甘酸っぱい日々

面白くても何ともならない世界で 何とかしようとする人達のために

神保町花月『エクセレント!!』

2012-05-19 01:30:34 | 神保町花月
スグルが好きです。
久しぶりに、一切笑いのパートを担わない、一切表情を崩してはいけない役。
関町さんのロボットみたいな、全く感情を見せない演技にぞくぞくしました。
特に好きだったのは、マダラ(というかもはやあれは大さん)に何度も、「ペンギン君よぉ!!」と呼びかけられ、
普段のライブだったら「ちょっと、ペンギンじゃないですよ!」とかやんや言ってツッコむであろうところを、
一切表情を変えずに、「スグルね」と淡々と言い放ったところでした。しびれた……。
そんな風に、心を閉ざしてしまったスグルが、セイヤの命日にはお兄ちゃんとの想い出をいきいきと話し出す。素敵な笑顔で。
そして最後、3年間押し込めて閉じ込めてきた感情を爆発させるかのようにぼろぼろに泣く。
今までと全く対照的で、だからこそ際立つんだ。
あんな関町さん、初めて見た。
あんなに切なくて、苦しくて、でも温かくて、それでも前に進む。あんな関町さん、初めて見た。
何度も何度も「兄貴はロスに行っている」と言い張っていたのに、最後の最後に「死んだ兄貴の形見に触るな」と言ったところも、
とても切ないけれど、でも、ふっと力が抜けたような安心感が来て、大好きなシーンです。
最後の指示だしも本当にいいシーンで。
こちらには背中しか見えていないけど、もうわかるんだ、それだけで。
絶対、絶対にいい表情してるんだろうなっていうのが。
絶望の淵から這い上がって、最後にはあんなに素敵な笑顔を見せてくれたスグルが大好きです。

もう一人のスグルが好きです。
やしろさんの考えることが常人の斜め上すぎて、もう、本当にびっくりしました。
今回の2つのエンディング。幸運にもどちらも見ることができました。
どちらも本当に素敵だったのですが、個人的にはどちらかというと関町verのエンディングが好き。
最初に見たのがそちらだったからっていうのもあると思うのですが、
スグルの本来の姿を表している田所さんが、いい相棒としてサポートしてあげている、っていう方が個人的にはしっくりきたので。
もちろんこれは人それぞれ好みがあると思うのですが、とりあえずここでは、関町verエンディングの田所さん、ということで書いていきます。
彼はいつも、スグルの核心に迫るようなことばかり言う。
どう思っているのかわかっているのに、それをあえて聞くいじわるなところも。
本当はどうしたいか決まっているようなものなのに、部屋から出られない、そんなスグルを押し出すような感じで。
一つひとつの言葉が、突き刺さるように痛くて、でもそれを受け止めないと前へは進めない。
「夏の暑い日だけじゃないだろ!」
「亀次郎はなぁ、勇気を出したんだよ!」
「お前だってわかってるだろ、これ以上逃げてたら本当に戻れなくなるぞ!」
二人でぴったり息の合った、「ただいま」も忘れられない。
わざわざ書くのも野暮ったいですが、家に帰ってきたただいまだけではなく、本当の自分にただいまってことなんだよね。
そして最後のお別れ。
なんだか、主人公が成長して、今まで一緒に行動を共にしていた相棒と離れるというのは、
そういう理論立てて考えるより先に、瞬間的に、「籠の城」での伝達との別れのシーンを思い出しました。すごくだぶった。
照明がゆっくりゆっくり消えていく感じも、まさにそんな感じがしたんだよね。
あと、「愛の賛歌」で素と黒子が別れるシーンも。
あぁ、そうだった。そういえば、あの時の最後の言葉も、「ありがとう」だったんだ。
そう考えると、今回のエクセレントは、今までのやしろさんが関わった作品のエッセンスがいっぱいつまっていたのかな。
温かくスグルを見守る、もう一人のスグルが大好きです。

親方とおかみさんの夫婦が好きです。
スグルを温かく見守り、つらさをわかってあげているからこそ何も言わないという優しさ。
スグルに対してももちろんだけど、この二人のそもそものスタンスもとても素敵でした。
大変なことがあっても、いつも笑い飛ばして明るく捉えていく。
それは無理しているわけではなくて、無理矢理作った仮面夫婦でもなくて、スグルのことが大事だから。
最後の、「言葉がなくても届くもの」からも、本当に本当に素晴らしかった。
本当に、言葉がなくても二人の表情だけで全てが伝わってくる。
スグルを思うからこそ強くなれる、明るくなれる、そんなあたたかい夫婦が大好きです。

モモさんが好きです。
本当の家族ではないけれど、もはや本当の家族と何も変わらないくらいの、厳しさと愛情。
ちょっとストレートに思いを言ってしまうけれど、それもスグルのことを思うからこそ。
「言葉はなくても伝わっているでしょう」と優しく諭して、
スグルにおもちゃ作りに復帰してもらいたいという思いを伝え続けて。
とても魅力的なキャラクターだった、モモさんが大好きです。

