Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

ヘビの共食い――小玉川でのこと(3)

2007年07月05日 | 
 小玉川で演奏仲間のホセ氏がヘビの共食いの話を語ってくれた。話の内容は、ざっとこんな感じである。
「二匹のヘビがおりました。それぞれのヘビが、相手の尻尾を口に入れて、それを同じペースで飲み込んでいくわけです。少しずつ、少しずつ・・・。だんだん前にいるヘビの体は、後ろのヘビに飲み込まれていきます。少しずつ、少しずつ・・・。そしてとうとう、お互いの頭だけが残るまでにそれぞれ相手を飲み込んでしまったのです。そして最後に、お互い大きな口をあけて・・・・パクッ。相手をもののみごとに飲み込んでしまいました。その瞬間、二匹のヘビの姿が消えてしまったのです。」
 実に不思議な物語である。両者は両者に飲みこまれ、この世から消える。「相撃ち」、「刺しちがい」ならば、両者は同時に倒れるが、ヘビは同時に消えて果てるのだ。しかし、冷静に考えてみればそんなことがありえるわけはないのだが、なぜか私はその反証をする気になれないのである。
 ふつう二者には「力関係」が存在する。上下関係や権力関係の存在しない二者などはありえない。だから、世の中のさまざまな二者は常に争い続け、時には「喰うか、喰われるか」の関係となり、場合によっては無残な結果を生む。しかし二匹のヘビには力関係が存在しない。まるでコンピュータ制御された精密機械のように、同じ速度で相手を飲み込んでいく。世の中に対立する二者のすべての力関係がもし対等であるのならば、バリの魔女ランダと聖獣バロンが繰り広げる終末のない永遠の戦いを始めるか、刺し違えて相互に斃れるか、はたまた、争いをすること自体に意味が見出せなくなり、その状態のまま、何ごともなく両者は存在し続けるかもしれない。しかし、互いに核兵器を持てば、本当に人は殺しあわないのだろうか?
 二匹のヘビは相互に自分の姿を消滅させ跡形もなく消え去る。争いがあったという事実すらデリートされてしまう。そのプロセスはまるで夢の出来事のようだ。つまりは、ありえないことなのである。両者に力関係が存在しないことなど・・・。ヘビはきっと超自然的存在が一時姿を変えた仮の姿だ。そしてそのヘビたちは私たちを嘲笑っているだろう。
「おまえたちにはできないだろう?人間は決着がつくまでずっと争い続けるのだから・・・」
小玉川で私は、確かに自分が「人間」であることに気づかされる。