越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

ロベルト・コッシーのサッカー部長日記(4)

2015年04月23日 | サッカー部長日記

4月18日

(写真)背中をゴールに向けながら三苫のアクロバティックなひと蹴り (c)「明スポ」

きょうも、相変わらず春風がつよい。茨城県竜ヶ崎市の陸上競技場「たつのこフィールド」。フィールドの右サイドから左サイドへ強風が吹く。追い風と向かい風では、ボールの飛び方が違う。練習中に、選手が追い風を利して、サイドライン沿いからキーパーのほうへ蹴ると、ボールがどんどん伸びていく。キーパーは大変だ。 練習中、ゴールの背後に飛んでいくボールを拾うために、誰に頼まれたわけでもないのに、試合に出ていない選手たちが全員で球拾いをしていた。彼らだって試合に出たいだろうに、いまは縁の下の力持ち。考えてみれば、部員70人のうち、試合に出られるのは、交替メンバーをいれて、たったの14人。ほとんどが縁の下の力持ちなのだ。

(写真 試合前の練習風景)

第4節、流通経済大学戦。流経大はこれまで1勝2分けで、勝ち点「5」。負けないしぶといチーム。DFに田上大地君、MFに古波津辰希君、FWに中村慶太君と、全日本選抜クラスのタレントが揃う。

一方、明治は、膝の怪我で欠場の山越康平(法4)以外は、ベストメンバー。キーパーは八谷惇希(商3)。DFは右から、室屋成(政経3)、小出悠太(政経3)、工藤将太郎(商4)、高橋諒(文4)。MFは、道渕諒平(農3)、差波優人(商3)、柴戸海(政経2)、和泉竜司(政経4)。FWは木戸皓貴(文2)と藤本佳希(文4)のドイツ文学コンビ。  

きょうのテーマは、「球際に厳しく」。学生たちのテーマは「目の前の相手に負けない」。  

前半、明治は向かい風の側。必然的に、ディフェンスに主軸がおかれる。たとえ攻められても決定的なチャンスを作られなければ良い、というスタンスで戦っている。流経大は10番古波津、9番中村がさかんにシュート放つも、ボールが浮いて危険な感じではない。明治もチャンスは少ないが、24分に数名が絡んで、すばやいパスまわし。木戸がゴール右からシュートを放つも、惜しくも左ポストを外れる。  

ハーフタイムには、栗田監督から「風下で、うまくゲームをコントロールできている。いいサッカーをしている」と、激励の言葉。三浦コーチは「後半はセットプレーがカギになる」という指摘。こちらにセットプレーがまわってきたら、きちんと点を取れ、向こうにセットプレーがまわってしまったら、しっかり守れ、というメッセージ。  

ふたたび、全員で「行くぞ!」と声を出し合って、後半のピッチへ。後半は風上だから有利かな、と思っていると、1分もたたないうちに、あれよあれよ、という間にボールをゴールまでドリブルやパスで運ばれ、失点を喫する。あまりにあっけない点の取られ方に、誰もが唖然。  

その後、藤本のシュート、差波のコーナーキックなどがあるが決まらない。ベンチは、後半24分に、相手に抑えられているMF道渕に代えて、レフティの河面旺成(かわづら・あきなり)(政経3)を投入。25分にゴール表面30メートルあたりで、フリーキックのチャンスを得る。河面と差波がボール寄っていくが、結局、差波が蹴ったボールはゴールをはずれる。28分には、DF工藤の代わりに早坂龍之介(法3)を投入。三浦コーチが栗田監督に、「早坂なら、ボールを運べます」と進言。それでも、0-1の逆境はなかなかくつがえせない。

38分に、監督は満を持して最後のカードを切る。木戸(熊本出身)に代えて、同じく九州出身ながら、明るいラテン的な雰囲気の三苫元太(みとま・げんた)(政経4)を投入。直後に、2度左からコーナーキックのチャンス。ゴール前に団子状態になって押し合いしている選手に、監督から「つまらない反則するな!」という檄が飛ぶ。流経大も必死のクリア。センターサークルあたりのMF早坂から、FW三苫へ浮き球。三苫はゴールに向かって、そのボールを追い、流経大のディフェンスに引っ張られながら(監督は「反則だ!」の声をレフリーに浴びせる)必死にくらいつく。ベンチから見ていると、一瞬、三苫、ディフェンス、キーパーが三つどもえになった。