ナミが好きです。
特にナミのシーンで好きだったのは、親方とおかみさんとツバサさんで話しているところ。
「泣かないで、おばさま。これは、私が幸せになるために、選んでる道だから」
たとえ今はいばらの道でも、その先に幸せが待ってるっていう、確信溢れた力強い言葉でした。
そしてもう一つ。スグルに何度付き合おうかと言われても、「ごめんなさい」とさらっとかわすところ。
本当はナミもそうしたいと思っているのに、スグルが本心で言っているわけじゃないから、投げやりに言っているのがわかるから、
今はまだその時じゃないと耐えて。
最後に思いっきりぶん殴ってからの、抱きついたときの笑顔がきらきら輝いていました。
芯のある強い女の子、ナミが大好きです。

末っ子っぽい雰囲気のノブナガも、
頼れるしっかりもののキスケも、
美しい歌声で癒してくれたツバサも、
いい意味で空気の読めないポポも、
工場の仲間達、みんな大好きです。

マダラが好きです。
マダラというか、もはやただの大さんみたいになって、ストーリー関係なく大暴れしてるところも好きです。
この素敵な、そしてともすればちょっと重くなりそうなシーンもあるお話の中で、あんなにブレずにいられる力量って素晴らしいと思います。
そんな大さんが、じゃなかった、マダラが大好きです。

やしろさんが好きです。
今まで見てきたやしろさん作品は、基本的にどれも「愛とはなにか」を投げかけてくるもので、
でもその中には、ハッピーエンドではない愛もありました。
そして、周りを捨てて本人達が自分の道を選ぶという、残酷なほど美しい愛もありました。
けれど今回は、とってもシンプルに、とってもストレートに、温かく普遍的な愛を描いていて。
こんなに真っすぐなのに、どうして陳腐にならずに、すっと心に染みわたってくるお話を書くことができるんだろうなぁ。
素敵な言葉がたくさんあって、何回も反芻してじっくりと意味を考えたい言葉がたくさんあって、
それなのにこのお話の肝は「言葉がなくても届くもの」だなんて、すごすぎる。
そして、最後の指示だし。
この舞台が素晴らしかった理由はたくさんあると思いますが、中でも一番は、全体としての統一感だなと思っています。
終演後にお友達と話していて、彼女が言ってくれたのですが、全体が一つの交響曲のようだったと。
静かに始まった第一楽章、ツバサが丘の上でしっとりと歌い上げていたところから第二楽章、
そして「言葉がなくても届くもの」から、最後まで一気に盛り上がり駆け抜けていく、最終楽章。
指示出しのところは、まさにこの二時間に渡る曲の、明るくて壮大なフィナーレでした。
こんなに素敵な世界観を作り出してくれた、やしろさんが大好きです。

ライスが、好きです。
こんなに素敵な舞台だと感じたのも、こんなにスグルが愛しく感じたのも、ライスだからこそです。
二人で一人、二人は同じ運命共同体、そんな設定が自然に感じられたのも、ライスだからこそです。
ここまで感情を揺さぶられて、ぼろぼろに泣かされて、最後には晴れやかな気持ちになって、
好きでいて本当によかったと思わせてくれるのは、やっぱりライスだけだ。
どれだけ言葉を尽くしても足りない。ありがとう。
ライスのことが、大好きです。


感じたことをわざわざ言葉にするのは、ともすれば逆に安っぽくしてしまうことで、
特に私みたいな、貧相なボキャブラリーの人間が書く文章は本当に野暮ったくて、
それはわかっているけど、でもどうしても書きたかった。
今になって、宇宙でクロールの感想をちゃんと書かなかったことをすごく後悔しているから、
やっぱり感じたことはその思いのまま、残しておきたかったんだ。
そんな言い訳をしながら、ばかみたいに長々と書き綴ってきてしまいました。
でも結局、この舞台を表現する言葉は、本当はたった二言でいいんだ。


「エクセレント!!」
「ありがとう。」

M×W

2012-05-02 23:42:33 | お笑い全般
他にも書きたいこといっぱいあるのに、先に書いてしまいます第二弾。
こういう番組が始まっていたということを今回知ったのですが、ゲストとゲスト。
ミュージシャンとお笑い芸人が、対談しながらお互いのことを引き出し合っていく番組。
その今回の出演者が、いきものがかりの水野良樹さんと、アンジャッシュの渡部さん。
多分、ここでは全然書いたことないと思うのですが、私はいきものがかりも、アンジャッシュも好きで。
特にアンジャッシュは、私が初めて好きになったお笑い芸人さんでした。
中学2年生の時に、爆笑オンエアバトルを見て初めてネタ番組というものに触れ、そこで一番好きになった人達。
だから、この放送がやるとナタリーさんで知ってからすごく楽しみにしていたのですが、もう!
期待していた以上に面白かった!
そんなわけで、特に自分に響いてしまったところをメモ程度に残してしまおうかな。
本当はいきものがかりのことも色々書きたいのですが、音楽のことはお笑い以上にわからないことばかりなので、
一応渡部さんのお話を中心に。


