ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

170 すばる望遠鏡の宇宙 海部宣男

2010-11-28 15:33:32 | あ行
 図書館より。岩波新書。カラー版。写真、宮下暁彦。

 名著! 宇宙に興味がある人なら、ぜひ読んで欲しい。むしろ「まだ読んでいなかったのか」と言われそうだ。
 ハワイにある日本のすばる天文台。筆者はその立ち上げの責任者だ。まず写真がいい。巨大な物体の迫力。ハワイの自然。そしてなにより圧倒的な星の姿。
 苦労話もある。建設途中に三人の命を奪った火災。ハワイはアメリカに国を奪われた歴史がある。聖地である山のてっぺんに外国の施設を建てれば、反感を買う。そのため筆者はハワイアン運動家を招き、話し合いを重ねた。筆者がハワイを去るときにはハワイの歌の大合唱があったという。
 組み立ても大事業だ。主鏡を運ぶときは、高速道路を占有する。まさに国を挙げてのプロジェクトである。

 少しばかりのユーモアと、感謝の気持ちにあふれている。筆者の人柄であろう。

#人類はやがて、夜空の星のまわりに生命を見いだすことになると、私は考える。
#「納期が遅れても、それはやがて忘れられる。しかし主鏡の性能が悪かったら、天文学者は私を永久に許してくれないのだな」(光学エンジニア、スコット・スミス)
#天文学者が遠くを見たがるのは、記録を競うためではない(それも少しあるけれど)。膨張宇宙の歴史をできるかぎりさかのぼっていって、私たちが暮らすこの宇宙の起源と歴史を、見きわめたいのである。

169 後悔しない意思決定 繁桝算男

2010-11-28 15:22:43 | さ行
 図書館より。岩波科学ライブラリー。著者の名前は、しげます・かずおと読む。

 分かれ道があってその先でA=50万円、B=20万円がもらえるとすれば、人はAに行く。
 ところがBは変わらないがAの先がさらに分かれ道になっていて、A1=50万円、A2=0円だとするとどうなるか。単純計算だとAの道は平均25万円もらえることになる。それはBを上回る。だから人はAを選ぶのではないか。
 ところが実験では、80%の人はBを選んだ。

 そういうことが書いてある本である。序盤はこのとおり楽しく読めたが、「ベイズの定理」なるものが出てきてから私の手に負えなくなった。数式をとばして読んでいたら、読むところがなくなったでござる。

#大事な問題は、能動的に決定する
#確固とした目標を持て
#己を知る
#客観的に未来を見通す
#過去を振り返らない

168 もてない男 小谷野敦

2010-11-28 12:09:35 | か行
 図書館より。ちくま新書。副題、恋愛論を超えて。

 なにか心に残る本ではないが、著者の読書寮に驚く。古今東西の本をあまねく読んでいる。少女マンガはちょっと遠慮しておくが。
 「おれは東大卒なのになぜもてない」というルサンチマンが楽しい。エッセイストが向いているのではないか。
 著者近影も自己主張を感じる。

*筒井康隆は医者に酒と煙草を止められて、何を楽しみに生きたらいいのかとわめいた。奥さんは「あたしがいるじゃないの」と言った。

167 うずまき猫のみつけかた 村上春樹

2010-11-21 07:16:45 | ま行
 図書館より。新潮社。

 雑誌「SINRA」の連載。マラソン、大学教員生活、アメリカの自然、ジャズ、食生活がいい塩梅に混ざっている。そして大量の猫の写真。肩肘張らずに読める楽しい本(「THE SCRAP」は音楽知識のない私にはつらかった)。

*中華料理アレルギーで、ラーメンも食べられない
*クルマを盗まれた
*fuck a duckと聞くと、ダーク・ダックスの一人が雪男かなにかに襲われているシーンが思い浮かぶ
*数字の変わりにEAT, PLAY, NAPが繰り返し文字盤に書かれている腕時計

#引き出しにいっぱい(安い)腕時計を放り込んでおいて、その日の気分で時計を取り替えるのはなかなかいいものである。

# しかし何はともあれ、誰がなんといおうと、勇気があってもなくても、フル・マラソンを走り終えたあとで食べるたっぷりとした温かいディナーというのは、この世の中でいちばん素晴らしいもののひとつである。
# 誰がなんと言おうと。

166 翻訳はいかにすべきか 柳瀬尚紀

2010-11-21 06:49:59 | やらわ
 図書館より。岩波新書。岩波なんて久しぶりだ。

 翻訳とは実践である。
 それを標榜する柳瀬先生の、看板に偽りのない好著である。
 いきなり二葉亭四迷の「あひびき」のロシア語からの翻訳が出て面食らうが、言わんとすることはわかる。
 例文も文章の流れにぴたぴた当てはまる。乗りに乗って書いているのであろう。
 よくある「試訳」という語を使わないことにも好感。「試訳」って、「人に文句を言う以上、私の役にも文句をつけたくなるかもしれないが、試しにちょっとだけ訳してみたので、本気になったらもっと上手に訳せるんだからね!」という情けないプライドが仄見えていやですね。

*よい翻訳は短くなる
*彼、彼女、私たち、など代名詞は使わないように
 「人称認証症」「代名詞の駆逐」と揶揄している。
*辞書にあったからそのまま使うことをするな
 long lipsを「長い唇」と訳した例があるが、日本語はそうは言わない。「鰐口」とした。
*日本語として下手すぎる

