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『症例A』 多島斗志之

『症例A』
多島斗志之
角川文庫

「精神分裂症」という病名が「統合失調症」と改められていること
をこの本で初めて知った。

本書では、精神科医が、ある少女の患者の、真実の”病根”をつき
とめようとする。その判断の難しさや、患者の苦しみ、「心の病」の
治療の難しさを、サイドストーリーとからめて、繊細に描いている。

人の心というのは、本当に頼りなく、危ういものだ、といつも思う。
映画『カッコウの巣の上で』しかり、”正常”というのは、一体どんな
状態なのだろうか?”異常”というのは?
”正常”でないと、それは”異常”ということなのだろうか。
いつも考えさせられる。

人間の体、神経の構造はとても複雑で、社会生活、日常生活が
普通に送れている(と思われる)私たちにとっては、何でもないこと
であるが、その複雑な構造のひとつにでも、何か異常(正常でない)
なことが起こると、人の心は壊れていく。
正常だと思っている今の自分の精神も、実は頼りなく、危ういもの
なのではないか。
心を正常に保つということは、実は大変なことなのではないか。
それだけ、心の障害というものが、特別ではない、ということだ。

そして、精神病を診断する精神科の医師たちも、その診断がとても
難しく、とても繊細なものであることを知った。
そんな「心の病」を膨大な資料や取材でしっかりと描かれているようで、
もうひとつのストーリー(謎解き)とが「真実とは」という共通テーマ
を元に上手にからめてあり、読み応えのある1冊だった。
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