第二次大戦中、防空壕で子供に話して聞かせるという体裁で、昔話を独自の視点で、ユーモラスに描き上げた作品。
無頼派作家、太宰治のもっとも充実した中期の古典を題材にした短編集。
出版社;新潮社(新潮文庫)
基本的に語りのおもしろい作品が多いという印象を受ける。
特に「新釈諸国噺」などはユーモラスな会話が実におもしろい。
たとえばその中の「吉野山」はどうだろう。
この作品は僧になった男の手紙と言う体裁をとっているのだが、その内容が実にアホだ。男の俗物としか言いようがない言い訳とか、情けなくなるくらいのダメ人間ッぷりとか、読んでいて普通に笑ってしまう。
その他にも「新釈諸国噺」には語りの際立った作品が多い。
「貧の意地」の金を巡るドタバタっぷりや、「大力」の親爺の息子に対する説得のウダウダっぷりとか、「赤い太鼓」のノリノリの愚痴や、「粋人」の体面を取り繕う嘘と婆さんの裏の考えや、ユーモア満点である。実にいい作品集で太宰のコメディセンスの高さを感じさせられる。
だが一方、表題作の「お伽草紙」は世間で言うほど、楽しくは読めなかった。太宰が物語に積極的に介入してくる様が鼻についてしまったからだ。
それでも、たとえば「かちかち山」の悲喜劇はなかなかのものである。個人的には、狸の最後のセリフが心に残った。
しかし、俗世間の代表者たる親戚の目を気にしていた太宰が本作ではだいぶポジティブな話を書いているなという印象を受け、新鮮であった。
特に「竹青」などは「人間失格」を書いた太宰とは思えないくらいである。太宰イコール暗いという人に読んでほしい作品だ。
評価:★★★(満点は★★★★★)