ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

13 スコッチ三昧 土屋守

2007-01-25 21:49:01 | た行
 新潮選書。

 圧倒的な蘊蓄。
 スコッチのすべてがわかる本、と言っても過言ではない。スコッチの飲み方、そして製造過程に多くの紙幅を割く。さらにディスティラリー巡り、スコットランドの風土についても言及する。著者の、行った人にしかわからない情報量に驚く。ひとり「地球の歩き方」状態。

 惜しむらくは全編Q&A方式を採っていること。どこからでも読める反面、通読したときのおもしろさに欠ける。どこをとっても同じ語り口。

 それでもスコットランドでグレン・オールド(ORD)の蒸留所やエジンバラのヘリテージセンターを訪問したとき(ポロシャツを買った)を思い出し、よい時間を過ごしました。

12 なるほど家事の面白ブック 風間茂子

2007-01-24 21:08:30 | か行
 三笠書房、知的生きかた文庫。

 読みやすさに、びっくり。
 手前味噌なのだが、ときおり、いやたまに、「読みやすい文章」と私の書き物を称されることがある。ありがとうございます。でも大切なことだよね。

 この茂子さん、特に文筆家ということはなく、夫が妹尾河童さんということだが、文章の歯切れがよい。性格的のものなのか。あるいは、関係代名詞的な表現から、外国語が得意な人なのか。

 ドッグイアー。

#食器は必ず割れるもの、こわれるものと自分にいいきかせることにしています。(略)
 陶磁器屋さんのご主人が、「朝割ってしまった残念さが、夕方にはなんとかおさまっていられる程度の金額のものが、その方相応の食器です」といっておられる(略)

#最近では杉村春子さんが、「若い人は、チャンスに恵まれないと嘆くばかり。そんな人は、チャンスが来てから勉強をはじめるの。来てからではもう遅いのよ」「脚本が悪い、つまらないとグチる前に、どう工夫したら少しでもよくなるか、毎日やってみるといい」と役者のことを書かれていた(略)

11 猫めしの丸かじり 東海林さだお

2007-01-22 20:33:11 | さ行
 文春文庫。

「600万部突破に感謝! 特製ショージ君丼を、どーんと600名様にプレゼント」と腰巻きにある。
 で、応募してみました。忘れたころの数か月後、丼(ふた付き)が送られて来ました。青色が基調で、いつものアサッテ君(あるいはタンマ君)のイラストが付いています。やったあ。これで「銀火丼」を作ったら、粋だねえ。

 ドッグイアー。

#タコは噛み心地一本で勝負しているのだと思う。

#カンパンは奥歯の一番奥と、その奥のスキマのところにニッチャリとしたカタマリが必ずはりつく。

#わが家には、柄が瀬戸物で、先が二股の”来客専用リンゴ刺し”が用意してあったのを思い出す。

「ちょっと憂い顔になる程度の酸味」がいい (イラストの書き文字)

10 爆笑問題時事少年 爆笑問題

2007-01-20 20:42:03 | は行
 副題、流行と事件のアーカイブ―一九九九~二〇〇一~。集英社文庫。

 週間プレイボーイの連載を読むと、それほどではないが、どうして文庫本になるとこんなにおもしろいのだろう。どうすればこんなボケかたができるか、試してみたくなる。

 ドッグイアー。

#(キックボードを)電車の中では誰も乗っていないよ。
 マジで? 電車では乗っていないの?
 当たり前だろ。いくらバカでも、そんな非常識なことをするヤツはいないよ。
 電車の中で乗ればもっと早く着くのになあ。
 お前が一番バカだ!

(田中さんの前振りが、ボケを際立たせている。)

#ヒトラーは画家志望の青年でした。
 はぁ。
 本人は画家、そして親はバカ。
 なんでいきなり大喜利になるんだよ!

#しつこく思われようが何度でも言うよ、とにかく王さんは世界一の人間だぜ。
(略)
 「好きな食べ物は?」って聞かれたら、必ず「ラーメン」って答えててね。
(略)
 好きな曲「ラーメン」。生年月日「ラーメン月ラーメン日」。血液型は「ラーメン型」。
 やめろ! 王さんがただのラーメン好きのバカになっちゃうじゃねえかよ!

