私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「アメリカン・スナイパー」

2015-04-24 22:49:41 | 映画(あ行)
 
2014年度作品。アメリカ映画。
アメリカ軍史上最強の狙撃手と言われた故クリス・カイルの自伝を、ブラッドリー・クーパーを主演に迎え、クリント・イーストウッド監督が映画化した人間ドラマ。過酷な戦場での実情や、故郷に残してきた家族への思いなど、ひとりの兵士の姿を通して、現代のアメリカが直面する問題を浮き彫りにする。
監督はクリント・イーストウッド。
出演はブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラーら。




タイトルに「アメリカン」とついているからかもしれないが、アメリカの問題点がにじみ出たような映画だった。
具体的に言うと、正義の押し付けというべき、アメリカの起こした戦争と、それに伴う兵士たちのPTSDの問題である。
その描写が何かと考えさせられる一品だ。


舞台は2003年より始まったイラク戦争だ。
日本人の僕は、アメリカの側にも、イラクの側にもつかない中立的な立場にいる。
だから本作で描かれるイラク戦争は、アメリカの視点に依っているとは言え、双方が愚かしく、まちがっていると感じた。

とは言え、イラクの側には幾分同情せざるをえないというのが本音である。

クリスをはじめとしたアメリカ兵士たちは、イラク人を殺害するとき、何かと言うと、そうしなければ海兵隊がもっと多く死んでいた、と言っては自分の行為を正当化する。
だけども、イラク人の住まう領域に侵攻していったのだから、命を狙われるのは当然だろう、と僕としては思ってしまうのだ。
それだけに彼らの正義に鼻白む気持ちは強い。

本作はその手のアメリカの価値観が存分に出ている。もう臆面もないくらいだ。
それだけに、本作は実のところ、イラク人を無残に殺すことで、婉曲的にアメリカのやり方を皮肉っているのでは、という気分にもなってくるほどだった。


そんなイラク戦争で、クリスはスナイパーとしてたくさんの戦功をあげていく。

だが子供や女を射殺し、戦場で命の危険にさらされていくことで、精神的に苦しんでいることはまちがいない。
クリスは何回かアメリカに帰国してはいるのだけど、平和なアメリカにあっても、物音に敏感になる描写が散見される。
彼はつまり、かなり早い段階から、PTSDの症状を発していたということだろう。
加えて、身重の妻を残して戦場に行くことで、家族の仲もぎくしゃくしてしまっているのだ。

戦争の罪は、戦場での死傷ばかりにあるのではない。
戦争にかかわる人々の、予後の生活にも影響を与えることもまた、戦争の罪の一つだろう。
本作は、そのような事実を伝えていて、痛ましく感じる。


そんな彼だからこそ、帰還兵のケアに当たることになる。
だがそれが原因で、病んだ帰還兵に殺されてしまうのだから、皮肉としか言いようがない。
しかも殺された方法が、彼の得意武器である銃というからやるせない。
主眼は戦争の映画だけど、銃もまた、アメリカの病理の一つなのだな、と、「アメリカン」の名のつく映画なだけに、つくづくと考えてしまう。

そんな社会的な病理と、それに苦しむ個人の姿が印象的である。
イーストウッドらしい骨太な作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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