ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

19 王女マメーリア ロアルド・ダール

2007-02-28 20:37:57 | た行
 田口俊樹、訳。ハヤカワ文庫。

 ちょっと前文で道草する。

 前に紹介した阿刀田さんが、星新一さんと談笑した。
星「ダール、ダールと言うけれど、本当の名作は少ないね」
阿刀田「このくらいですか」と、十本指を見せる。
星「このくらいだろう」と、三本指を見せる。

 私が若いころ、ゲーム誌"Beep"の影響で、RPGにはまっていた。だから『幻獣辞典』を読んだ。
 大学に入って、英語を学んでいることから、柳瀬尚紀の文章を読むようになった。

 『幻獣辞典』の訳者は柳瀬尚紀だった。

 就職して、ホームページ製作にはまった。
 お手本のページの作者が、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のファンだった。

 これでティム・バートン(映画監督)のファンになった。

 ティム・バートンが映画を作った。『チャーリーとチョコレート工場』 私は映画館に見に行った。

 『チャーリーと……』の翻訳を柳瀬尚紀さんがしていると知った。もちろん原作者はダールである。その翻訳を、柳瀬さんがしていた。ヤナセ的に、語呂合わせはバッチリである。

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 さてそのダールの短編集である。
 星さんの台詞からいうとマイナスであるが、なんとおもしろいこと!
 短編は、ディテールよりアイデアである、と私は思う。だってゆるいショートショートって、雑文でしょ。
 「ヒッチハイカー」「アンブレラ・マン」「ボティボル氏」「古本屋」など、<落ちはどうなるのだ?!>と先を急がせる作品が続く。

 ちなみに表題作の「王女マメーリア」は、オイスターの中毒死が物語を左右する。
 これを読みながら、私は(たぶん)生ガキのノロウィルスでひどい目に遭った。
 忘れられない一作である。

18 ゴハンの丸かじり 東海林さだお

2007-02-14 20:38:35 | さ行
 文春文庫。

 題名は、『学校給食に釜飯を』から。相手を見てご飯をよそう幸せ、いいですね。今ではランチルーム(聞き慣れない言葉だ)方式で、よそってから児童生徒が入場することが多い。効率はいいが、その幸福感は物足りません。

 しかし題名に表れる着眼点が出色です。
『「開き」でいいのか』
『粥論』
『玉子パン再食』
『蕎麦屋のカレーライス』
『ジャムの幸せ』
『鳥の唐揚げの出っぱり』
『麦茶の夏』
 どうです。これだけで心引かれるでしょう。

 また、「銀火丼」という言葉に反応するファンは、「銀鉄丼」という名称にも師それが何であるか想像がつくでしょう。『ああ、栄光の銀鉄丼』で本邦初公開です。

 個人的には、これで鳥わさの作り方を覚えて以来、月に二・三度は作っているというターニングポイントになっています。ミツバと海苔は入れるのを忘れていましたが。

 ドッグイアー。

#(菜の花そばで)問題の天かすですが、こうしたらどうでしょう。
 天かすをやめて卵にする。つまり月見です。そうすれば、
 菜の花や月は東に日は西に
 そのものになるではありませんか。

 文学的な、あまりに文学的な。参りました。

17 ビッグマン愚行録 鈴木健二

2007-02-13 20:57:59 | さ行
 新潮文庫。「クイズ面白ゼミナール」を見ていた私としては懐かしい限り。

 読み始め、いや読む前から、「自分のことをビッグマンというのはどうかな」と思っていた。去来抄と同じベクトルだ。

 インド編、ロシア編と読み進めるうちに、著者の大きさに打ちひしがれる。
 戦後。大学の寮長。喧嘩の達人。麻雀イカサマ師。大根を手に夜這い。古着でテキ屋。看板屋。銭湯の番台。女子校での水泳先生。鯨に包丁を刺す。高飛びした男女(他人)のために、筋モノと対決。

 書いていてほら吹き男爵のようなレパートリーだが、これは著者の体験談なのである。降参。この人はただ者ではない。確かに、ビッグマンだ。
 心から一読をお勧めする。

16 井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 井上ひさし ほか

2007-02-11 20:18:42 | あ行
 新潮文庫。

 わかりやすすぎる。賢ければ中学生にもわかるであろう。

 とにかくほとんどの人間は、訓練なしで母国語を使えると思いがちである。実際は膨大な知識と用例のフィルターがあってこそ、美しい文章が書けるのであるが。
 もっと言えば井上ひさしさんは言葉を削るのが好きだ。削って削って、そして伝える。

 ドッグイアー。

#大和ことばは音節の最初に、ら行は来ない。

#差別語の問題がありますよね。外から言われたから、この言葉を使わないというのは、ほんとにいけないことです。

#「?」「!」の次は一字空きという習慣になっています。

#(「学校の一日はおそろしく早い。」という”仲間”の一文があって)これ(注・おそろしく、の五文字)を削った方が「早さ」が感じられる。

 指摘は鋭いが、”仲間”の文章は基本的にほめている。

15 昭和御前試合 清水義範

2007-02-08 19:58:47 | さ行
 光文社文庫。

 デビュー作には作家のすべてが詰まっているという。
 センス・オブ・ワンダー、そしてパスティーシュ。現在では後者が筆者の代名詞だが、この本には前者の香りが強い。

 「逆らうな」「怪盗光小僧」でどう落としてくれるのかハラハラし、「快楽インフェルノ」のサスペンスに酔う。

 SFらしきよい香りがする短編集。

14 たそがれゆく日米同盟 手嶋龍一

2007-02-07 18:41:14 | た行
 副題、ニッポンFSXを撃て。新潮文庫。

 2001.9.11、アメリカ同時多発テロで不眠不休の報道をしたワシントン支局長、と言えば御存知の方も多かろう。

 名著。
 私には大きすぎて、何から紹介したらいいかわからない。

=外交の生々しさ。
=キャピトル・ヒル(米議会)の魑魅魍魎。
=日米同盟とは言うが、アメリカは日本を都合のよい状態にしたいだけだ。
=駐米大使はただ者ではない。そのヴァイタリティ、その洞察力。
=国産戦闘機を作りたいというロマンと憧憬。特に「零戦」への執念。
=F-18が「婆さん芸者」と呼ばれていたこと。(ああ、ホーネット)
=米議会には「ページ」(小姓とでもいうのか)がいる。

 いつもながら、「本当に見たんか」と言いたくなるような描写が心地好い。

 ところで、軍事関係者の間ではP&W社は「プラット・アンド・ホイットニー」と呼ばれているはずだが、「……ウィットニー」と呼ぶのは英語に堪能な筆者のなせる技か。

 ドッグイアー。

#「ワシントンで独自の人脈を築きたければ、犬を飼えばいい」
(互いの愛犬を褒め合えば、友人になれるかもしれないから)