甘酸っぱい日々

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神保町花月『ロシュ・リミット ~奇抜探偵・四条司の婉然たる面影~』 (7/11~17)

2014-08-13 02:14:50 | 神保町花月
***
『ロシュ・リミット ~奇抜探偵・四条司の婉然たる面影~』 
7/11(金) 19:00~
7/17(木) 19:00~ @神保町花月

脚本:福田晶平
演出:足立拓也

[出演]
 四条司:文田大介(囲碁将棋)
煙山正義:根建太一(囲碁将棋)
田村宗助:好井まさお(井下好井)
 竹下大:井下昌城(井下好井)

南雲誠一:関町知弘(ライス)
蓮見理士:田所仁(ライス)
相田和彦:安部浩章(タモンズ)
 崎本蒼:大波康平(タモンズ)
立涌華子:山崎ケイ(相席スタート)
日下部渉:山添寛(相席スタート)
南雲亜希:松田百香


[あらすじ]
死体に数字を刻む殺人鬼「ナンバリング・キラー」の犯行と思われる四人目の被害者が発見された。
刑事の煙山からの要請を受け、私立探偵の四条は捜査に合流。
一方、天文学者の南雲は、ある個人的な理由から事件の謎を追う。
二人の運命が交錯する時、事件は思いもよらない展開を迎える!
***


神保町花月が誇る大人気シリーズ、奇抜探偵の7作目。
初日と千秋楽に行ってきました。
このブログにおいて、奇抜探偵シリーズの感想をちゃんと書いているのは、3作目の「踊る脳」だけなのですが、
このシリーズが大好きで、何気にそれ以降全ての作品を見に行っています。
そんな奇抜探偵に、ついにライスが出てくれるって知って、もう嬉しくて仕方がありませんでした。
最初に言っちゃいますが、脚本の福田さん、本当にありがとうございました。

私が本腰入れて神保町花月の感想を書くのがなんと2年ぶり(!)なので、色々変わっちゃったことにも全然気付かなかったのですが、
最近の神保町楽屋裏ブログって、もう千秋楽後に、あらすじを書かなくなっちゃったんでしょうか?
私は今まで、「あらすじは楽屋裏ブログで!私は感想だけ!」という雑なことをやっていたのですが、
今回はそれもできないということで…。
いつも不親切で申し訳ないのですが、あらすじをまとめるのは他の方のブログとかにお任せして、
私は感想のみ、ざくざくと書いて行きたいなと思っております。
よろしければお付き合いください。



奇抜探偵に限らず、推理物というのはだいたい、何かしらの違和感が事件の真相に関わっていることが大きいと思っているのですが、
今回私が抱いた違和感は、妻を殺された南雲先生についてでした。
上手く言えないのですが、私は初めからどうも南雲の行動や言動について引っかかることが多かったんです。
それは、南雲が亜希が殺害されたと知った時に、
「なぜ亜希が死ななければいけなかったのか…」と言っていたところからでした。
私はここで、
「いや、なぜも何も…。犯人は無差別殺人者なんだから理由なんてないんじゃない…?」
「たまたま亜希がタイミング悪く殺されてしまっただけじゃない……?」と思っていて。
そこにどうしてこだわるのかわからなかった。
でも、それこそが今回のストーリーの肝になっていたのかもしれない。
亜希が本当にナンバリングキラーに殺されたのなら理由はない。
でもそうじゃないから、だって本人がナンバリングキラーだから、そりゃ殺される理由がわからないわけだ。
南雲は、亜希を殺した犯人を突き止めようと動き始めるわけですが、
考えてみれば彼は一度も、「連続殺人犯、ナンバリングキラーを探し出す」とは言っていない。
「亜希を殺した犯人を探し出す」としか言っていない。
だって彼は、ナンバリングキラーは亜希だと知っているから。
つまり、四条と南雲は同じ事件の犯人を探そうとしているように見えて、実際は違ったということだ。
お話全体を通して、論理的に考えようと思えば、他にももっときれいに事件の真相に迫れるヒントは色々あったとは思うのですが、
私にとってはこの違和感を解明していくことが、一番真相に近づいたかなぁと思うのでした。



