(長文なので興味ある人のみ覚悟して読んでください)
Aguilar TLC COMPRESSORのレポです。
TLCとはトランスリニアコントロールの略でアギュラーの持つ
特許技術のようですが見ても意味はさっぱりわかりません。どっかでアナログコンプだと聞いた気がしたんですがなんだかデジタルで制御しているかのような説明ですよね。きっとステキな技術なのでしょう(笑)。ここではあくまでも使用感だけレポします。
アギュラーはベースアンプメーカーです。ベーアンの会社が放つコンプということはベースだけをターゲットにしている製品だと私は勝手に思ってニンマリしております。しかし実際ベース用と銘打ったコンプに限って、ローが露骨で使い込むほどにだんだん食傷気味になる製品、多いものですよね。その辺がこの値段だといかがなものか?気になるところでしょう。
その前に外観から。
ルックスは先に発売されて久しい
オクターバーの色違いですね。ちょっと長いです。Aguilarロゴのiのドット部分にLEDがありましてDOレンズのようなデザインにより個性的意匠を演出しています。
筐体はプレスして折り曲げた鉄板。
ディメーターと同じような作りといえばわかりやすいでしょう。鉄板の恐ろしさは仕事柄知っておりますよ。すなわち重くて頑丈で、殴ると凶器になります(笑)。殴らなくても、足の小指を強かにヒットしないように注意しなければなりません。ただし角の処理はディメーターより安全な感じです。
というわけで大きさと重量はお世辞にもコンパクトとは呼べません。
しかし一番の問題点はコンパクト性ではなく、接続端子が背面にあるということでしょう。後ろと言うべきかな?
Providenceの今は無きDC-401やかつてのTubeWorks製品などと同じような位置です。これは好みが分かれるでしょう。私は好きじゃない位置です。他のエフェクターを繋ぐ場合は使い勝手が悪いかもしれません。ボードへの収まりもうまくいかない場合があるでしょう。なんとなく、このコンプ1つだけ使ってみてくれ、あるいはセンドリターンに繋いでくれ、そういったメッセージを感じますね。シールド1本の人やエフェクター無関心派/不要派からのユーザーを新規開拓しているようなね。でもそうであっても背面端子じゃなくたってイイじゃないかというのが私の考えです。端子なんてものは内部設計上の問題で位置が限定されるとは到底思えないんですね。アメリカのアドバイザーが後ろに挿した方が便利だ!と指導したんでしょうかねぇ。
まぁ気を取り直してコンプひとつで音を出してみましょう。全てのつまみをセンターから前後に回して様子をみます。この時点でさすが!確かにシールド1本からバージョンアップさせる説得力充分な、クリーンでフラットかつ厚みのしっかり残ったトーンが出てきます。ローの露骨さは感じられませんでした。これはイイ予感。
まずローノイズで、オーバードライブしないのが最初の挨拶。
ローノイズはパッシブユーザーにとって、歪まないことはアクティブユーザーにとって、それぞれ条件だと私は思ってます。特に近年はローノイズのほうは珍しくもないのですが、ハイゲインインプットによる歪みは未だに対応不十分な製品が少なくないのです。その点これはアギュラー製ですから最も安心して良い製品と言えるでしょう。だってあの悪名高きOBP-1を売ってるメーカーでしょ?(笑)当然ですよ。自社のオンボードプリアンプからフルテンインプットして問題が生じる製品であるわけがないからです。
言い換えれば(真実かは不明ですが)ヘッドルームは非常に広い製品ということになります。例えばパッシブとアクティブの両対応を理想的に実現するには切替スイッチを設ける方法があたりまえですが、この製品は切替無し。小さく入れても効果たっぷり、大きく入れても余裕で対応、それをスイッチ無しで、となると凄い柔軟性だなと。
