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友人野々村の妹夏子は、逆立ちと宙がえりが得意な、活発で、美しい容貌の持主。小説家の村岡は、野々村の誕生会の余興の席で窮地を救ってもらって以来、彼女に強く惹かれ、二人は彼の洋行後に結婚を誓う仲となった。ところが、村岡が無事洋行を終えて帰国する船中に届いたのは、あろうことか、夏子急死の報せであった……。至純で崇高な愛の感情を謳う、不朽の恋愛小説である。
出版社:新潮社(新潮文庫)
武者小路実篤は『友情』しか読んだことはないが、個人的には大して感銘を受けなかったと記憶している。
そういう風にふり返ると、本書も概ね似たような感想になった。
読み終わった後に、さして心に響いてこないのだ。
そう感じたのは結局のところ、物語の都合のためにヒロインを殺したように見えたからかもしれない。
著者の意図はともかく、そのお涙頂戴に見えかねないプロットが鼻をついたのである。
要するところ、個人的な好みに合わないということかもしれない。
とは言え、本書に良い面がないわけでもないのだ。
特に村岡と夏子の恋愛の過程は麗しいし、微笑ましい。
村岡は人前で逆立ちをしたり、バク転をしたりする活発な夏子に興味を持ち惹かれていく。
そこから二人の仲が親密になっていく様は見ていてほんわかしてくる。
互いに話を重ねて、やがてぞんざいな口調でも言い合える関係になっていくところなどはすばらしい。
しかし二人の仲はヨーロッパ旅行により断絶されることとなる。
それでも手紙を頻繁にやり取りして、愛をはぐくむ様は純愛小説らしい。
幾分甘いし、あまりに善人的な雰囲気は漂うけれど、心に残ることは確かだ。
そしてそう感じただけに、恋人の死という形で物語が終息してしまったことが残念でならない。
人が死ねば悲しいわけで、それが純愛であるほど、衝撃は大きいに決まっている。
そんなわかりきった形で終息するのは、確かに物語としては着地は美しくて、もやもやしてならない。はっきり言って惜しい。
とは言え、いろいろ目を引くポイントも多く、ほんわか温かい作品に感じたことは確か。
好みに合う人もいるのだろう、とも同時に思う作品でもある。
評価:★★(満点は★★★★★)
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