私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

筒井康隆『ロートレック荘事件』

2015-09-20 09:29:53 | 小説(国内ミステリ等)
 
夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが……。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か? アリバイを持たぬ者は? 動機は? 推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。
出版社:新潮社(新潮文庫)



ともかく上手い作品である。
非常に緻密な構成の下につくられていて感服するばかりだった。
そしてミステリの醍醐味である、だまされる快楽に存分にひたれる一冊である。


ネタばれなしで書き進むのは不可能なので、結末に触れつつ書いていきたい。

冒頭の文章の後、2章で視点が切り替わったとき、何となくぎこちなさを感じた。
そのため、ひょっとして叙述トリックなのではないかな、と気をつけながら、読み進めて行ったつもりである。

しかしそれでもこの展開には、まったく気づかないままに真相に至ってしまった。
同一人物と作中思われていた人物が、実は同一人物ではなかったとは思いもよらなかった。


そのミスリードを果たす上で、特に会話文の上手さは見事だ。
普通に読んでいると、二人だけの会話にも読めるのだが、ちゃんと三人での会話になるように計算して書いているのだから、恐れ入る。
そのほかにも、部屋の配置と言い、思い込みを見事に利用して描かれていて、感服する他にない。

それに章ごとの視点の移動もすばらしい。
こういう使い方で持って、読み手をだますことも可能だと知らされる。筒井康隆の天才性がうかがえるようだ。

ラストの真相のシーンを読んでいると、著者も相当神経をつかっていたことがよく伝わってくる。


ともあれ、驚きの体験を味わえる一冊だ。
丁寧な作者の仕事を賞賛したい。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


そのほかの筒井康隆作品感想
 『懲戒の部屋 自選ホラー傑作集1』

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