ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

189 ギョギョ図鑑 鷲尾圭司

2011-02-05 07:05:57 | やらわ
 図書館より。朝日新聞。

 いわゆる図鑑というわけではない。筆者は兵庫県明石の漁協に長く勤めていた。その瀬戸内の魚を中心に、魚のおいしさや漁業のあり方について真摯につづったエッセイである。イラストも水産に従事していた方ということでモノクロだが精緻である。色をつけないところなど、理科の観察のようだ。
 魚へのやさしい目線が心地よい一冊。

186 最新図鑑熱帯魚アトラス 山崎浩二・阿部正之

2011-01-23 14:30:47 | やらわ
 図書館より。平凡社。

 まさに図鑑。1000種以上の魚を網羅している。その一つ一つに写真がついている。必要であればカラーバリエーションや稚魚・成魚の写真も載せるなど、写真に徹底したこだわりを見せる。その写真がきれい。著者二人ともカメラマンであり、水産学科や水産学部を出ているその筋の人である。

#掲載した写真の多くは、著者自らがモデルを厳選し、美しく成熟するまで丹精込めて育てたうえで、時間をかけて最高の姿を撮影したものである。

 ここまで言い切るだけの美しさがある。

183 星空を歩く 渡部潤一

2011-01-16 19:56:45 | やらわ
 図書館より。講談社現代新書。

 星空散歩という天文用語がある。素敵な言葉だ。特定の星を観測するのでなく、星座や惑星などを見つける気軽な星へのアプローチである。
 本書は季節ごとに見られる星たちの紹介が主であるが、話の引き出しが多くて楽しい。国立天文台の情報・普及のセクションを長く務めているからだ。バンプオブチキンの歌以来「天体観測」という言葉が子供にもわかるようになったこと。星を見るために何度も高速道路を運転したこと。そして一大エポックは木製へのシューメーカー・レビー彗星の衝突である。この興奮が臨場感を持って語られる。
 この本を見たらきっと星が見たくなる。

*今井美樹の「プライド」で「南の一つ星」というフレーズが出てくるが、それはみなみのうお座のフォーマルハウトのことである。

166 翻訳はいかにすべきか 柳瀬尚紀

2010-11-21 06:49:59 | やらわ
 図書館より。岩波新書。岩波なんて久しぶりだ。

 翻訳とは実践である。
 それを標榜する柳瀬先生の、看板に偽りのない好著である。
 いきなり二葉亭四迷の「あひびき」のロシア語からの翻訳が出て面食らうが、言わんとすることはわかる。
 例文も文章の流れにぴたぴた当てはまる。乗りに乗って書いているのであろう。
 よくある「試訳」という語を使わないことにも好感。「試訳」って、「人に文句を言う以上、私の役にも文句をつけたくなるかもしれないが、試しにちょっとだけ訳してみたので、本気になったらもっと上手に訳せるんだからね!」という情けないプライドが仄見えていやですね。

*よい翻訳は短くなる
*彼、彼女、私たち、など代名詞は使わないように
 「人称認証症」「代名詞の駆逐」と揶揄している。
*辞書にあったからそのまま使うことをするな
 long lipsを「長い唇」と訳した例があるが、日本語はそうは言わない。「鰐口」とした。
*日本語として下手すぎる

#対訳 たまねぎの二つの丸い穴に注意せよ
#猫訳 オニオンの、おお、二音にご注目

 ジェフリー・アーチャーが文章の中に12匹の赤いニシンを隠した。いわゆるレッドヘリングというやつである。
原文 he surreptitiously admired her rings.
 admiredの途中から、レッドヘリングが隠れている。
 これを、「指輪の赤に心底見とれている」と訳した。雑文祭か。

133 めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる 横田早紀江

2010-08-10 07:05:42 | やらわ
 図書館より。草思社。

 昭和52年(西暦1977年)11月、新潟県の中学一年生、横田めぐみさんが北朝鮮に拉致される。その時の様子、母親の思い、これ以上ない記録である。

 私はビデオ「めぐみ」で大筋は知っていたが、著者がキリスト教を信仰するようになったこと、めぐみさんが犬を飼っていたことは知らなかった。

 あまりにも感情的すぎて、敏感すぎるなあと思う面もあるが、誰がそれを責められよう。

 出版は小泉首相訪朝前なので、「死亡」は知らされないし「遺骨」も渡されない。こんなに苦しんでいる母親に、まだまだ無慈悲な出来事が待っているとは。

 めぐみさんの帰還に向けて、何かしたい思いにとらわれる。

117 落語入門 渡邉寧久

2010-06-27 15:07:55 | やらわ
 図書館より。成美堂出版。

 題名とポップなイラストから、手軽に作った本と思いきや、役不足(誤用でない)とも言える解説が濃い。

#(船徳は)言わずと知れた八代目桂文楽の十八番。「四万六千日、お暑い盛りでございます」の一言だけで、「盛夏の江戸」を浮かび上がらせるのは、まさに昭和の名人の真骨頂だ。

