ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

174 図説天体望遠鏡入門 田中千秋

2010-12-12 08:13:18 | た行
 図書館より。立風書房。なんてロマンティックな社名。

 科学書なのに縦書きである。これから始める初心者のためにレンズの理論からやさしく解説した本、なのだが、それよりも破壊力があるものがある。

 それはモデルのお姉さんである。可憐だ。化粧気のない80年代の女性だ。
 高校生の同級生でいたような、頭頂で結んでそのまま広がった髪形。無造作な白いブラウス。ジーンズは股上が深く、へその辺りにベルトがある。10センチも足首が見える裾丈。もちろんスニーカーソックスではない。
 「観望会を開こう」なんて章があるが、このお姉さんのために観望会に人が集まっているのではないかと思えるほどだ。
 あ、著者は男性です。著者の住所が載っているところがまた昭和。

162 手塚治虫の描いた戦争 手塚治虫

2010-11-07 16:11:03 | た行
 図書館より。朝日文庫。

 12編とあとがきのようなエッセイが一つ。
 なんと言っても自伝的作品『紙の砦』を読んでおきたい。エッセイそのままなのでほぼ実話であろう。ブラック・ジャックからは『アナフィキラシー』。麻酔なしで手術した若い軍人が……という話である。『ゼフィルス』のような作品が週刊サンデーに載っていたとは。

#たった一度でいい くちびるを許してくださらんか(『カノン』より)

161 再古参将棋記者高みの見物 田辺忠幸

2010-11-07 15:48:31 | た行
 図書館より。講談社プラスアルファ新書。

 将棋界では有名な人なのだと思う。
 1931年生まれの筆者が、共同通信の記者として、棋王戦を立ち上げ、初の海外対局を行った。それだけのバイタリティがある。またユーモアもあり、細かいところに気がつく。そんな人が好きに書いたのだからおもしろくないわけがない。

「終盤に圧倒的な強さを見せた村山聖九段」なんてキャプションがうれしい。あのぷくぷく顔がいい。

#中には残り一分になっているのに「あと何分」と聞く人もいる。
 一二三さんのことだ!

*記録員にジュースを買うよう頼む、あるいは手を確認する(プロが見ればわかるはず)、あるいは写真撮影のときどけるのはよくない。
*東京将棋会館という建物はない。筆者は「・」を入れていた。碓井涼子さん、天野貴元さんはもそうする。
#イビアナなんて気持ちの悪いものもある。私めは「居飛車穴熊」としか書かない。
#坂口安吾と言えば、実に素晴らしい観戦記を書いた作家
*玉は王が正しい。しかしテレビ対局で「王様」と呼ぶのは滑稽である。
*写真撮影のための初手やり直しは将棋界最悪の習慣

【後日付記】子供のころ買った「早わかり将棋なんでも入門」という本がある。その著者も著者だった。共著は原田泰夫九段。米長さん、ひふみん、内藤さんも九段。谷川浩司八段、田中寅彦七段がプロフィール最後のページ。

159 教授の異常な弁解 土屋賢二

2010-11-02 05:51:23 | た行
 図書館より。文藝春秋。

 これはヒット。教授らしいひねくれた笑いのレトリックが炸裂している。
#(変装して)敬虔な神父か、神父に変装した不信心な大学教授に見える。

 また久しぶりに英語直訳会話がある。「妻」のホテルとのやり取りがおもしろい。
「私は危険です」
「オー。あなたは危険な女性なのですか。では大丈夫です」
(以上うろ覚え)

 

151 談志最後の落語論 立川談志

2010-09-29 06:14:51 | た行
 図書館より。梧桐書院。

 実は談志師の落語は聞いたことがない。私が通っていたところの、寄席に出ないからだ。

 年齢と体調からは逃れられないのか、老い先のことが何度も語られる。
 これからの落語会はどうなってしまうのか。著者によると家元が最後の落語家だそうだ。

 言葉の定義がわからない。
#落語とは、人間の業の肯定である。
#落語とは、非常識の肯定である。
 これはまだいい。
#イリュージョンというのは、毎度言うとおり、宇宙に群れあっている無数のモノやコト、生き物から、さっと一部だけを持ってきて、”どうでい”と示すものだ、という言い方もできる。(略)
#「番頭さん、金魚、どうしたい」
#「食べませんよ」
# これなどは、イリュージョン以外の何者でもない。
 きっと後世の人が分析してくれるであろう。現在すでに、かな。

 以下はわかりやすい例。
#伝統とは何か。それは「時間」である。

#「ナンセンス」は”どっか常識とは違っている””ズレている”という可笑しさを誘うものだ。
#「ウィット」は”野郎、巧いこと言やがったな”というもの。
#「ジョーク」は練って練って作り上げるものだ。

#(名跡を襲名した中で)円歌なぞはいいのではないか。歌奴の円歌です。嘘奴、嘘つき円歌。(略)私が大勢いる前で、
#「これね、”嘘奴”っつってね、嘘ばっかりついてんだ」
# なんと言っても、へらへらと笑っている。それを見て、「面白い奴だなあ」と思ったネ。(略)あれほどどこで演っても受けた芸人を私は知らない。

