ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

190 シリコンバレーから将棋を観る 梅田望夫

2011-02-05 07:12:28 | あ行
 図書館より。中央公論新社。副題、羽生善治と現代。

 羽生善治がいかに革新的であり、研究と勝負を両立させていったかがわかる本。
 著者はシリコンバレー在住のIT社長。あの「はてな」の偉い人でもある。

*趣味は将棋観戦
*これまでの将棋界は「好きな人」イコール「将棋が強い人」であった。だが「指さない将棋好き」がいてもいいじゃないか。
*量が質に転換する瞬間がある(羽生)
*連載『変わりゆく現代将棋』は「一章 矢倉」で終わった
#「超一流」=「才能」×「対象への深い愛情への没頭」×「際立った個性」
*羽生はタイトル戦の中継を見たことがなかった(自分が出ているから)
*佐藤康光に「5級向け」「初段向け」「五段向け」に解説を頼んだら、いい解説になって自分でも「できたできた!」と喜んでいる。
*「知のオープン化」 羽生は真理を究めるため手の内をさらすが、それでも勝つ。
*新聞には字数制限があるが、インターネットにはない。

187 やっぱり楽しいオーディオ生活 麻倉怜士

2011-01-23 14:42:01 | あ行
 図書館より。アスキー新書。

 子供のころLPやカセットテープを聴いて、そしておじさんになってオーディオに再入門した人のための本。
 初心者にもわかりやすく親しみやすい文体で話は無理なく進む。
 確かにもう一度音楽を聴きたくなる。

#CDの規格はサンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数16ビット。
*オーディオ評論は表現を競い合う
*ガラスCDの音はまったく違う(高音質) ただし値段は9万8700円
#CDは洗ってから聴け 特に新品はほこりがついている
#(CDを乗せて)トレイを一度開閉してから聴け
*視聴するときは曲の聴く順番を変えない
*デジタルケーブルで音がいいのは同軸(SPDIF)、光、iLInk、HDMIの順。
#接点を磨く
#スピーカーユニットのネジを締め直す
#(古典音楽で)エージングする
#iPodの取り込みは非圧縮の「WAV48kHz」が一番いい。さもなくば「appleロスレス」または「WAV44.1kHz」。曲数が多くても、音が悪ければ聴きたくなくなる。
*PCのサウンドカードはオンキヨーのがよかった。

180 生きてこそ光り輝く 石橋幸緒

2011-01-02 07:41:03 | あ行
 図書館より。PHP研究所。

 素晴らしい本に出会ってしまった。未熟児で腸の癒着があり、医者に「三日もたないかもしれない」といわれた命。何度も手術を繰り返す。四歳まで病院のベッドを下りたことがなかった。病弱のため養護学校に高等部まで通った。
 小学校三年生の夏、将棋教室に通い始めた。清水友市先生の教えは厳しかった。ポスターにきれいなお姉さんがいた。それは先生の娘、清水市代女流三冠(当時)だった。

 子供が読めるように漢字にはルビがふってある(すべてではない)。それでもぜひ大人にも読んで欲しい本だ。こんな人生があるなんて。
 何でもやりたがる本人の負けん気。孟母三遷を地で行く母親の愛情。的確な清水先生の教え。それらがあって十九歳で女流王将になったのだ。

 病を嘆く暗い話では決してない。ユーモアがある。最後にギャグを持ってくるところは落語的だ。赤ちゃんの自分をマヨネーズと言ったり、歩けない自分をクララと言ったり。
 アマ女王戦、女流アマ名人戦ともに相手が差し違えをして勝つところがある。そういうものなのか。
 好きな言葉は「万物生きてこそ光り輝く」。書道の名人でもある。原典では「光輝を生ず」だが、それよりいい解釈だと思う。

