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「天の橇がゆく」

2006-08-22 | エッセイ
児童文学作家・神沢利子さんのエッセイ。宇野亜喜良さんの美しい挿絵付きです☆画像は「早春のはがき」のページより。

 <目次>
ゴールデン・ベア/鴨の叔父さん/幻の馬が棲む/宙に綾なす/早春のはがき/凍蝶/幼年と雨/老年萬華鏡/天の橇がゆく/蝦夷松/井の頭をゆけば

神沢 利子, 宇野 亜喜良 / 福音館書店(2003/11)
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北海道、樺太で過ごした幼少期の話など、11編のエッセイを収録。昭和の前半に子ども時代を過ごしたこともあり、戦争の暗い影も所々に見られました。私は「くまの子ウーフ」が大好きで、神沢さんの作品研究もしたことがあるので、とても楽しく読みました。私が一番気に入った話は、「早春のはがき」。この早春のはがきというのは、詩人のまど・みちおさんが神沢さんに宛てた手紙です(神沢さんは童謡を書いていた時期があり、そのとき指導を受けたのがまどさんなのです)。

神沢さんは「スーホの白い馬」を読んで、馬頭琴をいつか聴いてみたいと思っていたのですが、ある日の新聞で馬頭琴の名手が来日するという記事を見つけ、まどさんに手紙でそのことを知らせました。そして、その手紙の返事が送られてくるのですが、そこには馬頭琴ならぬ「鳥頭琴」という言葉が書かれていました。これは、神沢さんの字をまどさんが読み違えたためなのですが、神沢さんはこの字を目にしたとき、見知らぬ異国の鳥の頭を持つ琴が虚空に浮かび上がり、未知なる響きが心をふるわせた、と語っておられました。

そんな話を聞いて、私も鳥頭琴という言葉にとても不思議な魅力を感じました。また、鳥頭琴をイメージして描かれた絵も素晴らしくて、すごく気に入りました!それは、ほとんどの挿絵がペンで描かれているのに、この話の挿絵だけは鉛筆のような線で描かれ、淡いピンク色が水彩で付けられていたため。とても優しい雰囲気で、印象的でした♪

「鴨の叔父さん」も好きなのですが、これは亡くなった叔父とそっくりな鴨に会った話。その鴨が「キメタノカ」「ユケルトキニ イクトヨ」と言ったような気がした神沢さんは、決めかねていたカムチャツカへの旅のことが頭に浮かびます。神沢さんの処女作「ちびっこカムのぼうけん」は「カムチャツカ探検記」という本を読んで生まれたと言い、その物語の舞台をこの目で確かめたいと思っていたそうです。

神沢さんは樺太に住んでいたこともあり、カムチャツカをほんの向こう岸だと思っていたのですが、入国は長い間許されていませんでした。しかし、ほんの4、5年前に入国が解禁され、この夏には名古屋からチャーター便が飛ぶという情報を得て胸を躍らせますが、処女作を書いてから30年余が経ち、その旅が決して楽ではないという思いから、カムチャツカ行きを迷っていたのです。

そんなときに叔父そっくりの鴨に会い、かつて叔父が述懐した「ひとつのことをじっくりやりとげることが肝心」という言葉が背中を押し、カムチャツカへ行くことを決意するというのが、この話。私もこの叔父さんの言葉に共感したのですが、こんな叔父さんが身近にいた神沢さんはとても幸せだなと思いました~。



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