#”何であんな古くせえ名前を継いだんだ”と言われたネ。
# けど、今になってみると、いい名だ。「志を談る(かたる)」。今更、ほかの名は考えられない。
 

146 B級グルメが地方を救う 田村秀

2010-09-11 05:49:50 | た行
 図書館より。集英社新書。

 しばしばB級グルメなる言葉を耳にする。わが県には横手焼きそばがあり、一度試してみた。口に合わなかった。
 かたきをとる意味で借りてみた本。焼きそば、餃子、とんかつなど、全国を実地に調査した労力に好感が持てる。

 著者は何者かというと地方自治体格差を研究している学者。著書に『自治体格差が国を滅ぼす』『自治体変革の現実と政策』などあって、この本だけ浮いていておもしろい。

139 谷川真理が案内するご当地マラソン 谷川真理

2010-08-14 14:37:50 | た行
 図書館より。中経出版。正しくは監修:谷川真理。

 私は真理さんのファンなので借りたのだが、出番は賞味8㌻。
*靴はかかとに指一本入るサイズ。初心者は屈曲性が高くソールが厚めのもの。
#1 走るときの目線は自分の身長の1.5倍先の路面(あまり遠くを見て走ると自分が進んでいることがわからなくなり、気持ちが沈むもの。)
#2 呼吸は口でする
#3 骨盤を前に動かすイメージ(ローリング走法) みぞおちから足が出ているとイメージすることでも一歩の踏み出しが広くなる。
#4 かかとからしっかり着地
#5 ひじは90°

 あとは編集部が調べたらしい48の人気マラソンがかわいいイラストで紹介される。それはそれで楽しいのだが、真理さんは自分の名を冠した「谷川真理ハーフマラソン」のページにしか登場しない。せめていくつかでも真理さんのコメントをもらいたいものだ。全国に招待されているであろうし。
 つくりはしっかりしている。コース、名所、名物料理、参加賞、応援やコスプレランナーなど、実際に参加したとは思う。
 それだけに名前だけの真理さんがもったいないのだ。表紙の写真もウェブログの使い回しだ。

136 英語にさようなら 鳥飼玖美子

2010-08-14 13:49:35 | た行
 図書館より。実日新書。何かと思ったら実業之日本社ね。

 同時通訳の草分けである著者が今までに溜めたフラストレーションを吐き出した本。
「どうすれば英語ができるでしょう」「娘の花嫁修業に同時通訳をさせたい」「留学について知っていることをすべて教えてください。返信封筒なしで」などお茶の間のアイドルになってしまったために吹っかけられる不快な出来事を書き散らす。
 大手洋酒メーカーに、キャンペーンレディーと同じ鹿鳴館ドレスを着るように言われ、頑として断る。断ったら通訳をはずされた。
 飛行機の中で寝ているところを腕をつかまれて起こされ、サインを強要されるなど同情できる部分はある。
 いずれ英語を話すお姉ちゃんとして軽く見られ、一般人からは特別な人扱いされ、仕事はハードで、言いたいことがたまっていたのであろう。

 ただ、小さいころから英語の付き合いを詳述しており、記録の価値は高い。
*democratの"mo"にアクセントを置いて発音したらみんなニコニコする。わけを聞いたら「間違った発音がかわいい」。
#「私はきちんとした正しい英語を覚えたくて、アメリカに来たんじゃない。かわいい英語なんてしゃべりたくないわよ!」
*ホームステイ先でdidn'tの発音を寄ってたかって直された。
#こんなちっぽけな単語が、今まで正確に発音できていなかったなんて、と悲嘆にくれながら、私は体中を耳にして音を聞きわけようとした。

 カバーには別の本『玖美子のおしゃべり』の写真がある。悪相だ。アップを表紙にするあたり、アイドルの本としての販売戦略が見える。
 なんかひどいことを書いているが、現在は英語の偉い人として活躍中である。若気の至りとして思い出したくない本なのではないであろうか。

135 パーフェクトプログラム 田村明子

2010-08-10 07:24:07 | た行
 図書館より。新潮社。

 バンクーバー五輪に挑む、浅田真央、高橋大輔らフィギュアスケーターたちの思いを描く。
 著者の立ち位置が絶妙である。通訳。これほど選手に密着した位置はない。選手が目の前でしゃべっているような臨場感だ。フィギュアを長年見ていた人のようで、伊藤みどりさんがどんなにすばらしい選手か、この技を成功させた(下りた、という表現をする)のは世界に何人だけか、などすらすらと語る。

 ただしもう完全に協会(?)よりの立ち位置なので、スキャンダル報道された会長や城田コーチのことは決して悪く言わない。

 フィギュアは高難度なジャンプに挑むべきなのか、それともリスクを排除するべきなのか。プルシェンコが発言し物議を醸した問題だが、これはおもしろい。著者は前者の側に立っている。

 この本の前半は五輪前に書かれた。このため、偶然かもしれないが、「この先どうなる?」と読者をはらはらさせるような文章表現になっている。
 なんだかんだ言ってお勧め。