Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

マタギの文化――小玉川でのこと(1)

2007年07月03日 | 
 小玉川は小さな集落である。小学生は今や3人だけで、中学校は昨年、そして今年度で小学校も閉校になるほどのいわゆる過疎の農村だ。しかしこの村、マタギの村として有名で、村の男たちの一部は、冬にはマタギとなりクマ、ウサギ、ハクビシンなどの獲物を狙う。狩猟はこの地域のマタギ文化、山に対する信仰と深く関わっており、特にクマの狩猟をめぐるさまざまな儀礼は民俗学者による研究の対象になっているほどだ。
 この村にくると、この村の一番奥にある(と思われる)、奥川入という民宿に泊まる。民宿は周囲を田んぼと森、そして山々に囲まれている。この家のご主人、ご隠居ともにマタギである。といっても見た目はふつうの気さくな「オジサン」と「オジイサン」である。二人とも熊の話になると、どうにも止まらなくなる。「今年は、オレが撃った熊、転げ落ちたんだけどさ、それが当たったんだか、当たんなかったんだかわかんなかったんだよな・・・」なんてことから始まり、私たちのために冷凍保存している貴重な熊肉を使って、熊汁を作ってくれるのである。
 この民宿には、えらーい大学の先生が調査に来たりするそうだ。このへんの話になると、なんだか民族音楽学者である自分としては、「他人事」とは思えなくなってくる。酔っ払ってくるとオジサンたちはこんなことを言い始める。
「よーく先生がきて、いろんなこと聞かれるんだけどよ、なんだか、わかんねえんだよな。俺たちも昔からやってきているだけだしさ。でも、このへんの文化は貴重らしいよ。」
 なんと素直な語りであることか・・・。まさに文化人類学で学ぶ「儀礼の慣習的行為の実践」ではないか!こうやってインフォーマントが調査者に正直に語っていれば、あるいは、この語りを聞いた民俗学者がこれを素直に受け止めれば、現在の「民俗誌」が描けることだろう。
 だけど、マタギのオジサンたちは、たぶんノートパソコンとICレコーダーを持ってきた偉そうな民俗学者を前にすると、がちがちになって、古い記憶を必死にたどって、「語って」しまうのだろうな、と思うとやや微笑ましい。やっぱり、村のオジサンたちの本音は酒を飲まないと聞けないものである。