の過去の出来事がもう過去に終わってしまったということがわからなくなっていて、まだ続いているという感覚を持っている人がとてもたくさん存在する。



(1)の「フラッシュバック」は、一般的な心理療法や精神医学では治療が難しく、慎重に扱うべき症例としてストレートに扱わないことが多いです。



フラッシュバックがあること自体が過去からの影響が存在するという証明になるのですが、私の長年の経験ではここに一度アプローチして癒すと、(記憶としては当然なくならないですが)その過去のつらかった思いはまったくなくなってしまって、もう二度とその出来事をフラッシュバックしたり、わずらわされることがなくなります。



このフラッシュバックするということは、ほんとうは潜在意識が「この出来事はもう処理していいですよ。処理する時が来ましたよ」と言っているに過ぎません。



もしもそうではなくて、隠しておきたいことなのであれば、潜在意識は逆に意識下に沈めて抑圧し思い出せないようにして、不安を感じないようにします。



これが解離(トラウマを負った時にもうこれ以上傷つかないよう、心が不安定にならないようにするために生存本能として脳が感じることを麻痺させたり、忘れさせようとする防衛システム)です。



東日本大震災に遭った特に若い人たちは震災の記憶をなくしたり、おぼろげになっている人が大変多いと聞きます。



この方たちの潜在意識は、「もう少し時間をおきたいので、今はそれを思い出さないで」と言っているのです。ということは、事故や震災のショックがしばらく時間が経過した時に解離していない人は、それを処理できる(していい)タイミングであるということですし、子供の頃からのつらかった出来事が意識に上がってきている人は、それをもう癒す準備が出来ていてその時期が来たことを知らせてくれているということなのです。



このことに気づいている専門家(特に心理学、精神医学において)は少ないのではないかと感じています。



(2)の「過去に終わったことと思えない」は、過去の出来事がもう終わっていることとわかっていなくて、今現在も進行中であると感じていて、頭ではわかっていても(わからない人もおられますが)感覚的には終わったという感じがしないという人が驚くほど多いです。初めてこういう方がたくさんいるという事実に気づいた時には、大変驚いた記憶があります。



こうやって、人間の脳は過去の出来事から感じた「感覚」を処理できていないと、いつまでも刻印するように脳の中に残してしまうという事実があることが現場での経験からわかりました。



そして、過去のその出来事の時に感じた「感情」も処理が出来ていない(してもらえない)と、「感覚」と同じようにこの場合には心に刻印されるように残ってしまいます。



少し例を挙げて説明しますね。



仕事をバリバリとやってたくさんの結果を出しても満足できないというクライアントさんがおられました。



この方は、「自分しか出来ない仕事がしたい」という思いを持っていましたが、その奥には「人から評価されなければならない」という思い込み・観念がありました。



さらには「認められたい」という欲求と、たくさんの人から認められているという紛れもない事実があるのに、「認められない自分には価値がない」というネガティブな自己イメージがありました。



そして、そこにはやはり、「認めてもらえなかった」と強く感じた過去の出来事が存在しました。人間には必ずこういう原因が存在しています。



ほとんどの場合、それが親との関係から持ってしまい、この方の場合、「どれだけがんばっても、親がまったく認めてくれなかった」という過去のその時の「感覚」が脳に残り、その時に感じた「認めてもらえなくて、悲しい」という「感情」が心に残ってしまって、外から見るとわかりませんが、その人の内側、意識の中(主観)では終わった感じがなくてその時のままの状態で続いていたのです。



このような処理していない過去からの「感覚」と「感情」を残していると、いくら仕事で成功していても、人からよろこばれていても、色んなことがうまく行っていても、その人の内側ではまだ終わっていないので、満たされている現実には意識が向かなくなって、いつも不足、不満そして不安状態の中にいるようになってしまいます。



このようなことがとても多く(実はほとんど)の方の内側で、気づかないまま起こっているのです。



以上のような二つのことだけから見ても、人間には過去からの影響が明らかにあり、それがトラウマになっているということがわかります。



そして、それを癒すことでその人は過去からの影響が解放されて消え去り、まるで生まれ直したように、本人が驚くほど生きることがとても楽になっていきます。



では、なぜアドラー心理学では「トラウマはない」、「過去にアプローチする必要はない」と主張されているのでしょうか?