関町さんの今回の役は、天文学一筋で生きてきて、他人に興味がなかった大学教授。
初めて心惹かれた女性と結婚するが、その最愛の妻を殺されてしまい、犯人を見つけ出そうと動き出す。
自分発信でボケる部分がほぼなく、ひたすらシリアスに進んでいく。
クライマックスのシーンで、四条にナンバリングキラーは亜希だと指摘され、
日下部に「自分の奥さんが殺人者呼ばわりされてるんだぞ!なんとか言えよ!」と詰め寄られた時の、
「君は、亜希が殺人者だったら愛せないというのか…?」が最高に最高に素晴らしかったです。
本当に。穏やかに狂った役をやらせたら、この人の右に出る人はいない。
対象的に、四条に「あなたは酔ってすらいない、酔ったふりをしているだけだ」と言われた後に、
「もうやめてくれ!!」と全力で叫ぶシーン。
千秋楽ではその箇所で、涙が一滴はらりと落ちて光って見えたのを見て、
なんか、改めて言うことでもないんですが、
関町さんって本当にすごい人なんだなぁ、と呆然と思っていました。
ただセリフを入れてるだけではなくて、ただ動きをつけてるだけではなくて、
役を自分のものにして、役そのものの人生を引き受けて生きている感じ。
鳥肌が立つほどの気迫でした。
ここまでガチな関町さんを久しぶりに見ることができて嬉しいです。ビリビリ来ました。

一方田所さんも、ずっと蓮見のような役をやりたかったと明かしただけあって、振り切ったサイコな役を完璧にやってらっしゃいました。
サイコなんだけども、短絡的ではなく、妙に理屈をこねくり回している感じがさすが教授っぽくて、それが嫌味を増している。
「殺人に理由があるのが問題だ」「理由ができた時点で純粋性を失ってしまった」などと狂った理屈を平然と述べる感じ。
クライマックスの、自分が亜希を殺したんだと告白するところも狂いっぷりも素晴らしかったですが、
私は個人的には、かなり序盤でライス2人だけで進めるところの狂いっぷりもヒリヒリしました。
南雲・蓮見研究室で、ぼーっとしてる南雲に蓮見が声をかけ、話をするシーン。
南雲が亜希を殺した犯人を探し出したいんだと語りだす。
ここって、蓮見はとてもいい人のように南雲と話しているけれど、実は蓮見こそがその亜希を殺した犯人なんだと知ってから見ると、
本当にぞくぞくしますね。なんて恐ろしいんだろう。
自分が犯人なのに、平然と「君はその犯人を見つけ出したとして、一体どうしたいんだ?」と聞けちゃう神経。
蓮見のサイコな感じを一番実感したのは、2回目にこのシーンを見た時かもしれないな。
しかしもう、ストーリーとしてもそうですが、
舞台上にライス2人だけで、一切笑いどころがないまま5分間シリアスに真剣に芝居を進めていくのが見れたというのは本当にしびれました。
福田さん、本当にありがとうございます(2回目)。


ここからは、ストーリーや演出の面で好きだった点や考えたことを、ざくざく箇条書き。


・シリーズ通して役柄が変わらない四条・煙山・宗助・竹下の4人は、見る度にさらにさらに役柄が染み込んでる感じがしてとてもいいですね。
 いつ見ても、四条の美しくて優雅な所作を見ると、あーきばたんに来たなぁって思う。

・今回の煙山の風貌や雰囲気が、かなり踊る脳事件の時に寄せて来ているような感じがした。
 きばたん内の時系列の中でも、今回の事件はかなり踊る脳に近い時期だったということかしら。

・今回の演出には赤いフラフープが多用されている。
 その人物の話をしている時に、フラフープを顔の前に向ける。スポットライトが当たるような感じを表現しているように思えた。
 そしてそのフラフープをくぐると、その人物が回想の中で動き出す。

・フラフープ以外にも、回想シーンや、時系列が違うシーンを同じシーン内で表現していて、
 その時空さえも取り入れて演出として美しく仕上げていらっしゃる足立さんの手腕に脱帽です。本当にすごい。

