甘酸っぱい日々

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神保町花月本公演「宇宙でクロール・令」 (19/10/5)

2019-10-06 23:30:00 | 神保町花月
***
『宇宙でクロール・令』
19/10/5 14:00~ @神保町花月

脚本:冨田雄大
演出:成島秀和

出演:
石田隼
金成公信(ギンナナ)
ピクニック
光永
松本勇馬(スカイサーキット)
小名木健
天龍
川端武志(コロウカン)
久川みみ子
福永成一郎
ミカちん
倉田あみ
***




本日は神保町花月で、「宇宙でクロール・令」を観てきました。
2009年に、ライス主演で上演されたこの舞台。
今回、オコチャさんが令和の時代に合うよう脚本を書き換えていたのだけれども、大切なエッセンスは全てそのまま残しておいてくれた。
そしてそれに真正面から応える演者の皆さんの熱量が嬉しく、涙が止まりませんでした。

人生に終わりがなく虚無感に包まれたまま生きている「不老不死」と、
心臓の鼓動が一定の回数に達すると、ある日突然時限爆弾のように人生の終わりを迎えてしまう、余命半年と宣告された「半年」。
関町さんが演じた「不老不死」は俳優の石田隼さん、田所さんが演じた「半年」はギンナナ金成さん。
キャストも一新して、演出も全然違って、設定もかなり変えていて、
それなのに、オコチャさんが、「半年」と「不老不死」の2人の掛け合い部分はほとんど変えずに脚本書いてくれたんです。
キャラクターひとりひとりが全力で生きていて、それを見ているのが愛しくて、
クライマックスの全員が思いを爆発させてぶつけ合うところで涙が止まらなくなって、
終演してもすぐに立ち上がれないくらい泣いてしまいました。
話自体が好きだし、オコチャさんが紡ぎ出すセリフが好きだし、それに加えて思い出加点が強すぎて、もう何に泣いてるのかもよくわからなかった。
でもその時間が、本当に心地よかった。

正直に言って、宇宙でクロールを再演すると初めて聞いた時、すごく興味はあったのですが、見に行くかどうかとても迷いました。
それは私の中で、やっぱりあのライスでの半年と不老不死が、とても大切なキャラクターだし、とても大切な関係性だったから。
でも今回見に行って、ライスの時とは二人とも大幅にキャラクターを変えていたので、完全に別物として見られました。
石田さんと金成さんも、自分のキャラクターに合わせた、自分なりの「半年」と「不老不死」を作り上げていらっしゃったというのが伝わってきたから。
自分の大切な思い出が書き換わってしまうのではないか、などというような心配は無用でした。
まあそもそも……関町さんと石田さん……全然ビジュアルが違うし…ね…(笑)(わざわざ言わなくてもいいですね・笑)

10年前の作品だから、ストーリーは正直、あまり思い出せなくて。
半年と不老不死の印象に残るかけあいだったりとか、不老不死が半年の言葉にフッと笑う時の表情とか、
半年が彼女の腕を引っ張って、ギュッと抱きしめるところとか、そういう細かいことしか覚えてなくて。
そもそも私自身、10年前にこの作品の感想を書こうと頑張ったのに、結局まとまらなくて書けず仕舞いだったので、
もはやこの舞台が「とても好きだった」ということしか覚えていませんでした(笑)
でも見ていくうちに、思い出していくんですよね。
そうだった、私このシーンが好きだった。この不老不死のセリフが好きだった、この半年のセリフが好きだったって。
石田さんと金成さんの演技を見つつ、その後ろにどこかライスの面影を感じるときもあったりして、
それでまた胸が熱くなってしまいました。

