2012年度作品。アメリカ映画。
貧しい家に生まれ、学校にもろくに通えない中、苦学を重ねてアメリカ合衆国第16代大統領となったエイブラハム・リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)。当時アメリカ南部ではまだ奴隷制が認められていたが、リンカーンはこれに反対していた。リンカーンの大統領当選を受けて、奴隷制存続を訴える南部の複数の州が合衆国から離脱しアメリカは分裂、さらに南北戦争へと発展する。自らの理想のために戦火が広がり若い命が散っていくことに苦悩するリンカーン。しかしついに彼は、合衆国大統領として、そして一人の父親として、ある決断をくだす……。
監督はスティーヴン・スピルバーグ。
出演はダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールドら
司馬遼太郎は『最後の将軍』のあとがきの中で、政治家を小説で描くことの難しさを語っている。
政治家は政治的な事象を生きているため、その政治的事象を描かざるをえない。
けれど、そこから浮かび上がってくる、その人の個性はほんの少しでしかない。
そしてそんな古臭い事象を描いても、読み手が興味を持ってくれるとは限らない。
理由はそんなところだったと思う(引用は不正確)。
「リンカーン」を見終わった後、僕が思い浮かべたのも、同様のことであった。
本作は、奴隷を禁じる法律も可決させるべく行動するリンカーンの戦いを描いている。
リンカーンはこれより以前に奴隷解放宣言を行なっているが、宣言ではなく、実際法案化することで解放された奴隷の人権を確保しようとしている。
そのためにリンカーンは、奴隷禁止法案を通せば、南部は北部と戦う理由がなくなり、戦争も早く終結する、という風に世論をリードしている。
それ自体は別に理解できるのだが、そこから先の政治的な駆け引きが、僕にはいまひとつわかりづらかった。
奴隷禁止を訴えるのが共和党で、奴隷制維持を訴えているのが民主党なのだが(現代とは保守リベラルの立ち位置が真逆だ)、その共和党の中でも、急進派がいたり、保守派がいたり、大統領に同調する一派がいたりで、幾分複雑であることは否めない。
と言うか、外国人の顔に慣れていないため、誰がどのような思想を持っているのか、わからなくなる場面も多々あった。
そういった点で混乱してしまい、個人的には素直に楽しめなかった部分はある。
しかしリンカーンの姿は誠実に描かれており、その辺りには感銘を受ける。
特に理想に向かってひたすらまい進する姿はすばらしい。
それでいて理想主義にありがちな、現実無視ではなく、かなり現実に即した行動で、周囲を取り込んでいくあたりは印象に残る。
またダニエル・デイ=ルイスもさすがの存在感を放っていた。
彼の言葉や身振りからは誠実で、しかしどこかマキャベリズムな理想家の姿がくっきり浮かび上がってきている。このあたりは見事だ。
個人的には、ストーリーなどにしっくり来ない部分もあった。もどかしいところもある。
だがリンカーンの個性はよく出ていたし、業績もきっちり説明してくれる。
手堅く仕上がった作品なのだろうな、と感じた次第である。
評価:★★(満点は★★★★★)
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