その柔軟性の最たる部分はなんといってもスレッショルドです。他社のコンプには有る-10より上と-30より下がありません。非現実的で実用上不要な域を上下とも切り捨てることで、実際に使う範囲を幅広く用意して待ちかまえてます。それにより、アクティブフルテンのような場合は低めのセッティング域でもつまみを神経質に小角度で回さないですみます。アクティブ0やパッシブの場合より大胆に気分良く回してなめらかに変わりゆく音を聴きながら値を的確に探すことが出来るでしょう。スレッショルドの範囲を現実的範囲に限定してある設計は非常に優れたアイデアだと思います。実際に耳で音の変化を聴きながらつまみを回してみますと驚きますよ。こんなにベストポイントを見つけやすい変化をするスレッショルドは私も初めてですからね。
次に目を引くのがスロープという謎のノブ。TLCたるコントロールなのでしょうかよくわかりませんが、表記は2:1~∞ですから一見まるでレシオのようですが、単純にレシオのことなのでしょうか?レシオに∞なんてあったっけ?(汗)このネーミングからはディケイのようにも思えますが、にしても、使う身としてはレシオ同様に強弱として扱うしかないですね。
スレッショルドと同様にここも現実的範囲に限定してあるので、2:1未満など軽く掛けすぎるといったコンプ未熟者が陥りやすい間違いは少ないでしょうね。
試しに∞にしてみても全然ヘンな音にはなりません。不思議です。
そして最も驚くべき点は、リリースタイムのコントロールがないにもかかわらず、リリースがどこだかわからないほど自然だということです。
リリースすなわちコンプレッション後の元音量への復帰の時間加減は自分で調節するべきですが、このコンプはメーカーお膳立てです。コンプが勝手に決めます。この手は意に反することが多いものです。
ところが、スタッカートもテヌートも、E弦を縦振動でドンと轟かせようがG弦を凄まじくプルしようが、どう弾いても伸び過ぎ(これが嫌だからコンプを使わない人は少なくないはず)や急激な戻りも感じられません。一体どうなっているのでしょうか?これこそがTLCたる所以か?これがイデの発現か?(笑)このコンプは今まで経験したことのない動作をしています。
結論:これぐらい良けりゃこんな値段でもしょうがない…のか?
では、使い方毎の印象です。
ベースという楽器の特性によりベーシストが好むことが多いリミッター的な使用法には犠牲が少ない音であることが条件となります。掛かったところと掛からないところの音質の違いに違和感がないほうが良いコンプです。そうではければうるさい所だけをなだめることはできません。例えば5弦ベース。5,4弦の強すぎる音圧をさっと抑え、コンプの掛からぬ3,2,1弦の音圧とのバランスをなだらかに整える、そう言った用途には最適なコンプだと感じました。
ただしスラップで1弦をプルした時はやや独特です。プルのピークだけ潰すことはなくて、プル全体の音量を信じがたい早さで鎮めこじんまりミニチュア化させます。ド派手なプル表現をしたい人には向かないかなと思いました。
反対に、全体にしっかり掛ける使い方は録音用途において求められる使い方ですが、その場合圧縮時の音質が問題となってきます。どんなコンプでもつまみを回してしまえばその分しっかり掛かりますが、不自然な音になる製品が大半ですからね。高いコンプはそこの性能がちがいますね。さすがにこの製品ぐらいになるとその用途には手堅く応えます。アタックも遅らせず、スレッショルドを高く決めて、スロープを相当引き締めても、リリースがないのに凸凹しないこの働きっぷりはなんなのでしょうか。驚くばかりですね。
味わいの面では、アタックの余韻に少し特徴があります(説明難しい)。おかげで音の粒立ちを整えたように錯覚するかもしれません。実際にその効果もあるとは思いますが、演奏技術としてはそこに頼ってはいけません。粒はコンプ無しで揃えましょう。
その他気がついたこと。
ACアダプターは普通の9Vモノで大丈夫です。ハムありません。
電池交換は簡単にできるよう工夫されています。
…とまぁこんなんでいいかなぁ?(笑)