ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

96 裏ミシュラン パスカル・レミ

2010-03-21 20:12:38 | やらわ
 図書館より。バジリコ株式会社。

 翻訳独特の装飾過剰な文体が鼻に付く。もう批判することが先に立っている。

#だだっぴろい部屋には、タバコと安い香水の匂いが漂っていた。テカテカとした安っぽい小さな事務机が向かい合って置かれ、ぎらぎらと白い蛍光灯に照らされ、がたがたする木の椅子が備え付けられていた。

 あとはいかに自分が適当に仕事をしてきたかが語られている。大変な仕事であることはわかるが、誰もが知りたい格付けシステムを、まったく客観性のないものだと放言する。「調査員だって人間だもの」と開き直る。元従業員としてのモラルに反したことをしておいて、「ミシュランがイドは原点に立ち戻ることが必要だろう」と意味のあるようでないことを言う。また食べた後で勿体をつけて身分を明かすことに喜びを覚えているような節がある。
 なんてやつだ。

95 字幕の中に人生 戸田奈津子

2010-03-21 16:39:40 | た行
 図書館より。白水社。

 おもしろい! びっくりマークをつけてしまうほどだ。構成もいい。まず一章で日本における字幕の立ち位置を概観し、二章で仕事に就くまでの経歴に触れる。三章は字幕翻訳の実際。四章は名台詞、名字幕。完璧である。

 字幕翻訳の個々の技術には触れない、としながらも、流れるように出てくる現物の数々。貴重である。下記、引用や要約が多いことで、私の関心の高さがわかるであろう。

*「(部屋が)殺風景ね」と言われて"Less to miss." これを「そこがいい」と訳す。
*"Hit the air!"は、「宙を撃て」ではなく、「逃げろ」。
#「キューブリックは字幕翻訳の逆翻訳を要求する。バカげたことをなさる大先生だ」(高瀬鎮夫) 根本的な言語の違いを考慮に入れず、逆翻訳の文字づらだけを見て、満足のゆくはずはない。
*字幕を読みきれなければ何度も見ればよいと言った批評家がいたが、タダで試写を見られる批評家と一般観客は違う。
#字幕はチラッと目を走らせただけで、なんなく内容のつかめる文章でなければならない。
#二行二十字
*一秒に三、四文字
*新聞並みに当用漢字を遵守して、「僕」は使うが「俺」は使わない。
#出だしのせりふは字数を抑え加減にする。
#「ドクター・ペッパー」で(飲み物だと知らなくて)悩んだことがある。
#「オス、メスが違っていましたよ」(男なら「映画は好きでしょ?」でなく「映画は好きかい?」と言わせた方が誤解がない)
#「ガイトーがあるので、ボンドで見てください」(法令違反に該当する部分があったので、税関に保税状態にされているものを試写の特別許可をもらって見てください)
#「ここからここまでが一つの字幕ですよ」という区切りを、原文のシナリオに記してゆく(のを、「箱書き」という。)
#"Go!"が「行け!」か「逃げろ!」かは、画面を見なくてはわからない。
*ヒアリングはネイティブにしてもらう。(昔は自分でやったこともある)
*ターザンもウディ・アレン作品もギャラは同じ。

 個人的には彼女の字幕は好きではない。始めに名前が出ると、「あーあ」と思う。終わってから名前を見ると、「やっぱりな」と思う。ごめんなさい。
 私は字幕を見るのに慣れているから、彼女の字幕は、簡単にしすぎて内容が削られた印象がどうしてもあるのだ。

94 弁当男子 きじまりゅうた

2010-03-18 21:03:38 | か行
 正確に言うと、レシピ考案&製作がきじまさん。

 いい本だ。
 弁当を作るイケメン(変な言葉)を取り扱っているのは目をつぶろう。レシピや写真がいい。
 私はよく料理本を借りるが、簡単なはずのレシピが料理家魂でちょっと本格的になってしまうことがよくある。
 しかしこの本にはない。弁当だから、手間のかかる料理はない。スピードが命。せいぜい油で揚げるくらいだ。
 白眉は111㌻、月火水木金、すべてに卵焼きが入っている。あの四角い玉子焼き器を買おうかなあ。
 細い弁当箱の使い方も参考になる。

93 元気が出る東北 みちのく研究会

2010-03-15 22:35:18 | ま行
 図書館より。ごま書房。

 内館牧子の紹介文が、この本の性格を言い切っている。「とにかくおもしろい本である。とてもお役所が作ったとは見えない。軽妙な文章、オチのうまさ、何度吹き出したことか。」
 みちのく研究会とは社団法人東北建設協会内にあり、つまり道路屋さんが東北の魅力を宣伝しもって地域に活力をもたらさんと書いた本だと推測される。でも文章のおもしろさは玄人はだしだ。

#秋田では「めがねこ、いたいた」と小さなものをいとおしむ表現の「こ」を付けた上で、無機質なモノにも人に対するような「いた」という表現をする。

 惜しむらくは古代遺跡の話だ。三内丸山遺跡はいい。縄文文化の常識を覆す新発見の数々。もう一つ、上高森遺跡を載せちゃったのがまずい。これまで日本最古の人類は3万年前からとされていたが、それを大幅に更新する50万年前の出土物。そう、ゴッドハンド事件である。あああ。

 これで「やっぱり東北は」なんて言われてしまうのだ。著者グループに罪はないが。

92 下世話の作法 ビートたけし

2010-03-14 06:19:53 | は行
 図書館より。祥伝社。

 有名人のエピソードがいい。高倉健さん。自分の出番がないときでも、撮影を立って見守っていた。座らない。寒い中、火に当たることもない。
 また初共演のとき、旅館で別室にいたら「おいしいコーヒーが入ったんで、飲みに来ませんか」と誘ったという。大スターなのにこの気配り。

