甘酸っぱい日々

面白くても何ともならない世界で 何とかしようとする人達のために

神保町花月『紫陽花と、うん!いたこっこ。』

2012-06-21 23:23:25 | 神保町花月
なんて言ったらいいのかなぁ。
この不思議な気持ちを、なんて言ったらいいのかなぁ。
前回のライス主演のエクセレントとは、またちょっと違う感動でした。
エクセレントの時は、クライマックスにかけて一気に盛り上がって、一気に感動する感じだったけれど、
今回は、物語的にも、そんなに大きな盛り上がりはなくて。
ハッピーエンドとも言い切れない、ちょっとした切なさが残る。
それでも、じわじわと温かい感動が広がっていく感じがして。
胸がいっぱいになって、言葉が出て来なかった。
ただただ、幸せだなぁなんて気持ちを抱きしめて、帰路につきました。

ちゃんと数えていないんですが、私は多分なんだかんだで、神保町花月をもう30作品くらい見に行っていると思います。
でもその中で、OPで泣いてしまったのは今回が初めてでした。
今回のOP、本当に大好きでした。
曲も、照明も、傘を渡していく演出も、演者さんの表情も、全部がとても魅力的でした。
さらに、最後に全員登場して、パッと傘を開いて、タイトルが出るところ。
なんだか、演劇が総合芸術と言われる所以がわかった気がする。
こんなに全ての要素が一体となって、ぱーんと一緒に提示される感覚って、他では味わえないのかもしれない。
まだOPだけなのに、もうこの時点で、絶対素敵なお話なんだろうなって思って、
とても満たされたような気持ちになって、涙があふれてきてしまいました。
この気持ちを忘れたくないから書きとめてるんだけど、書いていてもこの気持ちのほんの一部も表現できていない気がしてしまうなぁ。

いつぶりだろうって思うくらいに久しぶりな、ライス主演の田所さんメイン。
お話的に、この人がいないと話が回らないから、ほとんど出ずっぱり&尋常じゃない台詞量。
今回は本当に、田所さんのいい所が全部出ていたような気がします。
ころころと喜怒哀楽うつりかわる豊かな表情。
わざとらしくならないのに、細かいところまでこだわっている所作。
そして一番思ったのが、これは宇宙でクロールの半年を見ていた時にも思ったのですが、
この人の素敵なところって、気取らない、気負わないところなんだろうなということでした。
紫陽花は何があっても普通で、あくまで自然体。
幼い頃のことがあったからって、ことさらに悲しんでいるわけでもないし、何かを主張しようとしているわけでもない。
だからどうしようとか、世界を変えようとか、そんな感じは一切ない。
いたこをやっているのも、本人がやりたいからというより、流れにまかせていたらこうなってた、という感じだし。
でも今回、初めはめんどくさいことに巻き込まれたと思っていたけれど、
ユノや古田や中島の話を聞いているうちに、次第に彼らのために尽力し、救っていくことになる。
そんな、肩の力が抜けた主人公像が、まぶしい笑顔の花咲く田所さんにぴったりだと思ったりしました。
だからこそ好きなシーンは、最後に中島に語りかけるところ。
言葉を見つけることは出来なかったけれど、それでも中島に生きてほしいと訴えるところ。
「話すのが苦手な女の子だって、進路が決まらない専門学生だって、
 同僚とうまが合わない社会人だって、知らない国の外国人だって、
 みんな、中島さんに、生きてほしいと思ってるんですよ。」
初日の時には、ここを明るく笑顔で、ライトに言っていたと思うのですが、
2回目に見た時には、とても気持ちが入っていて、語気が強くなっていたと感じました。
どちらもいいんですが、個人的には後者の方が好きでした。
それまで冷静だった紫陽花だからこそ、ここが一番伝えたいところなんだなって思ったから。
久しぶりにメインで動く田所さんを見れて、それがこんなに素敵で、とっても嬉しいです。

