私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『Story Seller』

2012-10-04 21:33:39 | NF・エッセイ・詩歌等

これぞ「物語」のドリームチーム。日本のエンターテインメント界を代表する7人が、読み切り小説で競演!短編並の長さで読み応えは長編並、という作品がズラリと並びました。まさに永久保存版アンソロジー。どこから読んでも、極上の読書体験が待つことをお約束します。お気に入りの作家から読むも良し、新しい出会いを探すも良し。著作リストも完備して、新規開拓の入門書としても最適。
出版社:新潮社(新潮文庫)




僕は『Story Seller 2』から先に読んだのだが、個人的には『2』より本書を楽しく読んだ。
だがどの作家も、それぞれの持ち味を出しており、それはそれで印象は良い。

特に、米澤穂信、近藤史恵、有川浩、佐藤友哉の作品が楽しかった。
以下、各作品の簡単な感想を記す。



・伊坂幸太郎『首折り男の周辺』

『ラッシュ・ライフ』を思わせる。
殺し屋と気弱な男が瓜二つというのが、ご都合主義的だけど、そこから生まれる微妙な混乱がおもしろい。
ラストの展開は、この作者らしい独特の味わいがあった。



・近藤史恵『プロトンの中の孤独』

一言で言うなら上手い。特にキャラ造形が見事だ。

周りと壁をつくっている感のある石尾。そして決して集団に馴染めているとは言えない赤城。それぞれの存在から、嫉妬ややっかみなどの集団の齟齬が生まれる過程がなかなか読ませる。
ラストは、その齟齬を逆手に取ったような展開が待っていて、感心させられた。

人が集まるといろいろある。けれど、人が集まるからこそいろいろ可能性が生まれる。
「団体競技だからこそ、戦略はひとつではなく、無数に広がる」という言葉があるけれど、それは、戦略のみならず、人間との関係においても同様のことは言えるのかもしれない。



・有川浩『ストーリー・セラー』

かなり力技の作品。
特に男が強引にキスをするシーンはただただドン引き。いくら途中で読書を邪魔されたくないから、ってそれはねえよ、と苦笑する。
それ以外にも、病気のところとか引っかかるポイントはある。

しかしそれ以外は良い。
個人的に目を引いたのはディテールの部分だ。
作家になってからの、編集者に対する自己主張の部分や、実家との関係を描いた部分などはリアリティがあって、臨場感がある。
やっぱり力量のある作家なんだな、と改めて思い知らされた。



・米澤穂信『玉野五十鈴の誉れ』

『儚い羊たちの祝宴』の方に書いたので、ここでは略す。
この中では一番好きな作品。



・佐藤友哉『333のテッペン』

メタだな、って読んでいる間思った。しかしそのメタっぽさがおもしろかったりする。
探偵小説はじめ、物語というのは非日常を極めすぎて、ときとして滑稽となりかねない。
そんな中、生々しい非日常的な人物を描いて、対比させるという、その設定がおもしろい。
キャラの存在感も個人的には惹かれた。



・道尾秀介『光の箱』

作為が透けて見えるけれど、予想外の展開には驚く。いい話である。



・本多孝好『ここじゃない場所』

長い物語の外伝のような話。わかりやすいくらいのエンタテイメント。
僕が本多孝好にもっていた先入観とちがい、ファンタジー色が強かったのでびっくりする。
しかし謎めいた能力を持つ秋山たちの個性はよく、四人の能力を使ったら、どんな話が展開するのだろうな、と期待をもたせるあたりは良かった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



有川浩作品感想
 『塩の街 wish on my precious』
 『空の中』


伊坂幸太郎作品感想
 『アヒルと鴨のコインロッカー』
 『グラスホッパー』
 『ゴールデン・スランバー』
 『砂漠』
 『死神の精度』
 『重力ピエロ』
 『チルドレン』
 『魔王』


近藤史恵作品感想
 『サクリファイス』


道尾秀介作品感想
 『カラスの親指』
 『光媒の花』
 『シャドウ』
 『向日葵の咲かない夏』
 『骸の爪』


米澤穂信作品感想
 『さよなら妖精』
 『春期限定いちごタルト事件』
 『夏期限定トロピカルパフェ事件』
 『追想五断章』
 『儚い羊たちの祝宴』

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