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屍者復活の技術が全欧に普及した十九世紀末、医学生ワトソンは大英帝国の諜報員となり、アフガニスタンに潜入。その奥地で彼を待ち受けていた屍者の国の王カラマーゾフより渾身の依頼を受け、「ヴィクターの手記」と最初の屍者ザ・ワンを追い求めて世界を駆ける―伊藤計劃の未完の絶筆を円城塔が完成させた奇蹟の超大作。
出版社:河出書房新社(河出文庫)
はっきり言って、すべての内容をちゃんと理解できたか、と言われたら疑わしい。
人物の利害関係や目的はわかりにくいし、ストーリーも幾分混みいっているからだ。
加えて淡々とした文体のため、頭にすんなり沁み込んでこないところもある。
戦闘シーンなんかはあっさりし過ぎて、いまひとつ緊迫感に乏しい。
しかし屍者復活が可能となった世界という設定のおもしろさ、著名な人物がたくさん登場し、それを惜しげもなく物語に投入する様には読んでいてワクワクした。
物語の広がりも豊かで、格の大きさを感じる小説、ってのが本作の率直な感想である。
ホームズの相棒としても有名なジョン・ワトソンは諜報員としてアフガニスタンに潜入する。
本作はそんな出足で始まる。
まず屍者が労働者や戦闘員として使用されている、という設定がおもしろい。
個人の尊厳とかってどうなるのだろう、って気もするけれど、それが当たり前の世界となって、現実の歴史に干渉している様などは興味深く読んだ。
こういう発想ってとってもユニークで、それを味わうだけでも楽しい。
それに登場人物のぶっこみかたもおもしろいのだ。
まず最初の展開で、アレクセイ・カラマーゾフが出てきて、びっくりさせられた。裏表紙のあらすじはあえて読まなかった分、驚きは大きい。
さながら『カラマーゾフの兄弟』の続篇を見せられるような気分になって、ワクワクさせられる。
ほかにも敵が、フランケンシュタインの造形したザ・ワンという設定もおもしろかった。
物語はその後、アフガニスタン、日本、アメリカと舞台を移しながら、活劇調で進んでいく。
日本史が好きなだけに、日本を舞台にしているところは目を引いた。
個人的には、山澤の示現流を思わせる剣術などは魅せられてしまう。
最後の方ほど、話はややこしくなり、頭がパンクしそうになった点は否めない。
しかしザ・ワンと、とある人物との意外な関係や、人格に影響を及ぼす菌株など、様々なアイデアがあまりにユニークで、その発想の豊かさには感服する他ない。
理解しきれない部分は多いけれど、展開を追い、世界を味わうだけでも楽しめた。
ともあれ、才筆二人の豊かな発想世界を堪能できる作品と感じる次第である。
評価:★★★(満点は★★★★★)
そのほかの伊藤計劃作品感想
『虐殺器官』
『The Indifference Engine』
『ハーモニー』
『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』
そのほかの円城塔作品感想
『道化師の蝶』
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