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二つのコンゴをつなぐ橋(3)〜バ・コンゴ問題と内陸国化

2018-11-20 08:30:00 | アフリカ情勢
二つのコンゴを隔てる大河、コンゴ川。世界で最も近い二つの首都、ブラザヴィル(コンゴ共和国)とキンキャサ(コンゴ民主共和国)を分かつ。もともと同じ地域、同じく部族、同じ言語を話し、同じものを食べていた地域。しかしこの川が19世紀以降、両国の歴史を決定的に隔て、人々の往来を阻んできた。そんなことから人々は対岸を歌に歌い、思いを馳せてきた。

そんな両岸を結ぶコンゴ橋建設の話が現実を帯びてきている。キンシャサ・ブラザビル橋の建設プロジェクトだ。しかしその橋、決して夢の橋とばかりは言えない現実がある。という話を前回まで続けてきた。

二つのコンゴをつなぐ橋
第一話 ♪エザイ・ンボカ・モコ(もともと一つの街)
第二話 つながりたいのは一つのコンゴ


一見、夢のプロジェクトであるキンシャサ・ブラザヴィル橋。前回お話しした事情以上に、実はさらに複雑な問題がある。

コンゴ民主共和国には歴史的な最重要プロジェクトがもう一つある。ギニア湾に面したバナナ港の建設である。この構想はモブツ独裁下のザイール時代から追求されてきた。日本が支援して1983年に建設されたマタディ橋も、未開通ながら鉄道併用橋として設計されていた。これはもともとはバナナ港建設が前提であったからだ。当時設立された運営・維持管理を担う組織をOEBKという。Bはバナナ、Kはキンシャサを指す。奇しくも新しいコンゴ橋ができたら、ブラザヴィル(B)とキンシャサ(K)。OEBKとなるのだろうか?

(マタディ橋とキンシャサ・バナナインフラ公団(OEBK))



さて、もしブラザヴィルとキンシャサが橋で繋がれたらどうなるであろうか?コンゴ民主共和国向けのほとんどの貨物は、対岸コンゴ共和国のポワントノワールに多くを依存することとなるだろう。そうなると、コンゴとしてバナナ港を整備し、カタンガの資源を自国でコントロールするという夢は潰えることになる。そればかりかあらゆる物資の補給を対岸のコンゴに戦略的に握られる可能性がある。つまり、擬似「内陸国」化するリスクがあるのだ。キンシャサ側の政策に照らせば、実はこの橋、あまりいいことはない。


さらに。現在のコンゴ民主共和国は、前出コッパーベルトを要するカタンガ地方と、コンゴ川河口のバ・コンゴ地方の歳入で国が持っているといって過言ではない。バ・コンゴ州には巨大水力発電所のインガダムと、この国の補給を支えるマタディ港がある。

このバ・コンゴ地方、政治的にかなり特殊で、難しい地方である。コンゴ川の河口(Bas Congo)を意味し、その昔、この河川がザイール川と呼ばれていた頃にはバ・ザイール州と呼んだ。現在はKongo central、こんな西に位置していていてコンゴ「中央」州である。



歴史的にはかつてコンゴ王国を誇り、現代コンゴにおいてもキコンゴ語を話し、コンゴ部族が支配する。このコンゴ中華思想の中心部がバ・コンゴであり、コンゴ「中央州」の所以である。コンゴ独立当時、初代大統領のジョセフ・カサブブはバ・コンゴ出身。ゆえに州の独立性を尊重した連邦制国家の建設を主張した。他方、首相となったのが、かの有名なパトリス・ルムンバ。ひとつの「統一コンゴ」を主張し、大統領と対立した。

パトリス・ルムンバ~国家英雄を讃える日(2)、コンゴ民主共和国


バ・コンゴ民族にとってみれば、自分たちは港と発電でコンゴを食わせてやっているのに、なぜ低い地位に置かれているのか。インガダムがメガ規模で発電しているのに、なぜ自分たちには電気すら分け前がないのか。王国の自尊心と相まって、不満が募る。

夢のインガ計画、実現に動くか?〜アフリカのエネルギー事情(2)

コンゴ民主共和国では、歴史上、リンガラ語圏とスワヒリ語圏の対立関係がある。前出独裁者のモブツ大統領はリンガラ語圏の地盤、赤道州の出身。ザイールの時代には、スワヒリ語圏を弾圧した。そして現在のカビラ大統領は東部スワヒリ語圏を支持基盤としている。首都キンシャサは「針のむしろ」でもある。

カビラ政権が誕生する2006年、バ・コンゴ州は最も反カビラ色が強かった地域だ。政権にとって最も御しにくい地域。当時、一部識者は「インフラフェチでも知られる大統領にとって、最も効果的な【地盤沈下策】は、キンシャサ・ブラザビル橋を整備し、マタディ港の経済的地位を低下させること、そして同地域の地位を後退させること」と述べていた。マタディ港の雇用や経済を奪うのみならず、バナナ港開発の夢も、資源コントロールの国策も潰えることとなる。そして事実上の「内陸国化」。西部出身の急進派がカビラ大統領を「売国奴」と評する背景には、東部の紛争に関する問題のみならず、この問題も無関係でない。


バ・コンゴでは、コンゴ(Kongo)選民思想のようなものがある。それが政治、宗教と絡み合って、独自の思想を持つセクト集団となったものにBDK(ブンドゥー・ディア・コンゴ)がある。かつてこちらの記事でも特集したが↓
BDK〜コンゴにはびこるカルト集団
しばしば同地方の治安を劇的に悪化させるきっかけとなってきた。もしキンシャサ・ブラザビル橋完工後、BDKが、対岸、コンゴ共和国側の武装反体制勢力と共同してロジスティック輸送路を止めれば、両国への影響はあまりに甚大である。


このように、コンゴ民主共和国西部において、キンシャサ・ブラザヴィル橋の建設は極めてナーバスな問題だ。インフラは大きな経済チャンスや人々の交流を生む。同時に社会をあまりに大きく変え、国家関係や平和をも脅かす効果を生むリスクもある。橋の建設は両岸の住民の理解と支持のもと、両国の代表者が話し合って決めていく必要がある。そしてファイナンスなどで関わる外部者は、こういった構造的な問題を理解した上で、プロジェクトに参加していく責任を自覚すべきだろう。

現場には夢ばかりでは終わらないリアリティがある。

(おわり)


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