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2012年度作品。アメリカ映画。
インドのボンディシェリで動物園を経営していたパテル一家は、カナダ・モントリオールに移り住むことになる。ところが16歳の少年パイと両親、多くの動物たちを乗せた貨物船は、嵐に見舞われて沈没してしまう。ただ一人パイは救命ボートに逃れて一命を取り留めるが、何とそのボートにはリチャード・パーカーと名付けられたベンガルトラも身を潜めていた。はたしてトラはパイの命を奪うのか、それとも希望を与えるのか。かくしてパイと一頭のトラとの227日間にも及ぶ太平洋上の漂流生活が始まった……。
監督はアン・リー。
出演はスラージ・シャルマ、イルファン・カーンら。
正直言って、立ち上がりの遅い映画である。
パイの人生、というタイトルが示すように、まずパイの名前から説明されて、そこから三つの宗教にはまっていく、少年時代のエピソードが示されていく。
その中には、物語のメインである、動物園のトラとの関わりも描かれているが、どちらかと言うと、少年が神と命について触れていくというエピソードがメインだ。
そんな無駄としか思えないお話を、30分近くにわたって描いている。
若干長すぎるように思え、そのせいか、少したるい。
しかしそんな風に前半のエピソードに時間をかけた理由は、ラストでおぼろげに示される。
それは本作が、苛酷な状況下から救われる、サバイバル映画という意味合い以上に、魂に対する救いを希求する物語でもあるからだろう。
青年になったパイは、動物園を経営していた家族と一緒にカナダに移住することとなる。だが、その途中で嵐に遭い、遭難する。
シマウマ、ハイエナ、オランウータン、そして虎のリチャード・パーカーと一緒に、ライフボートに乗り合わせた彼は、海を漂流することとなる。
ちなみに最終的に生き延びるのは、パイと虎だけだ。そしてパイは虎と一緒に、太平洋を漂流することとなる。
そんな物語は、寓話的と言えば、寓話的だ。
そしてそんな寓話的な物語の印象は、映像の効果もあって、さらに高まっている。
まるで波一つない鏡のような海面、透明なクジラの派手なジャンプ、矢のようなトビウオの群れ、月明かりに照らされて光るクラゲたち、そして謎の浮島。
漂流している間に、パイが見る風景は、どこか幻想的な味わいをたたえている。
もちろん漂流シーンはいかにも大変そうだ。
虎と一緒のボートに乗り合わせていることもあり、ボートはほとんど虎に乗っ取られているようなもので、一緒のボートに乗ることなどできない。
その結果、お手製のボートで漂うパイの姿はみじめでさえある。
しかしそんな苛酷な生活を共にするうちに、パイは虎におびえ、憎み、敵対しながらも、奇妙な友情めいた思いを抱いていくこととなるのだ。
たとえば飢えた虎が魚を捕まえようと海に飛び込み、ボートに戻れなくなる場面。
それはパイにとって、虎を突き放す最大のチャンスだった。
でもパイは悩んだ末に、あえて虎をボートに戻している。
浮島の場面でも、パイは虎を置いていくことだってできたはずだ。
だけど、あえて虎を連れて行こうとしている。
パイと虎との間には、生きていくための対立もあった。
しかしパートナーとして、なんだかんだで一緒にやり過ごしていくこととなる。
しかしそんな虎も、カナダに着いた途端に、彼の元を離れてしまう。
その場面を見て、うん、まさに寓話的と言えば、寓話的な物語だな、と僕は感じた。
そしてそれが寓話的だったからこそ、その物語の後で語られる別の物語が非常に痛いのである。そしてあまりにも深いのである。
彼の告白を聞いたときには、かなりドキリとさせられた。
そしてそこにある真の意味に至り、切ないような思いに駆られてしまう。
多くを語らないけれど、そこにあるのは救いに対する希求だと思うのだ。
だからこそ、宗教的な前半が利いてくるのだろう。
そして、なぜ彼が虎と友情めいた関係を結んだのかも気づかされる。
彼は、虎(=悪)を認めようとしていたのかもしれない。そしてそんな彼の思いに静かに胸が震えてしまう。
「ライフ・オブ・パイ」はサバイバル映画である。
しかしそのラストのおかげで、サバイバル映画という枠を超えた、一人の人間の魂の物語であるとも気づかされる。
その余韻に心の震える一品であった。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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