 渡哲也さん。ラグビーの松尾雄治さんの誕生日に、二人でクラブに行った。すると渡さんがいた。挨拶をし、渡さんは先に帰った。
 花束が届いた。「松尾雄治様 お誕生日おめでとうございます」
 二人の勘定が払われていたことは、言うまでもない。

 伊集院静さん。立教大学時代は野球部。草野球でホームランを打たれた。
「たけちゃん、あいつ今日一日うれしいんだろうな。今のホームラン一本で今夜はうまい酒を飲めるんだもんな。よかったねえ」

#秋葉原で通り魔事件があった。(略)ネットの掲示板に「勝ち組はみんな死んでしまえ」って書き込んでいたらしい。さんざん夢、夢って強制されてきたやつが、派遣社員でクビになった。この先には何もないとわかったとたん、やけくそになっても不思議ではない気がする。

#「粋(いき)」っていうのは「常識をわきまえたうえでの、もう一つ上の生き方」なの。それにはまたいろんな意味があるんだけども、まずは他人(ひと)に気を使えることが大事になってくるんじゃないかと思ってる。

 この定義がもう一つ曖昧で惜しいなあ。

91 ニッポン駅弁大全 小林しのぶ

2010-03-08 17:16:20 | か行
 図書館より。文藝春秋。

 同じ文藝春秋の東海林さだおさんの東北駅弁旅行に同行し、ガイドしたというので気になっていた。本当かどうか知らないが「ついていってもいいわよ」という気っ風のよさがいい。

 そして本書。駅弁534個が「蟹めし&蟹ずし」「鶏めし」「陶器入り」なんてジャンル別に紹介されている。食材や製法への圧倒的知識量に驚く。写真も美しい。ちなみに弁当は「調製」するものらしい。

 電車に乗らない人にも、ぜひ一度読んでもらいたい本。
 「駅弁の女王」 いったいどういう人なんだ。

 ちなみに北海道・東北のお勧めは以下のとおり。
#北海道 母恋めし 母恋駅
#青森 まるごと倉石村 八戸駅
#岩手 平泉うにごはん 一ノ関駅
#秋田 鶏めし弁当 大館駅
#宮城 各驛停車 仙台駅
#山形 本場米沢牛すきやき弁当 米沢駅
#福島 うにめし弁当 いわき駅

89 プラネタリウムを作りました。 大平貴之

2010-03-08 16:41:39 | あ行
 図書館より。エクスナレッジ。

 題名がどんぴしゃり。科学と工作が好きな子供がいた。日光写真を作り、ヒマワリを育て、高校生になるとロケットを打ち上げた(!)。
 星が好きだった。紙を直径5㍉の円にくり抜き、夜光塗料を塗り、オリオン座の形に壁に貼り付けた。それがプラネタリウムの始めだった。次はピンホール型になった。レンズ式になった。大学生になり、ついに3号機「アストロライナー」を完成させた。
 ドームを造り、学園祭で上映した。各地の祭にも呼ばれた。嵐が来て、ドームが飛ばされないようにずぶぬれになって押さえた。
 4号機メガスターを作った。ロンドンの世界大会で発表した。その星の数、170万。肉眼では見えない11等級までの星が投影される。

 ……あらすじだけを書いてしまいました。こんな行動力に脱帽。

#"It's my hobby."(メガスターの説明会で。企業でなく個人での参加。)

#どうすればリアルな星空を再現できるかを追求した結果、いかに暗い星を投影するかという、プラネタリウムメーカーとは逆の発想で開発、製作したのが「メガスター」でした。
(解説の若宮さん。さすが日本プラネタリウム協会会長、真髄を言いきっている。)

#星空を作りたいという願望の根本はなんだろうか。それは美しいものを作りたいという願望だと思う。(略)僕らの祖先は何百万年にわたり、街明かりなどに邪魔されず、無限の星空を当たり前のように見てきた。(略)だから自然と、星空を求めるのだ。

88 ももこの世界あっちこっちめぐり さくらももこ

2010-03-05 21:59:04 | さ行
 図書館より。集英社。

 大ヒットのご褒美なのか、ノンノが世界旅行をプレゼント。
 金銭感覚が違いすぎて面食らう。イタリアで何十万というシャンデリアをいくつも買ったり、腕時計を買うためにパリへ行ったり。羨望でなくて、「この人は私と住む世界が違う」という気分にさせられてしまう。
 また男として夫への冷たさにも閉口。基本的に男が嫌いなのかもしれないね。

 ピエール・ラニエの腕時計の写真は一見の価値がある。人物の写真が赤目なのは「処理してやれよ」と思う。

87 今おもしろい落語家ベスト50 文藝春秋編

2010-03-02 23:21:54 | は行
 図書館より。ムックだ。

 上位を挙げる。亭号省略。
1)喬太郎
2)志の輔
3)小三治
4)談春
5)志らく
6)談志
7)談笑
8)昇太
9)市馬
10)三三

 喬太郎は知りませんでした。勉強不足。小三治はいい。私が落研時代にどれだけ心酔したことか。「居酒屋」は真似した。「笑点」大喜利の昇太はいつもはらはらして聞いていられないのであるが、ここでは評価が高い。昇太と柳昇師の掛け合いがおもしろい。
「昇太、ナスはおいしいね」
 何だこれ。泣き笑いしてしまう。

 画竜点睛を欠くのは角田光代のエッセイ。初めて寄席に行った体験はおもしろく書けるかな、と思いきや、このページだけつまらなくて破り捨てたくなる(図書館の本なのでやりません)。ほかのページが落語への愛に満ちあふれているのに、ここだけとってつけたような薄っぺらさだ。