アドラー心理学(欧米では個人心理学と呼ばれています)の提唱者はアルフレッド・アドラーといわれる方です。アドラーさんは心理学の大家であるフロイトさんやユングさんと1900年初頭、共に勉強をした同時代の人です。この時代には、インナーチャイルド療法や前世療法などの過去を癒す手法はまだ開発されていませんでした。



トラウマや過去の影響を治療するすべ自体がまだなかったのです。



ですから、そこを扱ってもどうにもならないし、扱っても適切に対処できず悪化してしまうだけですので、トラウマや過去の影響はないものとして「今を生きる」ことに焦点を当てて行ったのだと思われます。



こういう経緯が背景にあったと感じていますが、それでも私はアドラー心理学はよい手法だと思っています。アドラー心理学は、その理論の中でも特に「共同体感覚」という捉え方がとても大切なものだと感じています。共同体感覚についてはアドラーさん自身も言われていますが、私もこれがもう人間存在においてとても大切な考え方、捉え方だと感じています。これこそが人類が身につけるというか、元々持っているものなので発露させるべきものだと感じています。

※共同体感覚とは、他者信頼、自己信頼、所属感(居場所がある)という思いを感じて、人間が全体の一部であること、全体とともに生きていることを実感し、全体を意識しながら行動しようとする思い、感覚のこと。



ですから一番いいのは、よりよく「今を生きる」ことをしながら、「過去からの影響とトラウマを癒していく」ことが人間の心のバランスをとっていく上ではとても理想的なことではないかと思います。



そして、過去をしっかりと癒していくためには、過去からの「感覚」と「感情」というこの二つのものに焦点を当てて行き、処理することが重要です。



(脳に刻印した)過去からの「感覚」を処理する有効な手法には、NLP(神経言語プログラミング)が代表的なもので、他にそれから派生した様々な手法があります。

※NLPとは、セラピーの分野で有名な催眠療法家のミルトン・エリクソン、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法家のバージニア・サティアという3人のセラピストのセラピーを分析し、共通のパターンをまとめた手法。



しかし、(心に刻印した)「感情」については、これほど人間にとってややこしいものはなく、それをコントロールしようとする方法は存在しても、過去からの「感情」をしっかりと焦点を当てて解放し、それをクライアント自身で安全で根源的に処理していくものは、長年の私のセラピー現場からの経験並びに実績から見ても、インナーチャイルド療法(インナーチャイルドの癒し)が最適なのではないかと感じています。



「感情」は、子供の頃に見ないように隠して感じないようにすることで、刻印するように残ってきたものですから、解放するには(安全に)それに向き合って「感じる」「受け入れる」のが矛盾がなく、論理的で一番適切な方法であることがわかります。

(本当は幼少期に、親、特に母親からありのままの「感情」を受け入れてもらえていると、ネガティブな「感覚」と「感情」は処理をされるので、そうされた子どもは過去の「感覚」と「感情」に煩わされることはなくなるのです。しかしここは、親自身が自分の親からそうされていないので、心からありのままに「受け入れる」という行為がどのようなものかがただわからなかっただけです)



それから、このインナーチャイルド療法(インナーチャイルドの癒し)は、同じような名称がついていてもすべての方法が同じな訳ではありません。



あるインナーチャイルドを癒す方法では、チャイルドに重なりながら、子供の頃の自分として感情を感じていきますが、この方法だと解離状態の中に、はまったままでその状態の領域の中にいるので、解離が続いていて深い感情は出てこない(出さない)ようになっています。



これは自分一人で感情を感じて解放しようとする場合も同じです。



また、この方法では、セラピスト(特に女性)が母親のような口調でチャイルドに重なったクライアントに話しかけて誘導することもあります。クライアントはそれによって安心感を得てはいくのですが、次第に安心をくれるセラピストを理想の母親として求めるようになりやすいのです。



そうすると、擬似的母親であるセラピストに依存するようになり、自分で自分自身を癒していくことができなくなります。

(ただ、私はそういうやり方も否定している訳ではなくて、例えば、受ける方があまりにも安心感がなかったり、安心感を感じることができない場合には、セラピストが明確な意図を持っているのであれば、依存的な形であっても、まずは少しでも安心感を強めてもらうということが必要になることもあります)



トラウマ統合療法(現:象徴的イメージ統合療法)のインナーチャイルド療法では、イメージでチャイルドを一貫してずっと客観的に見ていきます。客観視することで、過去の自分が置かれていた状況の全体像を認識、理解することが出来るようになります。



