令和3年11月7日 覚書
日本経済新聞
チャートは語るfeat.衆院選
米国などでみられる政治の分断が日本にも潜む。
衆院選は事前予想を上回る自民党の勝利だった。
出口調査や自治体ごとの得票のデータをひもとくと40歳未満の層で強さが顕著で、高齢者と溝がある。
東北や信越の農業が盛んな県で集票力を高める一方、大都市や女性層は勢いがなく、様々な断絶が浮かび上がる。
米国は政治の二極化の様相が強まっている。白人の中高年層は共和党が優勢で、「米国第一」を唱えたトランプ前大統領の誕生の原動力になった。
対照的に若い世代は民主党支持が多数を占める。格差是正などを訴える急進左派を支える傾向にある。
日本はどうか。衆院選で自民は単独で絶対安定多数の261議席を得たが、背景に40歳未満の強い支持がある。
今回の衆院選について共同通信社の出口調査のデータを用い、世代別や男女別に選挙を実施したらどうなるか試算してみた。
全国289の小選挙区について各層別に最も得票の多い候補者を割り出した。
比例代表は全11ブロックの各党ごとの回答数をもとにドント方式で階層別に選挙をした場合の議席数を算出した。
40歳未満の集計結果で全465議席を配分すると自民が295.5議席になった。実際の261議席を34上回る。
立民の枝野幸男代表が勝った埼玉5区、菅直人元首相が取った東京18区も自民が勝つ。
同じ手法で60歳以上をみると40歳未満と対照的な結果が出た。
自民は223議席で単独過半数を維持できない。米国と異なる形で世代間の差が浮き彫りになった。
男女別に分析しても自民との距離に違いがでる。
女性層の試算で自民は230議席になった。
実際より31議席少なく、単独過半数を下回る。
地域差も探った。
都道府県別に自民の比例代表の得票率を2017年衆院選と比べると、長野、高知、秋田、山形、福島の各県が6ポイントを超す伸びをみせている。
農業が盛んな地域が並ぶ。
17年衆院選や19年参院選では環太平洋経済連携協定(TPP)への懸念から農業票が野党に流れたと分析された。
今回は傾向が変わった。
反対に得票率が下がったのは8府県だった。
維新が伸長した近畿は大阪の7ポイントを筆頭に全6府県で下落した。
神奈川も低下、東京は上昇幅がわずかで、大都市部は自民に比較的厳しい結果になった。
若い世代は経済が成長せず、社会保障改革が進まなければ将来負担が膨らみかねない。
この危機感が自民支持に傾く背景と考えられる。
改革を強調した維新が近畿を中心に伸びた要因とも言えそうだ。
埼玉大の松本正生名誉教授は「30歳代は旧民主党への拒否感を持つ層が厚い」と指摘する。
民主党政権下で就職活動を経験した年代にあたる。
20歳代は「そもそも政治への期待値が低い」と話す。
一方で社保改革のあおりを受けかねない高齢者は分配志向の野党への支持を強めたとみられる。
新型コロナウイルス禍で雇用や生活の打撃が大きい女性、感染が広がった大都市部は政権不信が根強い可能性がある。
22年夏には参院選がある。
経済成長で未来への希望を示しつつ、苦境にあえぐ層をどう救済するのか。
衆院選で垣間みえた分断の芽を摘むことができなければ、米国のような政治の二極化、民主主義の危機ともいえる状況が日本でも進みかねない。
政党の得票率、あなたの市町村は
自民党にふいた風 あなたの市町村は
チャートは語る