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未開で新鮮、善悪を識別することの出来ない子供たち。同性愛、盗み、虚偽、毒薬……。無目的な混乱と不安定な精神が、やがて情熱へと発展し悲劇的な死にいたるまでの姿を、鋭利な刃物のような言葉で描く小説詩。
東郷青児 訳
出版社:角川書店(角川文庫)
『怖るべき子供たち』を初めて読んだのは、僕がまだ十代のころだ。
当時の感想は、よくわからないけれど、何かが引っかかる作品、ってところだったと思う。
確かにこの作品はよくわからない。
表現はもったいぶっていて、回りくどいし、登場人物の心理も意味不明だ。
しかしキャラクターの個性は激しく、その激しさがおもしろい作品でもあった。
子供たち、というタイトルがついているが、本作の主人公たちは正確に言うなら、ティーンエイジャーである。
そんなティーンエイジャーの中で、中心にいるのは、エリザベートとポールの姉弟だ。
そしてこの姉弟が、僕にはまったくもって理解できなかったのである。
エリザベートは気の強い女だ。
初登場の場面からして、いきなりケンカ腰だし、弟をからかって怒らせることは多い。
それでいて、姉弟の間には、どこか近親相姦的な雰囲気さえ感じられる。
ベッドで寝込んで甘えてくる弟に対して、優しく接したりするところなどは、深読みかもしれないけれど、その印象は強い。
ケンカばかりしているのに、二人の関係は分かちがたい一組のカップルだ。
「エリザベートとポールとは、互いにいつくしみ合っていながら、また互いにいがみ合っていた」という文章があるけれど、その言葉が二人の関係のすべてを物語っている。
そしてそんな姉弟の姿に、僕は読みながら困惑してしまう。
二人は(特にエリザベートは)相手に強い愛着を持ちながらも、その愛着ゆえに、相手を傷つけずにいられないように見える。
そしてその愛着の強さゆえ、エリザベートは、アガートの本当の気持ちを知ったとき、あのような行動を取ったのだろう。
彼女は弟をひたすら独占したかったのだと思う。
だからこそ、エリザベートは相手を傷つけてでも、ポールを自分の側に置いておきたかったのかもしれない。
それはそれで別にかまわない。
だが、僕にはそんなエリザベートの心情が、理性では理解できるけれど、感情ではまったく理解できないのである。
大体、エリザベートは一回結婚をしているのだ。
あんた、自分は結婚しといて、弟にはその仕打ちかい、とどうしても思わずにいられない。
はっきり言って、エリザベートはヤンデレとしか思えないのだ。
だからこそ、僕には理解不能であり、同時に怖ろしくも感じられる。
特にラストの方のエリザベートの行動には、軽く引いてしまった。
そのマジな行動に、こいつはアホか、と何度思ったことか。
しかしエリザベートのアホな行動は、すさまじいまでの感情の発露でもあるのだ。
そしてそれが激しいだけに、破滅に向かって一気に突き進む姿が圧倒的なのである。
姉弟以外のエピソードでも、同性愛を思わせる描写など、細かいガジェットは光っている。
個人的には、あんな姉弟にふり回されたジェラールとアガートの二人を哀れに感じた。
ともあれいろいろな点が光る作品である。
再読してよかったと心から思った次第だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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