NLPなどではこれを「メタ認知」と呼んでいますが、とても簡単に説明すると、人は自分自身のことはあまりわからなくても、他の人のことは意外とよくわかることからも、このことが理解できると思います。



過去の置かれていた状況がわかる(理解、認識できる)と、その当時にほんとうは感じていた感情にも気づきはじめて、心の奥から感情が浮き上がってきます。



浮いて来た感情はフラッシュバックの原理と同じですから、すでに解放される準備が出来たものにしか過ぎません。例えこの感情がどんなにも深く重たいものだとしても、クライアント(大人の自分)に共感する感覚が自然に湧き上がってきて、クライアントさん自身でそれをありのまますべて受けとめることが出来るようになります。



感情が出て来るそのタイミングで子供の頃の自分を客観的に見ていれば、例えそれが、自分では到底受けとめられないと思ってきたような感情であっても、まったく自然にクライアントさん自身で安全にスムーズに受けとめることが出来るようになります。というか、受けとめたくてしようがなくなり、自然にチャイルドを心の底から受けとめてしまうのです。



トラウマ統合療法(現:象徴的イメージ統合療法)では、この流れが出てきた人は(変な例えですが勝利の方程式として)例外なく100%全員がその方自身が驚くほどに楽になります。私は数限りなくそのパターンを現場で体験してきました。(また、私自身の癒しの体験もそういう劇的なものでした)



トラウマ統合療法(現:象徴的イメージ統合療法)でのインナーチャイルド療法の一つの大きなポイントは、『チャイルドを終始一貫して客観視する』、『しっかりと「感情」にアプローチする』というところです。(前世療法についても、ポイントがありますがここでは割愛させて頂きます)



生きづらさを感じながらも、過去のことを感じていくのはしんどい、嫌だという方も多いと思います。ただ、ほんとうは過去からの感情は消えるために浮いて来るのに、それを止めてしまうから生きづらさがなくならないのであり、そうすると逆に余計ものすごく苦しくなってしまうだけなのです。そして、苦しくなると脳は解離してフリーズもしてしまいます。

(それでもやはり、過去のことを感じるのは嫌だと思われる方は、それは何も悪いことではなくてそれでいいのです。潜在意識は今現在の自分の状態に向いている方法、癒すタイミングを一番よく知っていますから、それがその方にとっての正解です)



心の奥から浮いてくる感情の深さ・重さと、自然に共感して癒し楽になって安心感を感じる強さは比例します。



自分が自分自身をありのまま受けとめ、癒すという行為により、自分以外の他のものに頼ったり依存することもなく、何があってもなくても、たった一人でいても自分の心の内にとても深い安心感、安定感が自然に確立されていきます。



アドラー心理学の「共同体感覚」でいえば、自分が自分自身を心からありのまま受け入れることで、「自己信頼」が出来るようになります。



また、自分をありのまま受け入れ愛することで、「所属感(居場所がある思い)」が自分自身の内側で感じられるようになります。



そして、自分を受け入れて信頼し深く安心していることが土台となり、自然に「他者信頼」をすることが出来るようになります。



そうやってはじめて、アドラーさんが究極として求めた「共同体感覚」も自然に発露されていきます。「共同体感覚」は、いくら理論として頭でわかっても、それを感じてそのように行動することは残念ながらどんなに努力しても、心からは出来ないのです。



これからの時代は、人間の本来持っている精神性、霊性を発露し、共同体感覚を発揮していくことが重要になってくるとヒシヒシと感じています。



そのためのサポートの方法は、セラピーやカウンセリング、ヒーリング、ボディワーク、ダンス、整体、リーディング、占い、音楽、芸術・・・・・・等々ほんとうに様々なものがありますが、私は結局はそのどれもが根本では同じところを目指しているのだと感じています。



人間には様々なタイプがありますので、様々な人に対応するために様々な方法が存在しているのだと思います。今、世に存在するどの手法もすべて大切な手法です。



みんながそれぞれの受け持ち分野で、様々な人に対応するために役割分担をしているのだと感じています。



私も私の受け持ち分野を楽しみながら全うしていきたいと思っています。私のセラピーやセラピストの養成が微力ながら人間本来の精神性、霊性発露のための一助になれることを願っています。


ホリスティック・セラピー研究所 http://holistic-ti.com
心理や人間存在についての専門的な内容は、HPの「こころのこと」に載せていきます。




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