#『濃いで』監督な。

9 昼メシの丸かじり 東海林さだお

2007-01-18 20:24:55 | さ行
 文春文庫。

 この「丸かじり」シリーズは雑誌連載時よりも、文庫になってからがおもしろいと思うのはなぜだろう。

 ドッグイアー。

#おじさんの同年の友人で、胃を全部取ってしまった人がいた。
 胃が無いので、一度にたくさんの食べ物を食べることができない。
 ときどきキャラメルを口に入れたりして、ちびちび栄養を補給することになる。
(略)
 おじさんは泣いたよ。
 キャラメルの箱に泣いたよ。
 キャラメルの引き出しに泣いたよ。

#タンメンは絵としてメリハリがない
(イラストの書き文字)

#(注・厚切りトーストに対して)それに比べて1センチトーストの何とヘナヘナであることか。
 何という貧寒。何というしお垂れ。
 何という腰抜け。
 この、バーカ、と言ってやりたい。

#カイワレをいじめるな
(章のタイトル)

 うまいなあ、と思う。

8 航海術 茂在寅男

2007-01-14 20:53:41 | ま行
 副題、海に挑む人間の歴史。中公新書。

 お勧め。
 初版は昭和42年で、私が生まれる前だ。なんせ著者は大正3年生まれ。
 筆致は軽快で迷いがなく、船乗りのロマンティシズムをも感じさせる。
 沿岸航法、推測航法、天文航法、電子航法と進んできた人類の歩みを明確に述べる。大航海時代、バイキングはもちろん、遣隋使、コンチキ号、ジョン万次郎も出てくる。海の男オールスターという風情である。

 個人的になるほどと思ったのは、緯度を計るのは比較的容易だが(北極星でわかる)、経度を計るのに人類は苦労してきたという点だ。

 ドッグイアー。

#平清盛は日宋交通に期待をかけ、宋船を博多からさらに国内に来航させるため、福原の近くの兵庫に築港した(ほどである)。

#彼ら(注・蒙古軍)はまず壱岐島を荒らしたが、その残虐性は想像以上だった(ムゴイという言葉はこの時の蒙古から転じたと言われている)。

【付記】2007年現在、ご存命のようである。びっくり。
 「言語学のお散歩」の金川先生のページにも登場する。

7 プロ野球ビジネスのしくみ 小林至&別冊宝島編集部

2007-01-13 22:40:36 | か行
 宝島社新書。

 腰巻きには「プロ野球の真実を語った唯一の書」「球団経営の実態はここにすべて書かれている」「球界の大変革期に迫る超ド級の内部報告!」とごたいそうだが、内容は大したことはない。
 福岡ダイエー社長(当時)高塚猛、オリックスが阪急を買ったときのC氏、オリックス・ブルーウェーブ球団社長(当時)岡添裕らのインタビューが軸だ。

 ただ相手が悪かったのか、著者が負けている印象。インタビューの途中で、
「それより、小林さんは将来何をやりたいのですか? プロ野球経営に携わってみる気はありませんか?」「実際ウチに来て勉強してみればいいと思いますよ」「本当にどうですか、やってみませんか?」
と煙に巻かれている。

 高塚は、ユニフォーム組から総すかんを食ったことは、知っている方は知っているであろう。
 秋山幸二を大減俸した。工藤公康に「君の投げる火曜日は客が少ない」と言った(後にFA)。空気を読まず知り合いをグラウンドに入れ、選手・監督(王さんだ!)と記念撮影をさせる。怪我をしたときの扱いの悪さに小久保裕紀が放出を望み、巨人に無償トレードとなった。
 さらに女性社員の口に舌を入れ、「スキンシップだ」と強弁する。強制猥褻で懲役三年、執行猶予五年。どうみても犯罪人。そもそも自著をホテルの全室に置かせるようなメンタリティの人間がいいわけがない。

 そんな人に著者は「田中角栄元首相がそうでしたが、カリスマによって人をぐいぐい引っ張る指導者に共通するのが、大胆なたとえと数字を織り交ぜた巧みな演説です。高塚さんもそんなカリスマ指導者でした」と絶賛している。

 たぶん著者としては早くなかったことにしたい本ではなかろうか。

 ドッグイアー。

#(一般の経営とプロ野球の違いを聞かれて・高塚)違いを探して何になるんですか? 一緒だということで共通に使えるものを導き出して活用した方がよっぽどいい。(略)何で「(略)いいお天気ですね」って言うんですか? (略)それはそのことを言うことによって同じ思いをする、次のコミュニケーションを図るというのが大前提にあるんです。

