2014年03月14日 15:58 発信地:ベイルート/レバノン
シリアの首都ダマスカス(Damascus)で、バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領を描いた巨大な布を広げるデモ隊(2011年11月28日撮影)。(c)AFP/LOUAI BESHARA
【3月12日 AFP】内戦状態に突入してから4年目を迎えるシリアでは、国土は荒廃し、深刻な人道上の危機が生まれる中、バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領の政府軍が、分裂状態にある反体制派から領土を奪還すべく攻勢を強めている。
シリア和平に向けては米国とロシアが外交努力を続けていたが、現在両国はウクライナ危機をめぐって対立しており、進展のないまま、シリア国内の戦闘は続いている。
シリア情勢の専門家、英エジンバラ大学(University of Edinburgh)のトマス・ピエレ(Thomas Pierret)氏は、「シリア内戦は、欧米の介入がなければ今後何年も続くだろう。しかし米大統領がバラク・オバマ(Barack Obama)氏である限り、介入は全く見込めそうにない」と指摘する。「(オバマ氏の後任選挙が行われる)2016年以降には、状況が変わるかもしれない」
この内戦ではこれまでに14万人以上の命が奪われた上、人口の半数近くが家を追われ、今ではその多くが難民生活を余儀なくされているが、今のところ、政府と反体制派のどちらも、勝利に向けた決定的な手段は持っていないように見える。
紛争が始まったのは2011年3月、平和的に行われていた反政権デモが、暴力で鎮圧された時だった。武器を手にした反体制派が始めた蜂起は、2012年2月に政府軍が中部ホムス(Homs)を爆撃すると、全面衝突に発展した。
徐々に支配領域を失っていった政権側は、レバノンのイスラム教シーア(Shiite)派原理主義組織ヒズボラ(Hezbollah)と、イラン革命防衛隊(Revolutionary Guards)の訓練を受けたイラクのシーア派戦闘員を味方につけ、2013年春に反撃を開始した。同8月には、人権活動家らが政権側の犯行と主張する化学兵器攻撃が発生し、欧米諸国が軍事介入を検討したが、それが回避されたことで、政権側は勢いづいた。
政権側の戦略は今、「シリアの有用な部分」、つまり沿岸や、南部と北部にある主要都市、幹線道路の防衛に切り替わっている。現在反体制派の掌握範囲は政権側よりも広いが、政権側はより人口密度の高い地域を制圧している
■「良い筋書きなど存在しない」
目下、反体制派の内部ではこれまでにないほど分裂が進んでおり、政権側に加え、かつて同盟関係にあったイスラム武装組織「イラク・レバントのイスラム国(Islamic State of Iraq and the Levant、ISIL)」とも戦っている。
穏健派・過激派、両方の反体制派に加え、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系の「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」までもが、今年1月以降、ISILに対し激しい戦闘を仕掛けており、今のところ収束の気配もない。
専門家らは、政権側は最近領土奪還を進めているが、全土を取り返すだけの兵力は持ち合わせていないと分析している。識者らの推定によると、反体制 派は10万~15万人の戦闘員を抱えており、そのうちの1万~2万人が外国人。また反体制派には約2000の武装組織があり、そのうち「イスラム戦線(Islamic Front)」が最も重要な立場を保持している。
一方政府軍の兵力は30万人とされ、このうちの半数が徴集兵。加えて、数千人規模の親政権派民兵らの支援も受けられる。しかしシリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)によると、政権側は過去3年間に5万人もの戦闘要員を失ったという。
「どちらにとっても勝ち戦ではない」。ドイツ国際安全保障研究所(German Institute for International and Security Affairs)の所長で、「Syria under Bashar(バッシャール下のシリア)」を著したフォルカー・ペルテス(Volker Perthes)氏はAFPに対し語った。「もしかしたらアサド氏は、領土の大半を取り戻し、制圧できていない地域については焦土作戦を展開するかもしれない。しかし、再び国全体を支配下に置くことは決してないだろう」
ペルテス氏はさらに、国家崩壊は「可能性の一つではなく、一つの現実であり、仮に戦争があす終わったとしても国の再建には10年以上かかるだろう」という見通しを示している。
また、同じくシリア問題に詳しい地理学者のファブリス・バランシュ(Fabrice Balanche)氏は、シリアの分裂もあり得ると指摘。「どちらか一方の勝利には終わらず、北東部のクルド人(Kurd)地域と、北部の反体制派地域、そして中部の政権掌握地域という、事実上の分割状態」を予測している。
「シリアにとって良い筋書きなど存在しない。アサド氏は再びゆっくりと支配を強めるだろうが、そのためにどれだけの犠牲を払わなければならないことか」
「政権側が復権を果たせば抑圧を伴うのは必至で、そうなれば数十万人の流出につながるだろう」
「2006年に(イスラエルとの衝突後に)レバノンに注入されたような資金をシリアが受け取るようなことは考えにくく、イラクのような産油国でもないのだから」
(c)AFP/Imed Lamloum