新年のごあいさつ・・・

　薄日の射す中、風花の舞う寒い年明けでした。今年は自筆の賀状で新年のごあいさつをいたします。本年もよろしくお願い申し上げます。

　ギフト店のバイトを辞めてから筆を持つことはまったくなく、年賀状もパソコンで作り出してから文字らしい文字を書くのは本当に１０何年ぶりです。
　久しぶりに筆を持ちつつ、遠い昔のことを思い返していました。亡父は左利きですが書が達者で、多少でもその筋をひいていたのか、私も書道が好きでした。小学校４年くらいまで習字教室に通っていましたが、成人するにしたがって筆を持つ機会はなくなっていきました。それが、２５歳を過ぎた頃、近所の裕福なご隠居さん宅に４、５人が集まって、大学の書道講師に来ていただいて書を習っているという場に仲間入りさせてもらうことができました。
　以前から、三十一文字の和歌を万葉仮名で書いてみたいと思っていたので、「いろはにほへと」から始めました。頂いた手本で練習したものを添削してもらうという週に１度の指導でしたが、３年ほど続けました。その間、師の所属する書道連盟が年４回発刊する機関紙に、私の作品が写真入りで２度掲載され、早い段階で級から段位に昇格しました。また、師に勧められて岡山県展に２度ばかり出品したりして、少しばかり自信が持てるようになりました。
　でも、それが間違いの元でした。これから本格的に書道の修練をして、できれば書道塾で生計を立てることが出来たらと、大それた望みをもつようになりました。新聞社の知人に頼み、岡山県南の女流書道家を紹介してもらい、週１回、往復４時間掛けて通い始めました。が、時が経つにつれ、人さまに教えるまでになるには生半可な修練ではなれぬ、自分のレベルはしょせん趣味の域を出ないものだと思い知るようになり、きっぱりとあきらめました。が、改まった礼状などは筆書きで巻紙にしたためるくらいはできるようになりました。
　その後、書とは縁のないパソコンで製版する仕事をしていましたが、その下請け業が下火になり始めた頃、「下手の横好き」が「芸が身を助ける」ことになりました。ギフト店でバイトを始めましたが、商売柄、筆書きは厚遇されました。結納目録、命名札、のし紙、金封などなど、書といえるようなものではありませんが、それでも筆を持つことに慣れて構えることなく書けるようになったのはよかったと思います。

　書道を習い始めた４０数年前、亡母が、岡山県の伝統工芸である『烏城彫り』の文箱と硯箱をプレゼントしてくれました。
　
　硯箱の中の硯は、親しい友人が中国で買い求めてきてくれたものですが値段は知りません。でも、墨の磨り具合が違うのでそんなに安物ではないと思います。安物の硯は堅くていくら墨を磨ってもなかなか濃くなりませんが、この硯はやわらかくてすぐに濃くなります。
　文箱も硯箱も色褪せて、ところどころ傷がついていますが、蓋をしても四隅には少しの狂いも撓みもありません。これらも硯も、これから何十年先でも使えそうに思いますが、身内にはこんな古い物をもらってくれる若い者はいそうにないし、おそらく私の命とともに消え行く運命にあるのかと思うと、とても惜しい気がします。

　さて、大晦日は年越しそばもいただき、１１時３０分からのジルベスターコンサートで年越しをいたしました。カウントダウン曲はホルスト作曲「ジュピター」、１２時きっかりに終るように練習しているのでしょうが、毎度のことながら、１０秒くらい前からのカウントダウンは緊張します。１２時ジャストに演奏が終ると場内には花吹雪が舞い、観客全員がスタンディングオベーション、割れんばかりの拍手で場内の興奮は最高潮に達しました。あの場にいたらどれほど感動を覚えただろうか。一度はそういう経験をしてみたいと、毎年そう思います。

　年明け早々から私事をダラダラと申し訳ありません。が、重大な事件も事故もない平穏な新年を迎えられたということだとご容赦願います。願わくば、書くネタに困るというような平穏無事な１年でありますように。