アジア諸国における経済成長と雇用の伸びの相対比(%)
成長すれども、仕事がない
BRICs (Brazil, Russia, India and China)という新語の中に、インド、中国とが含まれているように、アジアの高成長は世界の注目の的である。しかし、成長がそれに見合った仕事の機会を生み出すかというと、どうもそうではないらしい。
最近、経済誌 The Economist が短い記事だが、アジア諸国は今後も高い経済成長が見込まれるが、それに対応するほどの雇用機会は生まれないと述べている。アメリカ、ヨーロッパ、日本などの先進諸国では失業は重要な政策課題だが、アジアのその他の国では失業は通常、「問題」であるとは考えられていない。失業以上に「問題」なのは、貧困なのである。人々は生きるために、あるかぎりの仕事に就いている。 先進国では誰もやらない仕事も、貧困の前には皆が奪い合う仕事となる。
誰もが働く
アジア諸国では、成人のほとんどと多数の子供までもが可能な限りさまざまな仕事に就いて働いている。その多くは農民として、そして近年では都市で働く一時的労働者でである。北京で働く建設労働者は、ほとんど北京市民ではないといわれ驚いたことがあった。
アジア諸国は一般に成長率が高いので、毎年多くの雇用機会を創り出してきた。しかし、多くのアジア諸国は、仕事の機会を創出する以上に仕事を求める人を生んでいることが分かってきた。1999年以降、多くの国でこうした状況が生まれている。その結果、ILOによるとアジア太平洋地域では約7400万人、労働力の4.4%近くが失業している。この数値には潜在的失業者は含まれていない。論拠となったアジア開銀の報告書では、パキスタンの5分の1、ネパールの4分の1、バングラデッシュの3分の一がそうした状態である。ヴェトナムでは農村部の56%近くが潜在失業者といわれている。
大きな労働力の伸び
アジアでは相対的に若い人口がまだ多く、労働力人口の伸びも大きい。アジア開銀によると、中国の労働力は2015年までに7%増える。インドネシアは14%、パキスタンは30%、アフガニスタンは43%である。女性の参入が増えると、さらに数は増える。 多くのアジア諸国では、15-24歳層は労働力の5分の1を構成する。しかし、彼らは失業者の半分を占める。たとえば、スリランカでは若い労働者の方が、年配者よりもはるかに失業率が高い。 こうした問題が生まれる背景にはなにがあるのだろうか。
アジア諸国に浸透する資本集約的産業
アジアの成長は、それに見合った仕事の機会をつくり出していないとアジア開銀の報告書は指摘している。中国やインドなどを含むアジア諸国では、賃金コストが相対的に安いので、資本集約的仕事より労働集約的仕事が増えるはずではないかと思われるかもしれない。しかし、現代の、とりわけ輸出志向型の企業は、最新の技術を導入する傾向がある。 中国でも90年代以降、生産物単位当たりの労働投入量も低下している。最低限度の農業と都市の単純サービス労働だけが労働集約的である。
アジアの成長を牽引している産業は、労働集約的ではなくなっている。成長は歓迎すべきだとしても、失業者の顕在化にアジア諸国は悩むことになる。 その結果は、海外出稼ぎ、移民労働のあり方にもかかわっている。アジアの労働供給圧力は当面弱まることはないだろう。
Reference
The Jobless boom, The economist, January 14th 2005