*学校に行ったら玩具がないので「何で遊ぶんだろう?」と不思議に思った。
#トランプのポーカーが好きで、給食のデザートを賭けて勝ち、一週間のデザートを独占していた。
*車椅子の子が著者の頭を靴で叩いた。授業参観に来ていた母はいじめかと驚いた。本人は驚かない。車椅子に乗せて欲しいというサインなのである。
#普通校も養護学校のように、生徒にとって魅力的な学校に変わればいいのに……
#「家で、お父さんやお祖父さん相手に将棋を指したことがある子は、気がつかないうちに変なクセがついている。何も知らない子は、正しい将棋を最初から覚えられる。そのほうが、後になって、絶対に強くなる」
#「どうしてでもいい。後からそれはわかってくる。今は、ただ覚えなさい」
#「中途半端に将棋を覚えて、これで将棋がそこそこ指せるようになったと思うのが一番よくない。そんな将棋は、弱い相手となら勝てても、強い相手とでは勝てない。勝てないと、将棋に嫌気が差してくる。そうなっては長続きしなくなる」
 三段論法を使って、そう言った。
「だから、私がいいと言うまで、誰とも将棋を指してはいけない」

175 イギリス式年収200万円でゆたかに暮らす 井形恵子

2010-12-25 07:18:15 | あ行
 図書館より。講談社。

 セミリタイヤの勧め。40台、50台の働き盛りに高い地位を投げ出し、地方の小さな仕事に就く。
 結局は持ち家信仰の日本と、レンガ造りで何百年も持つため家を建てなくていいイギリスとの違いに収束していくと思われる。

 それでも見習うべきところはある。
*クルーズに行くときにはドレスよりもレインコートに金をかける。ハイキングのために。
*アクアスキュータムのスキュータムとは盾の意。
*日本の惣菜コーナーは素晴らしく、イギリス人は興奮するほどだ
*ペストでたくさんのロンドン市民が命を落としたころ、生姜を食べていた人は難を逃れた
*イギリスの家は石造りのため、後から配管を壁の中に通すことができない。B&Bの天井などに水道管が見えるのはそのため。
*なぜリタイアできるのか。(1)企業年金が手厚いため。(2)住宅市場が右肩上がりのため。都心の家を売ると財産ができる。そして自分は地方に住む。
*ホテルに泊まらず知り合いの家に泊まる。

171 グランドツアー 岡田温司

2010-12-12 07:43:09 | あ行
 図書館より。岩波新書。

 18世紀ヨーロッパの上流階級の子弟は、大人になる前の修行としてイタリアを目指した。それをグランドツアーと呼ぶ。本どうこう以前に、グランドツアーって素晴らしい習慣ですね。
 それをまとめた本というのはこれまでなかったと思う。特に前半、ゲーテがいつもの調子で装飾過剰に自分の精神的盛り上がりを語るところは興味深い。
 著者の専門は美術史なので後半の美術の章は専門的過ぎて私は読み飛ばした。

*ゲーテは北イタリアの城址をスケッチしていたら、役人に紙を取り上げられた。

170 すばる望遠鏡の宇宙 海部宣男

2010-11-28 15:33:32 | あ行
 図書館より。岩波新書。カラー版。写真、宮下暁彦。

 名著! 宇宙に興味がある人なら、ぜひ読んで欲しい。むしろ「まだ読んでいなかったのか」と言われそうだ。
 ハワイにある日本のすばる天文台。筆者はその立ち上げの責任者だ。まず写真がいい。巨大な物体の迫力。ハワイの自然。そしてなにより圧倒的な星の姿。
 苦労話もある。建設途中に三人の命を奪った火災。ハワイはアメリカに国を奪われた歴史がある。聖地である山のてっぺんに外国の施設を建てれば、反感を買う。そのため筆者はハワイアン運動家を招き、話し合いを重ねた。筆者がハワイを去るときにはハワイの歌の大合唱があったという。
 組み立ても大事業だ。主鏡を運ぶときは、高速道路を占有する。まさに国を挙げてのプロジェクトである。

 少しばかりのユーモアと、感謝の気持ちにあふれている。筆者の人柄であろう。

#人類はやがて、夜空の星のまわりに生命を見いだすことになると、私は考える。
#「納期が遅れても、それはやがて忘れられる。しかし主鏡の性能が悪かったら、天文学者は私を永久に許してくれないのだな」(光学エンジニア、スコット・スミス)
#天文学者が遠くを見たがるのは、記録を競うためではない(それも少しあるけれど)。膨張宇宙の歴史をできるかぎりさかのぼっていって、私たちが暮らすこの宇宙の起源と歴史を、見きわめたいのである。