渡部さんが、今回水野さんと対談するということで、
いきものがかりのことをどう思うか、周りの女友達に色々とリサーチしてきたらしい。
周りの女の子って、誰に聞いたのさ(笑) もうこの時点で面白い。
そして、コイスルオトメの歌詞について、
渡部「女の子って、本当はこういう風に、ちょっと自分が頑張らなきゃいけない恋愛の方が、楽しいものなんだって」
だから誰に聞いたのさ!!(笑) 
あー面白い。


そして、アンジャッシュのコントについての話。
渡部「非常識なことを言わないっていうルール。簡単に言うとボケない」
  「二人が一生懸命やっているのを、客観的に見るとおかしく見えるだけで、常識人がぶつかっている」
水野「そう、本当にそこが面白いなぁと思って!」
  「二人とも、セリフだけをとったらまともなことを言ってるのに、ちぐはぐになっている」
そう、そう!そうなのよ!
渡部さんの言葉に同意している水野さんに合わせて、私もテレビの前で大きくうなづいてしまいました。
まさに、私がアンジャッシュを好きになった理由、そしてライスを好きになった理由もこれ。
外から見たらおかしな世界だけど、その世界の住人たちはいたって真剣にやっているという。
それが好き。だから好き。

その理由として、「マジメな教育を受けてきてしまった」という渡部さん。
はじめは、例えば喫茶店のコントだったら、変な店員さんとそれにツッコむお客さんという感じで、面白ければと思っていた。
でも養成所の先生は、「そんな非常識な店員だったら、普通はお客さん帰っちゃうから、理由がなきゃダメだよ」と。
例えばその喫茶店で待ち合わせしているから離れられない、とか。「コントとしての整合性」
もうまさにそう!
お笑いっておかしいことをやると言っても、それなりに筋が通っていないと、「なんでそうなっちゃうの?」と気持ちが一瞬冷めてしまうんですよね。
だから、ただただボケるだけでいい、というコントは私はどうもあまり好きではないな。
一見気付かれないような、表に出ないようなディテールまできちんと考えているものこそ、自然に見れるような気がするんだよな。


ところが、そんなコントをやっているアンジャッシュだからこそのコンプレックスが。
キャラクターがないことを逆手にとって、誰にでも当てはまるようなすれ違いコントというスタイルを生み出したからこそ、
本人達のキャラクターが見えないから、先輩にかわいがってもらえない、いじってもらえない。
そんな中で、児嶋さんは、ちょっとスカしたキャラを捨てていじられキャラを確立し、
渡部さんは色々な分野に精通し、司会業も出来るようになり、その割に「女の子大好き芸人」というギャップも(笑)
水野「相方さんってどういう存在ですか?」
渡部「まぁ……最近、芸風が荒れてるから……」(笑)
めっちゃ笑ってしまいました(笑)
と言いつつも、本当に感謝していると。
児嶋さんが、全てをさらけ出していじられるようになったからこそ、助かっている。

まさにここが、テレビという場に行けるかどうかという分かれ目なんでしょうね。
(もちろん、テレビに出ることだけが全てではないですが、出たいと思った場合には)
私は前から、「なんでネタが面白い芸人さんがテレビに出れないんだ」とぷんすかしていましたが、
最近になって、その理由がやっとわかってきた気がします。
ネタと、テレビのバラエティ番組では、やることが全然違う。
じっくり自分達の世界を見せられるネタとは違い、テレビでは一瞬でコメントが求められる。
周りにもたくさん人がいる中で、自分がどう立ち回るのか確立しなければいけない。
だからシビアだけど、テレビっていうのは、ネタを基盤にして、その上で新しい武器を持っていないと出ていけない場所なんだろうなぁ。


今回、期待以上に深いところのお話が聞けて、本当に嬉しかったです!
普段からライス大好きで、どうしても彼らのことばっかりになってしまうけれど、
そこから一歩引いて、お笑い全体について考えられて、なんだか刺激的でした。
そして今回、すごいなぁと思ったのが、
この番組、Music×Waraiで、MとWを組み合わせた形が番組のロゴにもなっているんですが、
対談した二人が、Mizuno×Watabeというね!
偶然とはいえ、なんか運命を感じてしまう。
水野さんも渡部さんも、ご自分のことを客観的に見れて、客観的に語れて、
相手の話を上手に引き出されていて、本当に相性がよかったんだろうなぁ。
ずっと聞いていたかった。すごく楽しかったです。