・これを文字で書いても何も伝わらないことはわかっているのですが、南雲が蓮見から聞いた話(研究室の男性陣がみんな亜希を好きだった)というのを一人でまとめた後、
 「でも、これが本当に殺す理由になるのかなぁ…」とつぶやいている時に、その男性陣が全員南雲の方を向いている演出がとても好きでした。
 感情を持たない3人が南雲を見つめている様子に、なんだかドキっとした。

・警察を毛嫌いしている南雲が、研究室に四条や煙山達が来て、自分が電話に出ていたらあなた達が来てもいいとは言わなかった、というシーン。
 その南雲のセリフを受けての、「今日はついてるようです」と笑顔で返した煙山がとってもよかった。
 クライマックスシーンで、南雲の車を緊急解錠させたら血だらけの白衣が出てきたところでの、
 「何もなかったら懲戒モンだけど、賭けには勝ったみたいだな!」も好き。
 こういう、「警察の余裕」みたいなものを表すシーンが板についてるところで、煙山の成長も、そして太一くんの成長も感じます。

・南雲が蓮見を殺すシーン、南雲の後ろに亜希がいて、2人は同じ動きをしながら“Ⅴ”の数字を刻むんだけど、
 南雲は数字を刻んだあと震えるように後ずさりしているのに対して、亜希は楽しそうにさらに何度も何度も刺している。
 これが、純粋な殺人者とそうでない者を、切なくも鮮やかにくっきりと切り分ける場面。

・全てを打ち明けた南雲が、白衣とナイフを亜希に渡す場面。
 この箇所の一番の目的は、回想シーンで使った白衣とナイフをハケさせなきゃいけないというところで、それなら暗転にすればいいのに、
 演出の足立さんはそうはせず、あえてこのシーンを作った。
 ここの演出については、色々な意見や色々な感じ方があるだろうなと思います。
 私個人的には、南雲が亜希に、文字通り「自分の荷物を渡す」という意味合いだったのかなぁなんて考えています。
 殺人者を愛してしまったという葛藤、
 愛する人をを殺された苦悩、
 自分が犯人を捜し出してやるんだという重責、
 そういう、南雲が背負っていた荷物を、やっとおろして亜希に渡すことができたというところを、表しているように感じました。
 笑顔でそれを受け取った亜希は、「もう苦しまなくていいよ、ありがとう」とも言っているように見えて。



そして、もう一つ。
奇抜探偵シリーズは、それぞれの作品が基本的に一話完結なので、その作品だけみても十分に楽しめます。
ですが、奇抜探偵を見る上で、「踊る脳事件」が最後に来るのだ、ということを考慮に入れると、
作品の深みが更に増すように感じます。

わたくしなんぞが改めて説明することでもないのですが、一応整理をさせて頂きます。
奇抜探偵は、もともと2011年に上演された1作目~3作目までの3部作が基本となっています。
その3部作の最後である「踊る脳事件」は、煙山が罪を犯してしまい、その謎を四条が解くという内容。
その後、2012年に四条の助手である宗助を主役にした、「宗助スピンオフ」と呼ばれる4作目が制作されるのですが、
4作目以降の作品は、奇抜探偵の時系列では全て、「踊る脳事件」が起こる前の話と考えるそうです。
脚本の福田さんも、踊る脳が奇抜探偵の完結編だと明言しており、それ以降の話を作る予定はなさそうです。
詳しく知りたい方は、ファンの方が作成された、こちらの「奇抜探偵・四条司wiki」をご覧ください。
すごく丁寧にまとまっていてありがたいです。