石田さんと金成さんの演技を生で見れたからこそ、その対比でライスがどうだったかっていうのを思い出すこともできました。
例えば、
『生きるって…なんだ?』
「ドキドキすることだ」
『だったら、俺は死んでるわ』
という、初演でも今回もパンフレットに載っている、この舞台の肝となるかけあい。
この不老不死の『だったら俺は死んでるわ』というセリフ、関町さんは淡々と諦観の表情で言っていたと思うのですけれども、
今回の石田さんは自虐的に笑いながら大声で、吐き捨てるような言い方で。
ああ、こういうところに役者の違いって出てくるんだなあって、新鮮でしたし、興味深かったです。
また、半年が彼女(便宜上彼女と言いますが、ストーリー上では付き合っているのかどうか微妙な存在)に思いをぶつけるシーン。
田所さんはもう、耐えられなくなって、思いが抑えきれなくなって、
彼女の腕を引っ張って自分の方に力強く抱き寄せ、強い口調で言っていたと思いますが、金成さんは優しく抱きしめて、優しく言ってた…。
金成さんの演技びっくりした、このシーンこんな解釈なんだなって。すごく新鮮だった。
……でもここに関しては、ちょっと…思い出補正が強すぎるかもしれない……(笑)
田所さんの恋愛シーンにドギマギしすぎた当時の私が、自分の記憶を改竄している可能性もありますのでご了承ください…(笑)

そして何より。最初はお互いのことが理解できずに素直になれない2人が、徐々に心を開いていき、不老不死がある日、思わず半年に訊ねてしまう。
『なあ…生きるって、なんだ…?』
半年はこう答えた。
「それ、俺に聞く~?(笑)」
もうここが、本当に大好き、今でも新鮮に大好きなライス版のかけあいです。
そして、「それ、俺に聞く~?」の時の田所さんの表情が、本当に大好きだったなあっていうことを、今日思い出しました。
金成さんはもう少しサラっと「それ俺に聞くう?(笑)」という感じで言ってて、これもまた良き。


ちょっと、思い出の話をしすぎてしまったので(笑)、そろそろちゃんと、今回の感想を。
とにかく演者さん達が本当に達者。若手が集まっているのにみんな安定感がすごい。
特に、「半年」にひたすらに思いをいじらしく伝える光永さんはすごすぎる。
見方によってはちょっと鬱陶しく感じられてしまいそうな役を、真っ直ぐな瞳と、切なさを増幅させる独特の声色で見事に演じきっていたと思います。

今日のお昼は、役者さんのファンの方が多かったのかな?
なんとなく神保町に慣れていないお客さんが多めな感じがして、
もっと笑ってもいいんだよって、お客さんの一人なくせに勝手にドギマギしていた私。
なのですが、そんな空気の中で一気に笑いをかっさらい、客席の空気を緩めたピクニックさん、本当にかっこよかったです。


そして最後に。オコチャさんって、やっぱりすごい人だ。
本当に、今になって、この時代になって、改めてオコチャさんの偉大さを思い知らされます。
昔は正直、オコチャさんの脚本、大枠のストーリーは好きでも、セリフが難解だと感じられてしまって、苦手なところもあったんだ。
でも今ならようやく、その意味がわかる。
オコチャさんは昔から、徹底的に、「常識の枠組みから外れた人」のことを描いてきた。
そういう人が主役になる時代が来た。多様な価値観が共存する時代が来た。
オコチャさんは逆に、今まで時代を先取り過ぎていて、ようやっと時代が追いついてきたのだとすら感じられてしまいます。
でも本当にすごいのは、時代が追いついてきたということにおそらくご本人が甘んじておられず、
今回では「新しい価値観についていけない人」のことすら愛おしく描いていらっしゃること。
当然、多様な価値観が認められる時代に、こういう人は出てくる。そういう人すら救っているのだと感じられるところ。
今回、再演という形でこのお話が10年ぶりに日の目を見たわけですけれども、
きっとまだまだ、オコチャさんの作品が求められる場があると思う。
そういう人達にも、もっともっと届いてほしいなと思わされるのでした。


ライスいない舞台見ながら、
ライスのことが大好きだって改めて感じて、立てないくらい泣いて、
家に帰ってきても脚本読みながらまた泣いているなんて、私、こんなにライスのこと、好きだったんだなぁ。

大好きで仕方なかった舞台が、10年後に再演されて、
演者さんやスタッフさんたちも大切にこの作品に向き合ってくれて、なんと台本まで購入できるんだよ。
昔の私に教えてあげたいな。
生きていればいいことあるよ。
生きてきてよかった。
そしてオコチャさん、脚本書き直して再演するチャンス、数ある作品の中から、宇宙でクロールを選んでくれてありがとうございました。
ありがとうの言葉じゃ足りないくらい、ありがとうございました。



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