160 新版日本ロケット物語 大澤弘之

2010-11-02 05:56:50 | あ行
 図書館より。誠文堂新光社。

 図鑑のような大きな本。ロケットの歴史から始まり、のぞみやGXロケット(嗚呼)、HTV、角野(すみの)直子宇宙飛行士(現姓山崎…当時候補生…美人!)が期待されるところで終わる。

 糸川先生たちが秋田の道川海岸でペンシルやベビーの打ち上げ試験をしているところがユーモラスに描かれる。話そのものもおもしろく、ぐいぐい引き込まれる。連名だがきっと的川先生の筆であろう。
 「恐怖のスクラム」とある。ロケットが暴発するとき、近くにいた人は机に頭を突っ込んで尻を並べたのだ。絶対的川先生だ。

 私は「はやぶさ」から入った関係で、ISASはそれなりに知っていたのだが、NASDAやNALについては初めて勉強させてもらった。はやぶさのリエントリは、NALの方探技術なしには成功しなかった。

 宇宙開発している人はみな持っているのでは、などと思わせる本。

158 アンケートの作り方・生かし方 大久保一彦

2010-10-23 05:42:40 | あ行
 図書館より。PHPビジネス新書。副題、「売り上げが倍増する!」。

 従来の「とても満足・満足・ふつう・不満足・とても不満足」という選択肢から数値化する手法をスコア経営と呼び、時代遅れと一刀両断。その代わりに新しい価値観を提示する。

# アンケートの六つの目的
#1 お客様をつかんで戦略を立てる
#2 買うか買わないかの決め手を見つける
#3 潜在的ニーズをつかみ、価値を生み出す
#4 見えないお客様を知る
#5 顧客名簿を作る
#6 お客様と従業員の意識をある方向に向ける

 平均化された数値では叱責された従業員のやる気をそぐ結果に終わる。顧客の性別・年齢・ライフスタイルにより需要は変わる。
 また、以下のような項目にも注目。

*家族構成
*職業
*住所 (商圏はふつう10分か15分以内)
*年収
*来店目的
*何回目の来店か
*来店前の立ち寄り場所は

*誰のための購入か
*使い道は お見舞い・お土産・お祝い・プレゼント
*なぜ当店を選んだか
*1年以内に行くようになった店で、3回以上いった店は何軒あるか
*次のカテゴリの店にどれくらい前に行ったか スタバ ラーメン店 高級寿司店 フレンチ
*どれに当てはまるか 上の上 上の中 上の下 中の上 (略)

#お客様には、商品それぞれにこれくらいという価格のイメージがあります。(略)わたしはこれを「無意識の財布」と呼んでいます。

 アンケートなんて誰でも作れそうで、実は奥の深いものだと言うことを教えてくれる好著である。

157 コンピュータは名人を超えられるか 飯田弘之

2010-10-20 05:52:26 | あ行
 図書館より。岩波科学ライブラリー。

 2010年10月11日、情報処理学会の将棋システム「あから2010」が清水市代女流王将を破った。それがきっかけで借りてみた。

 冒頭、チェス王者カスパロフ氏に勝ったディープ・ブルーの話から始まる。そうだ、これは2002年の本なのだ。
 森田将棋、柿木将棋など懐かしい名前も出てくる。個人的には棋太平やセタのファミコンソフトなど、ホビーにも言及して欲しかった。
 ゲーム木(ツリー)によるミニマックス戦術など、基本がよくわかる。

 巻末に「激指(げきさし)」というプログラムが登場する。激指はあからの四つの思考プログラムのうちの一つだ。

 あからとは10の224乗のこと。32ページには「ゲーム木探索の複雑さ」は10の226乗とある。ちょっと違うのかな。

#筆者のプレーヤーとしての経験(将棋はプロ六段、チェスはアマチュア有段レベル)からすると、チェスは、将棋の序盤駒組み終了後の、いきなり、スリリングな場面からゲームを開始するような気がする。