ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

35 最後の遭遇 柘植久慶

2007-08-26 19:31:05 | た行
 徳間ノベルス。

 1945年、フィリピン、ルソン島。山村太郎とジョン・ブラウンは、味方を失いお互い孤軍となってしまう。技量、体力、精神力、知識、運、すべてをかけたサバイバルが始まる。

 圧倒的なリアリティ。新兵器も、都合のいい救援も、奇跡も何も起こらない。
 あるのは、1センチでも死から生に近付こうとする営為のみ。
 逆光では見えない。目に土が入ったら決してこすらず水で流す。蛇がいるから藪には入らない。レンズで着火する。非常用食料には、チョコレート。

 敵味方が400メートルに布陣しているというのも興味深い。思ったより近い間隔だ。
 二人は、よく独り言を言う。ときには、方針の確認のためにつぶやく。ときには、くじけないように、自分を鼓舞するためにつぶやく。声に出して、明確化するのだ。

 ドッグイアー。

#「焚火を始めるときも気をつけにゃならんことがある」父親が続けた。「冬はな、風通しのよいように組んだら、上から火を点ける。夏はその逆でな、やはり風通しに注意して薪を組み、下から火を点けるんだ」
「ふーん」
「夏下冬上って言うんだ。よく覚えておけよ。大切なことだからな」

34 歴史的仮名遣い 築島裕

2007-08-17 20:23:11 | た行
 副題、その成立と特徴。中公新書。裕は、ひろし、と読む。

 史料の整理という意味では抜群である。年代順に、この史料ではA、この史料ではB、と丹念に並べている。

 ところが私レベルだと、昔の仮名遣いにはどういう特徴があるかわかっていない。あいうえおの代わりに、ハ行やゐ、ゑ、を、を使ったらしいということしかわからない。そういうガイダンス的機能は本書にはない。

 あくまでも知識がある人が、レファレンスとして引く本のようである。

 ドッグイアー。

#一般に歌の本文には漢語は用いられなかったが、詞書には、漢語の例も少なくなかった。

#(12~13ページは、まとめられないが、歴史的仮名遣いの基礎が語られている。)

33 星の王子さま サンテグジュペリ

2007-08-02 18:18:48 | さ行
 池澤夏樹・訳。2005年第一刷の、新訳だ。集英社文庫。

 この年になるまで、本作を読んだことがなかった。
 例の、「大切なものは、目に見えないものなんだよ」という台詞をどこからか聞いて、わかった気になっていた。
 始めは、もどかしい。主人公と王子のひねくれた考え方に、ついていけない。王子の宇宙遍歴を聞くころになると、だいぶ慣れて読みやすくなる。
 その星その星で奇妙な人々に会うのだが、その寓話が優れている。ああこんなしゃちほこばった部分が自分にないだろうか、と考えされられる。
 終末、王子との別れでは、読んでいるこちらの胸が苦しくなるほどいとおしい。

 ドッグイアー。

#「じゃ秘密を言うよ。簡単なことなんだ――ものは心で見る。肝心なことは目では見えない」

#「何よりも忍耐がいるね」とキツネは言った。「最初は草の中で、こんな風に、おたがいちょっと離れて坐る。おれは君を目の隅で見るようにして、君の方も何も言わない。言葉は誤解のもとだからね。でも、毎日少しずつ近くに坐るようにしていけば……」

#(訳者のあとがきより)翻訳というのはとても丁寧に本を読むことだ。