関町さんはもう、何度も言っているけど、本当にすごい。すごいしか言えない。
こんなに平然と一人二役をやり切ってしまうなんて、一体この人はどうなってるの。
中島としてと、ユノとして。二人の口調、仕草、立ち居振舞いが全部違う。完璧に別人でした。
ユノになっている時なんて、本当に中の人は女の子だっていうことが感じられて。
なんか、本当に憑依してるんじゃないかと思ってしまうほどでした(笑)
感情の起伏が激しいのに、それを全部自然に表現してるのがすごい。
「私のフリしてさ、古田と話さないでよ…」と切なく呟くところ、
「なんでじゅんちゃんと付き合ってるの!?」と思わず声を荒げるところ、
「ちがうちがう、そうじゃなくて」ともどかしく思っているところ、
そして最後の結婚式で、指輪を受け取って、「なによこのサプライズ…」と涙ぐむところ、
「あなたと出会ったことをね」と、切なくも幸せそうなところ。
ちょっと気が強くて、でもかわいらしい女の子を完璧に演じ切っていました。
さらに、中島としての関町さんも大好きでした。
このお話って、特にサイコチーム(笑)は飛び抜けたキャラの人が多くって、強烈だったんですが、
それでもお話には馴染んでいて一体感があって。
ところが関町さんは、中島として初めに登場したときから明らかに浮いてるんですよね。
一人だけ異質な人が入り込んだ、という感じがくっきりとわかって。
さっき散々書いたOPでも、みんなが一本の傘を次々と渡していく中、最後に登場したこの人は、サエコが置いていった傘を拾う。
誰からも渡されない。誰とも繋がりがない。
そんな中で傘を差して、空を見上げたときの表情があまりにも魅力的で、
言葉がなくても、この人にはきっと何かあるんだろうなって思わされる力があって、もうこの時点で中島という人に夢中でした。
そして結婚式のところでも、ユノから中島に戻った時、
着ているのはウエディングドレスなのに(笑)、中身は本当に中島さん。
生きていてほしいと一生懸命に伝える紫陽花に、「そんなの酷ですよ」と言いきってしまう。
中島は、結局笑顔を見せなかった。
だからこそ最後の最後、顔が見えない状況で、明るく言った生きる理由がとっても輝いて聞こえました。内容は最低ですが(笑)
ユノとは真逆で、ずっと苦しそうな表情で、自分を責め続ける影のある役。
こういう関町さんも久しぶりで、本当に大好きでした。見ごたえがありました。

ユノ、古田、じゅんちゃんチームの3人も、それぞれが主役級の輝きでした。
好井さんは本当にすごいですね。
自分の存在感をしっかり出しているのに、当たり前だけど主役の邪魔はしてない。完璧なサイド。
今回もすごくよかったです。
あえて感情の起伏を出さない感じなんだけど、だからこそその淡々とした口調で語られた最後の、
「じゅんへの気持ち、いっぱいこめた指輪あげるわ」がとても素敵でした。
じゅんちゃんは、最初はとっても嫌な女に見えるけれど、本当はとても健気で一生懸命。
安田がいないと言われた時の「どこにいますか。取りに行きます」なんて、真っすぐすぎて怖いくらい。
でもそれも全て、ユノと古田のことを思っているからだった。
そんなじゅんちゃんに対するユノからの、「誰かのマネなんてする必要ないよ、十分魅力あるんだから」は
ぴったりな言葉だと思いました。
そしてユノ。祖父江さん。
関町さんのところでも書いたんですが、喜怒哀楽激しくて、でもとっても愛らしい女の子でした。
特に印象に残ったのが、古田と再会できて、でも自分がユノだと言ってはいけなくて、
だけど抑えきれなくて、「私が本物のユノなの!古田!!」と切なく叫ぶところでした。
もー切ない。糸が複雑に絡み合ってほどけなくなっていくような感じ。
オコチャさんは毎回本当によくこんなにこじれるお話が書けますよね(笑)
あと、初日は祖父江さんの衣装が、中島と同じ衣装だったのですが、
でも2日目からは、それがユノのままの衣装になったようですね。
ユノのままの姿で登場するのは、最初はちょっと理解しづらいかもしれないですが、
一回わかってしまえば、もう外見をそちらに寄せる必要はないですもんね。
初日に見たときは、最後に紫陽花がユノとお酒を飲んでいるところをさらっと流して見てしまいました。
でも衣装が違ってからは、最後にユノが紫陽花に惹かれてるんだなぁっていうのがはっきりとわかって。
紫陽花の「かわいいなぁと思って」とか、ユノの「ありがとね、紫陽花」とかは、
好きとか愛してるとか一言も言っていないけど、
そして多分二人ともそこまで確実な気持ちはないだろうけど、でも、とっても素敵なラブシーンに見えました。
実は、ユノが一番切ないよね。
古田と別れて、そしてちょっと気になる存在になった紫陽花とも、もう二度と会えないんだから。
それでも素敵な笑顔で、幸せだったのかなぁという印象の方が勝りました。

サイコチーム(笑)は素晴らしいサイコっぷり。
年末年始公演だったら、どうしても真ん中に来て、「普通の青年」役をやることが多い竹内さんが、
今回はちょっとおかしなサイドキャラ。
オコチャさんのYNNで、こっちの方が難しいと言ってましたが、そんなの感じさせないくらいのぶっとびっぷり。
最後は「なんでそんな終わり方なのー!!」と思ってしまいましたが、
それまで詐欺まがいのことをやってたりした分の、勧善懲悪的なところもあったのかなぁと。
フェーブルさんとキャプチャさんの、感情が見えなくて何考えてるかわからないところもよかった。
そしてサエコ!もう素晴らしかった!
「その人呼んで?いいから呼んで!」と笑顔で言い放つところが、最高に素敵だった!(笑)
このちょっとおかしなサイコチームがあったからこそ、全体が湿っぽくなりすぎなかったのかな。