その踊る脳事件。
煙山は、愛する人を殺害された憎しみから復讐することを誓う。
今まで四条に全て任せきりだったが、この事件だけは自分で片をつけなければいけないと突っ走り、
四条は煙山を止める事ができなかった後悔に苛まれる。
しかし、実はこの踊る脳事件の本編の中では、煙山がどうしてこんな事件を起こしてしまったのかという独白が大半を占めていて、
その煙山に対して、実のところ四条はどう思っているのか、というのは、ほとんど明かされません。
四条の想いが明かされるのは、踊る脳以降の作品。
例えば、第4作目では、宗助は自分の好きになった人が殺人者ではないかという疑念を抱きます。
そこで宗助は、四条に尋ねる。
「自分の大切なひとが、犯罪者かもしれないと思った時、どうしますか?」
それに対して四条は、
「万に一つでも、そうではない可能性を探る」と答えます。
結局、宗助の好きな人は犯人ではなかったのですが、
対照的に四条の大切な人=煙山は犯人となる。
最後まで相手のことを信じ続ける2人ですが、宗助は報われて、四条は報われない。

そして今作。
自分の愛する妻を殺した蓮見を、復讐心から殺した南雲。
彼に、四条は厳しい現実を突きつけつつも、優しく語りかける。
この内容が、まさに、婚約者を殺されて復讐に走った煙山に向けた言葉としてもおかしくないくらい、オーバーラップする。
「愛する人を失いたくないという怖さ」
  →実際に愛する人を失って狂ってしまった南雲、煙山
「程度の差こそあれ、復讐したいという気持ちは不思議ではない」
  →アキを殺した蓮見に復讐する南雲、透子を殺した明子に復讐する煙山
そして最後の、
「あなたはもう罪を犯してしまった。その十字架は消えないが、その罪と真摯に向き合う限り、
 やり直す機会はきっと訪れるはずです」
……踊る脳の時には明言しなかったことだけれど、
同じことを煙山に対しても、思っていたのでしょう。
ただ、この時点では、この四条の言葉を近くで聴いている煙山も、
そしてこの言葉を発している四条自身も、
その想いが自分に向けられるものだとは思っていないし、自分が煙山に向けるとも思っていない。
2人がこれから破滅の道へ向かって行くことを、この時点では本人達は知らず、
知っているのは観客だけなのだ。
それが本当に本当に、悲しくて切なくも、ワクワクが高まる。
こういうところが、年月を重ねて丁寧に築き上げてきた土台があるからこそ、表現できるものなのかなと感じました。


福田さんのツイートによると、残念ながら奇抜探偵は次回作で本当に最終作になってしまうようです。
今回初めて来た人も、また、今まで行ったことない人も、大丈夫です!
全作見ていなくても楽しめます!
私も全作見ていません!(笑)
全作見ていないのに偉そうなこと言えませんが、でも、少しでも興味を持っている人はぜひ見に行って、
このあらゆる方面から丁寧に積み重ねてきた4年間の集大成を、お祝いしに行って頂きたいなと思います。


奇抜探偵シリーズの魅力を人に伝える時に、その魅力を表す要素やフレーズはたくさんあります。
本格的ミステリーが好きな人も楽しめる謎解きストーリー。
観客も謎解きに参加できて、臨場感あるゲームを体験できる。
足立さんの繰り広げる、計算され尽くした美しい演出、徹底された世界観。
そこまでシリーズものが多くない神保町花月の中で、3年間続いている7作目という大人気シリーズ。
たくさんありますけれども、あえて最後に語らせてもらうとすれば、
「それが囲碁将棋だから」って感じでしょうか。
奇抜探偵では、現実社会で囲碁将棋というコンビを組んでいる文田と根建が、
どこかこことは違う世界だけども、探偵と警察だけども、四条と煙山というコンビを組んで動いている。
シリーズを進めて作品を重ねるごとに、四条と煙山は本当に、パラレルワールドで生きてるんじゃないかって気がしてくる。
それくらいの圧倒的な存在感と世界観、説得力があるんだよね。
いつも、エンディングトーク終わり、演者がハケる時に、
最後囲碁将棋の2人だけが舞台に残って改めてお辞儀をする、その様式美にグッとくる。
2人の身長が同じで、メンバーの中でも一際目立っているのが、世界観をさらに引き立ててると感じます。
今回のエンディングトークでも、自分達の演技力を自虐しているような言葉も少しあったけど(笑)、
奇抜探偵は、四条と煙山は、
それが囲碁将棋だから、ここまで魅力的なんだと、改めて思ったのでした。