淡路島５人刺殺事件で思うこと・・・

　兵庫県洲本市の５人刺殺事件で、殺人容疑で送検された平野達彦容疑者について、神戸地検は精神鑑定を実施するための鑑定留置を請求する方針だとか。捜査関係者によると、平野容疑者は県警の取り調べに「裁判になるまで話さない」などと供述。事件について黙秘し、意味の分からないことを話すこともあり、こうした状況から地検は事件当時の精神状態を調べる必要があると判断したようである。
　これほど早く精神鑑定をするということは、通常の取調べができないほど異常だということだろうが、もしこれで責任能力なしと判断されたら最悪だ。神戸の病院で「妄想性障害」と診断され、２００５年から何度か入退院を繰り返しており、尋常でないということは分かっていただろうに、適切な対応をせず狂犬を野に放った責任は一体どこの誰が取るのだろう。 
　県は１９日、平野容疑者の言動について、両親が事件前、県の健康福祉事務所に７回相談していたことを受け、対応を検証する委員会を近く設置すると発表した。委員会は精神科医や大学教授など外部の専門家で構成する方針で、４月からメンバーの選定を始めるという。今頃になってその時の対応を検証するというが、何を今さらという感じもする。だが、これを機に精神異常者への対応がマニュアル化され、事件を未然に防げるようになれば無駄ではあるまい。

　平野容疑者は現場近くの自宅で父と祖母との３人で暮らしだったが、ずっと引きこもり状態だったので、近くにこんな危険人物がいることを知らない人が多かったようだ。だが、被害者の家族は平野容疑者について、９回にわたって警察に相談していたという。なのに警察は一度も本人と接触していなかったというのはどう考えてもおかしい。警察の中には「接触していれば、何か対応ができたのかもしれないと思う」と、対応の不味さを認める発言をする人もいるという。
　あの川崎市の上村くん殺人事件でも、警察は上村くんに会って話を聞くチャンスはあったのに電話だけですませたという。直接本人に会って事情を聞いていれば彼の顔のアザに気付き、ことの重大さが認識できたであろうに…。どちらの事件も、警察官に、もう一歩踏み込んで事情を把握しようとする姿勢を徹底させていれば、あるいは…。検証するなら、こうした警察の手ぬるい対応をきっちり検証し、犯罪の予防に努めてもらいたい。 

　精神に異常を来たした者ほど怖いものはない。常人が人を殺せば厳しく罰せられる。５人も殺せば死刑は確実だろうに、精神異常者は責任能力なしと判断されれば罪を問われない。常人だろうが精神異常者だろうが、人の命を奪ったことに変わりないのにおかしい。犯人が精神病院に収容されてそれで終わりなら、死んだ人は殺され損の泣き寝入りか。そんな理不尽なことがあろうか。
　あきらかに事件を起こしそうな人間がいても、警察は法律だの人権だのと、建前ばかり並べて何もしてくれない。２０１１年１２月に起きた長崎ストーカー殺人事件で家族を殺された父親の「黙って殺されろと言われたのと同じ」、「警察が守ってくれないのなら法律を変えてください」という言葉に、あふれんばかりの悔しさが伝わってきた。
　私にはその悔しさがよく分かる。７年前になるが、精神異常の若い女性に家に押しかけられ、警察に助けを求めたことがある。だが、警察は「何かあったら電話してください」と言うだけ、何かあっては遅いということは考えないらしい。あまりの理不尽さに警察官に食って掛かった事を思い出す。警察は犯人を捕まえることには一生懸命になるが、犯罪を未然に防ぐということにはなぜか消極的である。法律だの人権だのと言って何もしないのは、面倒なことにならないよう予防線を張っているのだろう。