私的感想:本/映画

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吉田修一『春、バーニーズで』

2015-10-15 21:37:45 | 小説(国内男性作家)
 
妻と幼い息子を連れた筒井は、むかし一緒に暮らしていたその人と、偶然バーニーズで再会する。懐かしいその人は、まだ学生らしき若い男の服を選んでいた。日常のふとしたときに流れ出す、選ばなかったもうひとつの時間。デビュー作「最後の息子」の主人公のその後が、精緻な文章で綴られる連作短篇集。
出版社:文藝春秋(文春文庫)




5作品中、4作品、具体的には『春、バーニーズで』『パパが電車をおりるころ』『夫婦の悪戯』『パーキングエリア』は同系列の話である。
できるならば筒井と瞳と文樹の内容で一本通してほしかったのだが、まあ仕方あるまい。

『最後の息子』を読んだことはないが、知らなくても、すっと物語に入りこめるのがよかった。
事情は複雑だけど、普通の家族の風景を描いていて、しかも読ませる力があって、忘れがたい。


『春、バーニーズで』は昔のゲイの愛人と再会する話だ。
そこには過去をなつかしむ気持ちはあっても、もっとニュートラルなものだ。
一人の親となって、歳は取ったけれど、血の繋がっていない息子のために、もっと複雑な現実を見せようとするラストシーンなどは、父の自覚と過去をふわりとなつかしむ気持ちとが見えて温かい気持ちになれる。


『パパが電車をおりるころ』は意識の流れのようで、おもしろい。
しかしその中にあって考えるのは、血の繋がっていない息子のことであり、妻のことってあたりに、筒井のパーソナリティを見るようだ。


とは言え、『夫婦の悪戯』を読んでいると、たとえ仲良くすごす夫婦であっても、時として危機的事態に陥ることもあることを知らされる。
それは相手に知られたくない秘密が露わになるときだろう。
どんなに憧れの夫婦と見られても、そこにあるのは、壊そうと思えば簡単に壊れる関係性でしかないのかもしれない。


『パーキング』はそんな筒井の疲れが現れたものと言えるだろうか。
言うなればぼんやりとした不安ってところだと思う。
今の現実が取り返しのつかないものではないか、という不安が彼にそんな行動を取らせたのではないだろうか。

とは言え、現実的にはいつまでも逃げるわけにはいかない。
そんな中で妻の温かさは沁みることだろう。
そこには彼女なりの、血の繋がっていない息子の父親になってくれている事に対する負い目、とかいろいろな思いもあるのだろう。
しかし思いやることで夫婦は繋がっていられるのかもしれない。そう思った次第である。

評価:★★★(満点は★★★★★)



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