ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

65 ロンドン塔 出口保夫

2009-02-11 17:33:03 | た行
 中公新書。最近は軽いのばかり読んでいるので、岩波とはいかなくてもこれくらい読まなくては、と反省。

 いちおう英語科卒なので、イギリス史は何度か習った。それでもなかなか頭に入ってこない。とりあえず「アン・ブーリンという女性(本書ではブリン)に惚れた王が彼女を懐妊させ、ローマから破門された」という知識はなんとなくある。
 そんなアン・ブーリン、トマス・モア、その他もろもろの歴史上の人物が幽閉され、そして処刑された場所。ロンドン塔。実は私は二度訪れている。華やかな宮殿、質素な塔、厳重に守られた王冠。

 今の私の知識ではまだ十全に味わうことはできない。折りにふれ何回か読み返したい本である。書評になるには、まだまだ。

 ドッグイアー。(*は抜粋または叙述。#は引用。)

*85ページにフランスの画家ドラローシュの「塔のふたりの王子」の白黒写真がある。落胆した兄エドワード王と励ますように寄りそう弟ヨーク公が印象的である。

#ジェーン・グレーの最後
「妃、これが最後です。悔い改めることはありませんか」(略)
「どうかお止めください」(略)「わたしはすべてに安らかな気持ちです。どうかこのまま死なせてください」(略)「そしてこれはあなたが受け取ってください」と、その手袋とリボンを外しながら(侍女アンジェラに)頼んだ。モーガンはしきたりに従い、(略)「わたしをどうかお許しください」と言った。
「わたしの首こそ」とジェーンは答える。
「わたしはあなたを心から許します。あなたはよい方です」
 ジェーンは頭を台の上に乗せた。
「主よ、わが魂をあなたの御手にゆだねます」
 それが彼女の最後の言葉だった。斧が振り下ろされ、これまで処刑人の手にかかった中でもっとも麗しく聡明な女性の首は落ちた
(この絵も傑作です。特にジェーンは目隠しをされているのに、絶世の美人に見える。処刑を命じたのがブラッディ・メアリー。)

#「兄は静かに書をふせて、かの小さき窓の方へ歩み寄りて外の面を見様とする。窓が高くて背が足りぬ。床几を持って来て其上につまだつ。百里をつつむ黒霧の奥にぼんやりと冬の日が写る。屠れる犬の生き血にて染め抜いた様である。兄は「今日も亦斯うして暮れるのか」と弟を顧みる」
(夏目漱石、『倫敦塔』より。兄と弟を取り違えている)

64 集中力 谷川浩司

2009-02-08 09:41:44 | た行
 角川ONEテーマ21、新書。

 小学生の頃から頭角を現し、史上最年少名人となり、その棋風は「谷川光速流」「光速の寄せ」と呼ばれる棋士、谷川浩司さん。
 勉強をしなくてもできたという秀才であり、将棋エリートとしての自信と自負があふれ出ている。だが、それが嫌味を感じさせない。峻厳、と言ってもいい。
 同時期に羽生善治さんに「決断力」を書かせたことも、負けられないという気持ちにつながっているのであろうか。

 ドッグイアー。

#十代のころ、私はずいぶん時間を将棋に費やしてきた。他の人がスポーツや遊びに費やす時間を、私は将棋に向けてきた。そのため、運動音痴で、今でも自転車に乗れない。しかし将棋に強くなるという点では、時間もかけたし、楽もしてこなかったので、「天才」と呼ばれるのは本意ではない。それでは、費やしてきた時間がかわいそうというものだ。

#灘蓮照先生から、「力がないなら、負けたらええんや」といわれて気持ちが軽くなった。

(*=要約)
*コンピュータは序盤はアマチュア四段。
*中盤から終盤の詰みに入るまでは、アマチュア初段以下。
#終盤で、相手の玉が詰むか詰まないかという段階になると、いきなりプロを超えてしまう。羽生さんがいっていたのだが、「ある対局で自分が残り何分かで即詰めを発見できなかった局面を、パソコンに入力したら一秒か二秒で詰めてしまった」そうだ。

#「谷川、お前は運がいいのだ。運がいいことをありがたいと思え。運がいいことを当たり前だと思うようになったら、そのままの人間だ。常にありがたいという気持ちを忘れてはいけない」(芹沢博文)

#「もし、3年以内に谷川が名人にならなかったら、わが将棋理論はすでに無用のものであろうから、この種の仕事はやめるつもりだ」
 これは私が八段の時に書かれたものだが、尊敬する先輩(芹沢博文)のここまでの言葉にどれだけ勇気づけられたかはかりしれない。

#最近は、後輩の棋士の中に、こうした礼節(対局中はひざを崩してもいいが、コマを動かすときには正座をする)やルールを守らない人もいるが、そういう人は、決して強くなれない。羽生さん、佐藤康光さんたちは人の将棋を必ず座って見る。また、彼らは負けたときにははっきりと「負けました」といって頭を下げる。