「ねぇねぇ、なんで、咲いてるの?」
冒頭から何度も繰り返される、このカタツムリからアジサイの花への問いは、徐々に徐々に明らかになっていく。
雨が降っているときには、質問にこたえられない。そここそが一生懸命に咲く時だから。
中島に「いたこぶっているのに、言いたいこと何も言えなかった…」と悔やむ紫陽花は、頑張って咲いているアジサイの花に言う。
「一生懸命咲いたって、深い悲しみに、想いは届かないよ」
まるで、今まで自分がしてきたことを自嘲するような言葉。
それでも「うるせー、ばか」と咲き続けたアジサイの花の姿が、これからの紫陽花の姿を現しているような気がしました。


ではここから笑いどころメモ(笑)

・紫陽花「え~まだじゃぁ~ん!どう見てもまだ憑依させてないじゃ~ん!わかるじゃぁ~ん!!」

・古田が紫陽花に「あの…指輪は?」と聞いて、紫陽花がとぼけるシーン。
 紫陽花「え?ゆ、ユビワワ……マラソンの選手か何かですか?」
  古田「いや、アフリカとかのマラソン選手じゃないです!」
 紫陽花「アナベベみたいな…」
  古田「いや、ジャングルの王者タ―ちゃんに出てくるアナベベじゃないですから!」
 (もうこの時のことしか思い出さなかったよね・笑)
  古田「違います!指輪、指輪のこと!」
 紫陽花「指輪のこと…?あの、古い都って書いて?」
  古田「いや違います!指輪を中心に栄えてる都じゃないですから!指輪の案件です!!」
 紫陽花「あんけん……?暗い剣って書いて暗剣??」
  古田「だから違います!」
 もう、好井さんがぜーんぶ拾って広げてくれるから、田所さんが楽しそうで楽しそうで(笑)

・「祭りじゃー!!」と出て行った安田が、歌いながら戻ってくるシーン
 安田「シャカリキカ~リキ~♪走って~るよ~♪」
 古田「いや、Whiteberryの散歩道歌わなくていいんですよ!」
 紫陽花「よくわかったな…!(笑)」
 本当に好井さん、このワンフレーズだけでよくわかりましたよね!!(笑)
  ↓ 
 そしてエンディングで
 ジェン「好井が、謝りたいことがあるんだって」
 好井「さっき、Whiteberryの散歩道って言いましたが、『桜並木道』でした。すみませんでした」
 という謝罪(笑)
 いや、それにしてもすごいよ。
 私も原曲聞いて思い出しましたが、すぐに出てこないって(笑)
 好井「残りの公演で、なんとか正解率を上げたいです」
 そんなゲームをする場ではありません(笑)

・紫陽花「飲みましょう飲みましょう!アサヒでいいですか?アサヒしかないですけど!」

・ウエディングドレスを着たユノの憑依が終わり、中島に戻った瞬間。
 中島「な、なんじゃこりゃー!!」
紫陽花「もはや、中島さんでもないですよ。松田優作が憑依してるんですか?」(笑)

・最後の中島が生きる理由。
 「わたくし、おっぱいパブにハマってしまいました!」
 「わたくし、のぞき部屋にハマってしまいました!」
 まさかここが日替わりとはね(笑)


YNN宮城2でオコチャさんが語っていらっしゃったのですが、元々はライス主演にするつもりじゃなかったそう。
ライスも含め、今回はみんな頼れて、出来ることは分かっている人達だから、
本がもし悪くても、演者の力に甘えることが出来てしまうからと。
そして田所さんも、「他の脚本家さんだったらライスに当てないようないい役を、オコチャさんにもらった」
という感じでおっしゃっていて。
私はその辺りのこと、よくわからないんですが、でも一つだけ言えるのは、今回はライスじゃなきゃダメだったと思うってことです。
なんでって言われたら、うまく言えないんですが、言葉を見つけられないんですが……。
でも、紫陽花があんなに魅力的な主人公で、
中島の立ち居振る舞いだけであんなに惹きつけられて、
ウエディングのシーンが、あんなに息ぴったりで、いいシーンになるなんて、
やっぱり、ライスじゃなきゃできないと思うんだ。
2人は、難しい理屈を飛び越えて、ストレートに心に響いてくる、訴えかけてくる。
だから、惹かれるのかもしれない。
どのコンビだって、「そのコンビだからこそ」を持っているとは思うんだけど、
それをこんなに感じさせてくれるのは、やっぱりライスしかいないんだ。
ライスじゃなきゃダメなんだ。

雨が多い時期はどうしても、うつむいてあるいてしまいがちだけど、
そこから少しだけ視線を上げてみると、健気に美しく咲き続けているアジサイがある。
梅雨が少し好きになれる、素敵なお話でした。


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