時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

デラウエアの戦い:アメリカはどこへ向かうか

2020年11月09日 | 特別トピックス


『デラウエア川を渡るワシントン』アメリカ独立200年記念郵便切手シートの一枚
下記の油彩画に基づいて制作された:
Washington Crossing the Delaware by Emanuel Leutze/Eastman Johnson, oil on canvas, 378.5 x 647,7cm, 1851, Metropolitan Museun, New York, N.Y.


アメリカ大統領選もバイデン氏の勝利宣言で、ようやく決着がつきそうになってきた。しかし、トランプ氏はあきらめきれないのか、現段階では法廷闘争を進めると強調している。アメリカは選挙で露呈したように、明らかに分断の危機にある。しかし、ようやく修復と癒やしの時は見えてきたようだ。

バイデン氏が選挙活動の本拠地を生地のペンシルベニア州からデラウエア州に移していることに関連して、思い浮かべたことがあった。ペンシルベニア州とデラウエア州は、アメリカの歴史においてはきわめて重要な重みを持つ州である。

トランプ大統領とバイデン氏の双方がこの両州の選挙活動に多大なエネルギーを注いだのには理由がある。アメリカの独立宣言につながるこの地は、アメリカの歴史で格別の意義を持っている。

デラウエア川を渡るワシントン
デラウエアと聞いてブログ筆者が思い浮かべたのは、『デラウエア川を渡るワシントン』Washington Crossing the Delaware という油彩画である。多くのアメリカ人が特別の思いをもって思い浮かべる絵画作品である。現在はワシントンD.C.のメトロポリタン美術館に展示されている。アメリカ人ならずとも大変迫力を感じるドラマティックな作品である。

1976年には、アメリカ独立200年記念(Bicentenial 177-1976)として、この絵画作品を含めて4点の作品をモデルとした記念郵便切手4シートが発行された。筆者は切手のコレクターではないが、断捨離の作業の途中で、友人から贈られたこれらのシートのことを思い出し、引き出しの中から見つけ出した。

画題はアメリカ独立戦争中の1776年12月25日にジョージ・ワシントンが陸軍の部隊を率いて寒風吹きすさび、氷が張ったデラウエア川を渡った光景を描いている。

1776年の12月初頭まで、アメリカの愛国者にとって、事態はきわめて厳しくなっていた。彼らは一連の戦闘に敗退し、ニューヨーク、ニュージャージーからペンシルベニアまで追い詰められていた。多くの兵士がいなくなり、独立への正当性も薄れつつあった。

しかしながら、その中でトマス・ペイン Thomas Paine が12月19日に刊行した『アメリカの危機』The American Crisis のように独立を希求する人たちを鼓舞した小冊子が熱意をもって受け取られた。ワシントン将軍もその一人で、彼の兵士の誰もが読むべきだと命じた。

この状況で、彼は思い切った作戦計画を考えた。デラウエア川の対岸のトレントン(ニュージャージー州)は、当時1500人のドイツ軍(イギリス軍のために戦うために雇われたヘッセン人)によって占領されていた。これに対し、ワシントン将軍は2400人の兵士を擁し、加えて2中隊が援軍に駆けつけることになっていた。12月25日、ワシントンは万端準備を整え、氷が張ったデラウエア川の渡河を試み、悪天候に悩まされながらも、先頭を切って深夜に川を渡った。渡河地点は、現在のマッコンキー波止場、McKonkey’s Ferry付近と推定されている。(現在はWashington Crossing Btidgeという橋がかけられている。両岸にはそれぞれ歴史公園が設けられている)

この渡河によって大陸軍はニュージャージー州のトレントンにおける戦いでドイツ傭兵隊を急襲した。ワシントンの率いた軍は戦闘に勝利し、翌日のトレントンの戦いで、アメリカはイギリスに勝って、その後のアメリカ独立への道につながることになった。

N.B.
画家はドイツ生まれのエマニュエル・ロイツェ(1816年−1868年) であり、アメリカで成長し、成人してドイツに戻り、1848年革命の時にこの作品を制作することを思いついた。制作後まもなくアトリエの火災で損傷し、その後修復されブレーメン美術館に買い上げられた。その後第二次世界大戦中にイギリス空軍による空襲で破壊された。
その後、原寸大の写しとして1850年に制作された。1951年10月にニューヨークで展示された。その後所有者が何人か変わり、最終的に1897年にメトロポリタン美術館に寄贈され、今日にいたっている。

作品の構成
ジョージ・ワシントン将軍が激しい天候の中、デラウエア川を兵士、農夫、など、後にアメリカを形成すると思われる人々と渡る場面を描いている。スコットランド風の帽子を被った男性、前面に座っているアフリカ系、舳先と船尾に座るライフル銃射手、広い縁の帽子をかぶる農夫、赤いシャツを着た女性のようにみえる人物などが描かれている。

ワシントンの後ろに立ち、旗を持つのは、ジェームズ・モンロー中尉で、後の大統領である。描かれた人物は、当時のアメリカ植民地の断面を象徴しているとみられる。

現実にワシントンが渡河した地点の光景、天候や河川の厳しさ、描かれている船、アメリカ合衆国国旗のデザインの不自然さなどが指摘されてきたが、作品の持つ力強さもあって、多くのアメリカ人にとって極めて感動的な作品として受け取られている。ペンシルベニア川の記念館には、デラウエア川を軍隊が渡河した際に使用した船なども再現されている。

アメリカは旧大陸からの独立を目指したころと比較して、人種の構成も政治や文化的環境も大きく変わった。このたびの大統領選で、ペンシルベニア、デラウエアでの激しい選挙の実態を見て、しばしこの国の行方に思いを馳せた。『デラウエア川を渡るワシントン』の絵画は多くの模写が存在し、そのうちの一枚はホワイトハウス内にも掲げられているといわれる。トランプ大統領は作品を見ただろうか。

デラウエア川の主要領域



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記念郵便切手の概略
独立200年記念郵便切手のシートは下掲の4枚から成り、1シートは5枚の切手に使えるようになっているが、購入者が切手として使うことはほとんどないだろう。切手の一枚、一枚に歴史上の人物が割り当てられている。

Washington Crossing the Delaware From a Painting by Emanuel 
Leutze/Watmn Johnson



Washington Reviewing His Ragged Army at Valley Forge From a paonting by William T. Trego




The Surrender of Lord Cornwalls at Yorktown from a Painting by John Thumbell




The Declaration of Independence, 4 July 1776 at Philadelphia From a Painting by John Trumbell





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