 立川志の輔師のインタビュー、主な噺のあらすじ、その噺に関連する江戸の風俗、古今の名人たち、そして落語「名作百選」と余すところなく落語のよさを伝える本。上方落語にも逐一言及している。上方四天王や枝雀師も大きく紹介されている。
 これはお勧めである。

 付録は五代目志ん生師の「火炎太鼓」と「文七元結」のCD。

110 柳家花緑と落語へ行こう 柳家花緑

2010-05-23 13:45:05 | やらわ
 図書館より。旬報社。

 構成がいい。まずは寄席案内。水玉蛍之丞っぽい(別人だが)イラストが親しみやすい。
 次に自伝。小さんの孫ということで正真正銘のお坊ちゃんだが、屈折せずあっけらかんとしている姿がりりしい。「兄弟子に忘れ物の体育着を学校に届けてもらった」「馬風師匠、小三治師匠に稽古をつけてもらった」 なんて贅沢な。

#蕎麦を食べるしぐさは、祖父・小さんが得意にしておりました。(略)ん~、僕もそんな美味しそ~うに蕎麦の音を出せるようになりたい!

 噺紹介、噺家紹介なんてのは平凡でどうでもいいが、最終章がすごい。「ぼくのかんがえた番組」を持って、なんと立川談志、三遊亭小遊三、春風亭小朝、三遊亭円楽(五代目)に「どうですか」と話を聞きに行ってしまう。この行動力。お坊ちゃまだ。

 大物四人の返事が楽しい。 

談志: 楽しいだろ? こういうドリームプラン考えんの。オレ個人はこいつらの責任取るの嫌だ。オレ今、落語に興味がねえんだ……。
小遊三: 道は遠いね。これをやるために、もう一つ二つ前の作業が必要だ。
小朝: 熱き落語小僧はみんな考えるんだよね。けどね。ちょっと早い。あなたは今もっと、自分のために走るべきだよ。
円楽: 芸人には常に”めっぽう上手い奴”、”めっぽうおもしろい奴”そして”若い、これから伸びてくる奴”が必要だ。この表にはそれがある。落語協会・落語芸術協会って言っても、昭和になってから出来たものだからね。ぜひ、これをやってください。全面的に賛成します。

96 裏ミシュラン パスカル・レミ

2010-03-21 20:12:38 | やらわ
 図書館より。バジリコ株式会社。

 翻訳独特の装飾過剰な文体が鼻に付く。もう批判することが先に立っている。

#だだっぴろい部屋には、タバコと安い香水の匂いが漂っていた。テカテカとした安っぽい小さな事務机が向かい合って置かれ、ぎらぎらと白い蛍光灯に照らされ、がたがたする木の椅子が備え付けられていた。

 あとはいかに自分が適当に仕事をしてきたかが語られている。大変な仕事であることはわかるが、誰もが知りたい格付けシステムを、まったく客観性のないものだと放言する。「調査員だって人間だもの」と開き直る。元従業員としてのモラルに反したことをしておいて、「ミシュランがイドは原点に立ち戻ることが必要だろう」と意味のあるようでないことを言う。また食べた後で勿体をつけて身分を明かすことに喜びを覚えているような節がある。
 なんてやつだ。

70 超ロング・セラー絶滅商品 サライ編集部・湯川豊彦

2010-01-11 12:29:38 | やらわ
 図書館より。小学館ショーターライブラリー。

 (足踏み)ミシン、あんか、肥後守、ベイゴマ、ラムネ、大学ノート、蠅帳(はいちょう)、リヤカー、柳行李……。
 誰だって使っていたのに、今ではもう店頭で見かけることもない物も多い。その商品を今でも作っている職人を訪ね、話を聞くという体裁である。
 日本人の手先の器用さ、改良を続ける職人の思いが伝わってくる。いい本です。
 どの職人も後継者不足を残念がっている。ガラスペンの人が、「全部自分のところでできるから、あと十年は続けられる」と言っているが、それが胸を打つ。

*大学ノートはB5版のみ。A4は体裁が似ていてもそうは呼ばない。また、大学ノートの罫線は、紙の端まで引かれていて、印刷ではない。

51 ナンセンス感覚 柳瀬尚紀

2008-03-31 12:20:39 | やらわ
 講談社現代新書。

 ナンセンスというテーマを唯一の回転軸として、筆者が好き勝手につづった本。
 ナンセンス詩、将棋、リメリック(a-a-b-b-aと脚韻を踏む)、バッハ、エッシャー、はてはウディ・アレンにジョン・ケージと縦横無尽。特に行を逆に読んでも会話になってしまう「早朝寸劇」には参った。あまりのナンセンスさに、真似しようと思えないほどだ。