6 日本人に一番合った英語学習法 斎藤兆史

2007-01-12 20:03:57 | さ行
 副題、明治の人は、なぜあれほどできたのか。祥伝社黄金文庫。

 小学校からの英語学習が、ときどき話題になる。アジア各国で実績を上げており、臨界期説の立場からも薦める肯定派。まず母国語を学習することが第一で、これまでの中学校からという立場を守る否定派。著者は後者である。
 会話重視、訳読軽視の現状に、大きな怒りを表明しているように思える。
 だが著者のパーソナリティか、冗談のオブラートに包んでいるところが大人だ。

 新渡戸稲造、森有礼、津田梅子、神田乃武(知らない人は知らないだろうが、その道の人で知らなかったらモグリだ)、南方熊楠、小泉八雲らの例を挙げている。
 『英語達人列伝』に比べると、マイナスの例を引いているところに気付く。津田梅子は、帰国したときには日本語を忘れていた。ラフカディオ・ハーンは、あれほど日本への関心が高かったにもかかわらず、日本語の著作がなく、ぎこちない言葉は「ヘルンさん言葉」と呼ばれていた。それほど外国語学習は難しいのである。

 ドッグイアー。

#私が反対している「コミュニケーション中心主義」とは、あくまでも「実践的コミュニケーションの育成(学習指導要領だ、注)」の名の下に行なわれている、文法軽視(あるいは無視)の低級な「英会話ごっこ」である。

#日本語と英語がお互いにとって極めて異質な言語である以上、日本人が文法や読解の訓練もなしにいくら「実践的」な会話を練習したところで、低級なピジン英語になるのがオチである。日本語と西洋語の訓練を見極めた外交語学のプロ集団・長崎通事たちは、子供にまず文法と素読を仕込み、それが済んでから、初めて出島のオランダ人のところに出向かせた。

#もしも高度な英語力を身につけたいであれば、(たとえば「ペラペラ」、「スラスラ」、「スイスイ」、「簡単」、「~週(~ヶ月)出身につく」といった言葉を表題に掲げて)英語学習の容易なることを謳っているような語学書や英語教材は、敬遠するに越したことはない。

 まあでもこのような書き方だと「できるからって」と言われがちなのです。
 なんとかこの専門的知識もあり、軽妙な筆致の先生を応援したいと考えています。 

5 「やる気」を起こす心理学 富田隆

2007-01-11 21:43:46 | た行
 副題、”誉めて動かす”54の即効・心理技法。三笠書房。

 もう副題がすべてを語っている。とにかくほめればいいのだ。
 頭で考えたような54のシチュエーションの中、H君やK子さんに対して、どういう言葉かけをすればいいのか、中途半端な三択問題。

 問題を出しておいてどれが正解と言うともなく、「ほめるということは行動を強化する」の繰り返し。「オペラント条件づけ」「ハロー効果」など、心理学の初歩である。

 本としては退屈だが、内容はまったくその通り。近頃の世の中は、他人の足を引っ張り、相手を非難して裁判で金を取ることが増えてきた。
 やはりお互いのいいところを褒め合うような人間関係でありたいものです。

4 短編小説のレシピ 阿刀田高

2007-01-07 21:12:32 | あ行
 集英社新書。

 何がきっかけだったか、学生時代に著者の本をいくつか読んだ。端整な文体と、確かな教養、そこはかとない色気、けだるい雰囲気が好きだった。ただいつの間にか、けだるさがゆるさに感じられて、読まなくなった。
 著者の本を買ったのは、10年ぶり、いやそれ以上だろう。

 向田邦子や、松本清張、中島敦、そして夏目漱石らの作品を引き、おもしろさを語る。「自分の作品はここからアイデアをもらった」と正直に語っているのがおもしろい。
 また、著者が子供のころは芥川龍之介と落語を読んでいたことが、私と共通して入のがうれしい。

 ドッグイアー。

#まだ書き慣れていない小説家志望者が、
「短編小説のアイデアって、どこで見つけるんですか。探してもなかなか見つからなくて」
 と嘆くときは、彼の中にこの工房ができていないから。工房の工作機械がまだ貧弱なので自分の工房で加工できる見通しをもって素材の海を見ることができないからなのである。

#日本におけるショートショートは、
 まず始めに星新一が在った。しかる後にショートショートが存在した。この逆ではない。

#ショートショートの定義は、とても短い小説、これ以外には言いようがない。”とても短い”は四百字詰めの原稿用紙で十五~二十枚くらいまで。そして小説という以上、文学にふさわしい描写で綴られ、短いながらモチーフを備え、ストーリーをもっていることが肝要だろう。