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バグボ元大統領釈放!〜コートジボワール危機と国際刑事裁判所(2)・政局タイムマシーン

2019-01-17 15:40:00 | アフリカ情勢
十余年にわたるコートジボワール危機の最終段階で迎えたいわゆる「選挙後危機」(2010年〜2011年)。ここで生じた「戦争に対する罪」、「人道に対する罪」の咎で国際刑事裁判所(CPI)で公判を受ける身にあったローラン・バグボ元大統領と、シャルル・ブレ・グデ青年大臣が、15日、罪状・証拠不十分により、釈放される決定がなされた。ここまでは前回のブログ記事でお話しした。

バグボ元大統領釈放!〜コートジボワール危機と国際刑事裁判所(1)

翌16日、検事側は上告を決定。したがって本件は一件落着の結審、とはならなかった。そして継続される公判において、両被告を拘束する必要がないかの審議が行われた。また15日の「即時(仮)釈放」の決定を受けた、手続きについても少し時間を要しそうな模様。「即時」とは言え、何重もの手続きが拘置所のドアを重くしている。


一方、国際刑事裁判所の決定に大きなリアクションを示すアビジャン。16日も支持者が多いアビジャンのヨプゴン地区をはじめ、元大統領の釈放に湧いた。メディアが報じる当地のトーンは、総じてバグボ釈放に好意的である。他方、現政権支持者の多いアボボコミューンでは、16日の検事側上告を待たずに、「犯罪者は釈放されるべきではない」とのデモが展開された。

(バグボ支持側二紙の一面。釈放を喜びを持って報じる)


(中央紙'Fraternité Matin'紙、与党寄り'Le Patriot'紙の紙面。後者は「3000人の犠牲者」に対する審判と釈放裁定に否定的)


特にシディ・ディエモコ・トゥーレ政府報道担当大臣は声明を発表し、「(釈放が)社会の緊張を緩和し、国民和解と社会的統合を促進する好機となれば。」と述べた。しかし事態はそんなに単純ではない。
(※アップ後、赤字部分を修正しました。)


世論の関心は、「釈放後、バグボ元大統領はどこに身を置くのか?」という点に移っている。CPI検事側は、継続審の間も、何らかの形で身柄を拘束すべきだとの意見を提示したものの、これは最終的に棄却されるものとみられている。検事側の主張の一つとして、「公判上の要が生じた際に即時に出頭できること」を挙げた。この文脈の中で、同氏が当面、近隣国に滞在するのではないか、との示唆もなされている。具体的にはベルギーの名前が挙がっている。

しかしこの種の議論は、これはあまりに政治的な匂いをうかがわせる。いまバグボ元大統領がコートジボワールに帰国すれば、2020年の大統領選挙前にすでに加熱する政争に、火の粉を注ぐようなものだ、との配慮が見え隠れする。

これは2018年6月、コンゴ民主共和国のジャン・ピエール・ベンバが国際刑事裁判所から釈放されたことと対比される。同氏の釈放も12月の大統領選挙を控えた極めて政治的にナーバスな時期。しかし司法上の手続きにはそれを計算する余地はなかった。最終的にベンバ氏は、この主審議にかかる証言買収疑惑などの科で、仮釈放の上、引き続き公判を受けることとなる。そして大統領候補資格を失うこととなったのだった。


さて、コートジボワールのケース。バグボ元大統領の帰国にはまだハードルがある。バグボ氏の罪状は選挙後危機における蛮行について問われたもの。司法管轄権の話は後日述べるが、いずれにせよ、本件についてはCPIで裁かれてきた。他方、ひとたびコートジボワールに戻れば、同国司法当局が管轄すべき罪状が残存する。特に大きなものとして、選挙後危機の真っ只中、2011年初頭に犯された西アフリカ諸国中央銀行(BECEAO)の接収および金品の強奪の罪が挙げられる。同氏は帰国とともに、今度は母国の司法に訴追される可能性がある。政府の同氏帰国に対する「歓迎の意」、ただ民主国家であれば司法手続きは別である。大統領は特赦の措置を取るのだろうか。

もし再び母国でとらわれの身となった場合、少なからずのコートジボワールはこれを受け入れないだろう。ワタラ大統領に直接批判が向くことは容易に想像がつく。他方、特赦のような措置を講じた場合、今度は政局がさらに加熱することになろう。


コートジボワールの政局は、2020年大統領選挙に向けて、いよいよ火の勢いを増しつつある。与党連合PHDPの主要2党、すなわちワタラ大統領派のRDRと、ベディエ元大統領率いる伝統的政党PDCIは、完全に決裂。「選挙後危機」を軍事的に収束させ、その後も現政権の治安当局や、除隊兵士に大きな影響力を保持してきたソロ国民議会議長は18日、ワタラ大統領と会談し、彼もまたRHDPからの決別姿勢を明確にした。そしてそこに、旧政権のバグボ前大統領帰還。二派に分かれ弱体していた最大野党が大きく息を吹き返す。

ワタラ、ベディエ、バグボ+ソロ。「3+1」の構図は、そのままコートジボワール危機下の状況に同じ、ということになる。つまり、パワーポリティクス的には、政局はコートジボワール危機の状況下に逆戻りしていく、と見ることもできる。まるで10有余年にわたる和平プロセス、危機後の「国民和解」や「社会統合」など、何もなかったかのごとく・・・・。

コートジボワールで過去のような危機が繰り返される、とは思わない。しかし政局構造がこのようなタイムマシーンに乗って逆戻りしていることは、コートジボワールの政局理解の上で非常に大きなポイントとなる、ンボテは思う。


今回のバグボ釈放。その意味するところは、コートジボワールにとってあまりに大きい。しかしそのインパクトはこの国にとどまらない。この国でも繰り返し話題としてきた、アフリカと国際司法裁判所の対立関係、その観点でも大きな疑念を投げかけるものとなったことは間違えない。この点、次回続けてお話ししたい。


(つづく)


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