#対訳 たまねぎの二つの丸い穴に注意せよ
#猫訳 オニオンの、おお、二音にご注目

 ジェフリー・アーチャーが文章の中に12匹の赤いニシンを隠した。いわゆるレッドヘリングというやつである。
原文 he surreptitiously admired her rings.
 admiredの途中から、レッドヘリングが隠れている。
 これを、「指輪の赤に心底見とれている」と訳した。雑文祭か。

165 翻訳家列伝101 小谷野敦

2010-11-14 09:38:14 | か行
 図書館より。新書館。「こやの・とん」と読む。

 偏執的なまでの調査は幼い頃からの読書量によるものであろう。
 坪内逍遥、二葉亭四迷、上田敏、木下順二、小田島雄志、柳瀬尚紀、柴田元幸、福島正美、小尾芙佐……。その範囲は広い。

 ただしルサンチマンをぶつけるような文体は人を選ぶかもしれない。わたしは読んでいて「学会に復讐してやるのだ!」というナリハラ博士を思い出した。

*木下順二はシェイクスピアを訳した
*鴻巣友季子は美人
*柳瀬尚紀の英語力は完璧
*福島正美は47歳で亡くなった
*四迷はロシア語に通じた
*『星の王子様』の内藤濯(あろう)は円楽に怒りをぶつけていた

 41ページに機種依存文字らしい「・魂珠」(ろざりよ)という表記がある。
 

164 金魚の買い方・育て方 勝田正志・大森光子

2010-11-14 09:29:56 | か行
 図書館より。成美堂出版。この二人は監修者。

 これ一冊あれば、金魚の選び方から育て方、繁殖、水草、病気の対処まですべてわかる。
 写真が多く、その写真が美しい。金魚の魅力を余すところなく伝えている。水槽のライティングも美しい。見ているだけで楽しい。
 私は初期水槽で難儀しているので、その記述が少なかったのが残念。
 金魚鉢を忌避する人もいるが、この本では「どこにでも置けて便利」「江戸風情」と紹介している。「上見(うわみ)」が好きなのであろう。

163 眠れなるなる宇宙の話 佐藤勝彦

2010-11-14 07:47:40 | さ行
 図書館より。宝島社。

 宇宙のことを中学生向きに書いた本。宇宙観の歴史に多くのページが割かれている。確かに天動説から地動説へのパラダイムシフトはおもしろい。ルターがコペルニクスを攻撃していたことも始めて知った。
 土星より外の惑星は、理論が先で発見が後だった。人類の英知を感じる。


#ところで、ブラーエは非常に傲慢で怒りっぽい人だったと伝えられています。貴族出身のブラーエは小作人にひどい仕打ちをしたりして、領地のひとびとから嫌われていたそうです。ついには国王の信頼も失い、晩年には国外へ去らなければなりませんでした。ブラーエの最期の言葉は「私の人生を無駄だと思わせないでくれ」といううわごとだったそうです。

#当初は冥王星よりも大きな天体を格上げし、太陽系の惑星は全部で十二個になることが提案されました。しかし天文学者からの反対が相次ぎ、逆に冥王星を格下げするという決着になったのです。
 ローウェルやトンボーの出身国アメリカでは、アメリカ人が発見した冥王星への愛着が強く、惑星からの格下げに対して国民から広く反対の声が上がりました。また(略)「プルート」が「評価を下げる」とか「降格する」という意味の動詞として使われ、二〇〇六年の流行語大賞になったそうです。

 惜しむらくは味も素っ気もないイラスト。なんだこのやっつけ仕事。

162 手塚治虫の描いた戦争 手塚治虫

2010-11-07 16:11:03 | た行
 図書館より。朝日文庫。

 12編とあとがきのようなエッセイが一つ。
 なんと言っても自伝的作品『紙の砦』を読んでおきたい。エッセイそのままなのでほぼ実話であろう。ブラック・ジャックからは『アナフィキラシー』。麻酔なしで手術した若い軍人が……という話である。『ゼフィルス』のような作品が週刊サンデーに載っていたとは。

#たった一度でいい くちびるを許してくださらんか(『カノン』より)

161 再古参将棋記者高みの見物 田辺忠幸

2010-11-07 15:48:31 | た行
 図書館より。講談社プラスアルファ新書。

 将棋界では有名な人なのだと思う。
 1931年生まれの筆者が、共同通信の記者として、棋王戦を立ち上げ、初の海外対局を行った。それだけのバイタリティがある。またユーモアもあり、細かいところに気がつく。そんな人が好きに書いたのだからおもしろくないわけがない。

「終盤に圧倒的な強さを見せた村山聖九段」なんてキャプションがうれしい。あのぷくぷく顔がいい。

#中には残り一分になっているのに「あと何分」と聞く人もいる。
 一二三さんのことだ!

*記録員にジュースを買うよう頼む、あるいは手を確認する(プロが見ればわかるはず)、あるいは写真撮影のときどけるのはよくない。
*東京将棋会館という建物はない。筆者は「・」を入れていた。碓井涼子さん、天野貴元さんはもそうする。
#イビアナなんて気持ちの悪いものもある。私めは「居飛車穴熊」としか書かない。
#坂口安吾と言えば、実に素晴らしい観戦記を書いた作家
*玉は王が正しい。しかしテレビ対局で「王様」と呼ぶのは滑稽である。
*写真撮影のための初手やり直しは将棋界最悪の習慣

【後日付記】子供のころ買った「早わかり将棋なんでも入門」という本がある。その著者も著者だった。共著は原田泰夫九段。米長さん、ひふみん、内藤さんも九段。谷川浩司八段、田中寅彦七段がプロフィール最後のページ。