ボールはキーパーのわきをすり抜けてゴールへ吸い込まれる。そのときは、三苫がヘッディングしたのかと思ったが、『明大スポーツ』の写真を見ると、ディフェンスに体を引っ張られても、必死に右足をあげて、つま先で蹴っていたのだった。

あとで「今年のゴール、ベスト3」を挙げるとしたら、これは絶対にその中に入るはず。負け試合を救ってくれた神がかり的な、気持ちの入ったゴール。時間は、ぎりぎりの後半43分。河面と早坂と三苫、交替選手がしっかり活躍してくれた。ベンチの采配の妙。

(写真)試合を終えて、栗田監督(奥)と三浦コーチ(手前)が選手たちを迎える。19番が三苫へ絶妙なパスを送った早坂

死闘を終えて選手はくたくた。1週間で3試合の過酷な日程を2勝1分けで、よく乗り切った。勝ち点10で首位をキープ。慶応大学が2勝2分け勝ち点8で2位、順天堂大学が2勝1敗1分け勝ち点7の3位。まだまだ先はながい。

 明大サッカー部の選手名簿を見ると、北は北海道から南は鹿児島まで、いろいろな出身地の選手がいる。井澤ゼネラルマネージャーの献身的なスカウティングのおかげである。選手たちが練習を繰り広げる八幡山のグラウンドは、さながら「カリブ海」のようだ。多様な人間たちが接して、ユニークな混淆文化を作りあげる。

「カリブ海は(中略)諸々の出会いとそこから生まれる諸関係の海なのです」*(1)

差波や室屋は、青森の高校時代に冬の雪の上でボールを蹴っていたという。三苫はあったかい福岡で、きっとのびのびとボールを蹴っていたはず。どちらも明治の「カリブ海」で出会って、互いに化学反応をおこす。

きょうは、三苫の好きなサルサでも聞いて、モヒートで乾杯したい気分である。

註(1) エドゥアール・グリッサン(小野正嗣訳)『多様なるものの詩学序説』以文社、2007年、 10-11ページ。

明大スポーツの記事

(写真 初のヒーローインタビューを受ける「頼れる男」三苫元太)

 

 


書評 今福龍太『ジェロニモたちの方舟』

2015年04月23日 | 書評

反逆者が精神を解放する 今福龍太『ジェロニモたちの方舟』

 越川芳明

砂漠の小さな茂みが人目につかないところで地下茎を伸ばしているように、世界には「抵抗思想」の見えない鉱脈が広がっている。著者は、世界の大海にうかぶ数々の小さな孤島をそうした鉱脈の一部(まさに、「氷山の一角」)と見たて、それらが海でつながっていると発想する。本書は、いわば抵抗思想の考古学的発掘作業だ。  

著者は一九世紀に米国が関わった二つの歴史的事件に着目する。「インディアン強制移住法」(一八三〇年)と「米西戦争」(一八九八年)だ。前者はジャクソン大統領ら民族浄化主義者たちが先住民という「内なる他者」を征服した後、「外なる他者」への侵略行為に踏み出した。米国の「欲望」の起源をそれらの事件が規定することになったという。  

「国家の天命」として、領土を拡張しようと米国のゆがんだ深層心理が繰り出す「暴力」の触手はハワイ、キューバ、中南米へと伸び、フィリピンやベトナムで殺戮(さつりく)を引き起こす。そして、今世紀のイラク戦争へとつづく。著者によれば、「インディアン戦争」は、まだ終わっていない。  だが、圧政に立ち向かうジェロニモたちも「群島」のようにあちこちに存在する。書名のジェロニモとは、米国政府軍に抵抗した先住民アパッチ族の勇敢な戦士。本書の試みは、そうした反逆者たちの亡霊を召喚し、それによって非人間的な経済的効率主義や軍事的な欲望(大陸的な縄張り意識)に対抗する、多様性の「海」や「群島」の思想を鼓舞することだ。  

まさにキューバの思想家ホセ・マルティの言葉、「思想は他者に奉仕するためにある」の実践だ。  

米国の諸制度に反対し、正しい人間のいる場所は「牢獄」であると言いきった19世紀の思想家H・D・ソローをはじめ、太平洋の思想家ハウオファ、フィリピンの詩人フランシアらが召喚される。これらの反逆者たちは、本書によって新たな生命を獲得し、私たちの硬直した精神を解放してくれる。

(『共同通信』2015.3)